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中途半端な存在1

エル視点です。


 昼だと言うのにカーテンは締め切られている。ランプに照らされる室内はほの暗く、揺れる炎に合わせて影も揺れる。

 そんな中でぼくは鏡の前で立っていた。衣服は下着以外身につけていない。とは言えど、ところどころに包帯が巻かれてて肌の露出は低い。それでも暗闇の中に浮かぶ、白い肌は自分の色を際立たせていた。


 鏡に映る、赤茶の髪に、光の加減で今は赤に見える瞳、そして白い肌に伝う赤、その全てにぼくは嫌悪を感じていた。


 赤が嫌い。あの呪われた家を思い起こさせるから。

 赤が嫌い。人の命が消える時に流れる血の色だから。

 赤が嫌い。大切なものを焼き尽くした炎の色だから。

 赤が嫌い。自分の犯している罪の深さを示しているから。

 赤が嫌い。自分の中途半端な存在を浮き彫りにするから。


 鏡の中の自分を睨みつける、自分の姿なんて大嫌いだ。自分なんて大嫌いだ。赤い部分も赤じゃない部分も大嫌いだ。


「ははっ」


 思わず漏れ出た乾いた笑い声でさえも中途半端だ。高くも低くもない。女性的とも男性的とも取れない声。周囲の人間はこの声を美しいと褒めるが、ぼくはこの声も大嫌いだった。


 こんな声よりぼくの妹でいてくれる優しい少女のはっきりとした声の方が、その弟である同じく優しい少年の無邪気で明るい声の方が、言葉遣いは荒いけど根は優しい友人の声の方が、ぼくにとって美しく感じられた。


 彼らは確固たる自分を持っている。中途半端な自分とは違って、自分の立場を自覚して日々、必死に真っ当な道を生きている。


 そんな彼らと一緒に過ごせることはぼくの身には余ることで、彼らに罪悪感を感じる。

 彼らと共に過ごせて、幸せだ。でも、ぼくは本来そこに居ていいような存在じゃない。


 ぼくは嘘つきだ。それはそれは重大な隠し事を、彼らにそれぞれしている。


「ごめんねフェイス」

 妹分の名を呼ぶ。あの子はぼくのことを信じているのに、ぼくはあの子を裏切っている。


「ごめんねロキ」

 弟分の名を呼ぶ。何も知らないあの子にぼくは真実を教える気など毛頭ないんだ。


「ごめんねカイ」

 友人の名を呼ぶ。真っ直ぐで綺麗な君の横にいるぼくは、大変おぞましい存在なんだ。


 指先で触れた鏡の表面は冷たい。映った自分の身体は相変わらずで、それはまるでぼくのことを糾弾するかのようだった。


「知ってるよ。ぼくは産まれ方も生き方も全て間違えたって、……でもね」


 右手を握りしめて、鏡に映った自分を思い切り殴りつける。


キラキラとランプの光に照らされながら破片が飛び散る。


「それでも、まだぼくは死ぬ訳にはいかないんだ」

 拳から流れるその色はやっぱり赤で、ぼくを嘲笑っているかのようだった。



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