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うんにょ

作者: 赤坂人物

注意⚠️

・この物語はフィクションです。

・登場人物の台詞には何の裏付けも根拠もありません。

・また本タイトルは多くの人の目に付くことを考慮したものであり、本編にてタイトル上の表記はございませんのでご了承ください。

 基本的に便とは、茶色く、臭く、一般的には我慢できないものとして定義されている。便秘と呼ばれる者だけが文字通りその体に便を秘めることができるが、その代償は大きい。ある者は痔という症状に悩まされ、また酷い者に至っては手術という名の財布と時間の高額出費に悩まされることとなる。


「俺昨日で記録更新したんだよ」

 得意げな表情で友人はそう言った。「何の?」とこちらが聞くのを待っているのが明らかだった。

「何の?」

「うんこを我慢した日数」

 その瞬間さっと周囲の視線が集まった。

 駅前の小さいハンバーガーショップの一角で、何故居たたまれなくなっているのが自分なのか。お前が居たたまれなくなれ。

 恥ずかしげも無く堂々と言って見せた友人に、よどみの無い友人の瞳に、こう言ってしまうのはとても気が進まないが、この悪意の無い爆弾魔から皆を守れるのは自分しかいない。

「やめなさいよ、こんなところで。飲食店でする話じゃないでしょ」

「ジャンクフード食ってる奴なんて皆うんこ好きだろ?」

 フッと自分の口から空気が漏れた。つり上がった口角を手で覆う。

 こいつの言葉は人を洗脳する。友人を止めるという責務を忘れそうになる。いっそここに居る人全員洗脳されてしまえばいいが、一部の人間が拒絶反応を起こし、店員というワクチンを打ってくる可能性がある。もしそうなれば出禁は免れまい。

「やめろよ皆食ってんだから」

「うんこを?」

 フハッとさっきの倍は近い空気が声を乗せてバカみたいな音量で出ていった。続いて肩が小刻みに揺れ始め、原形を保てなくなった顔面を下を向いて隠した。

 終わった。早くも周囲の信頼は完全に地に落ちた。責務を果たせなかった負い目に加え、動物園から逃げ出したうんこの猛獣が人々に下品と不道徳の厄災を振るう絶望が、この身には耐え難かった。

「確かにうんこ食ってるときにジャンクフードの話はまずかったよなぁ」

 笑うのを堪えようとした口から『ヒ』が高速で発射された。下を向いて発射された三発ほどの『ヒ』は卓上のポテトに向かって放たれ、ポテトが金切り声を上げた。

 友人はそのポテトを口に運んでこう言った。

「うんこって不味いと思ってたけど、案外塩味が効いてて美味いな。何本でもいけちゃいそう。」

 バシバシと机を叩いた自分の音が一番大きいことにも気づかず、恥ずかしげも無くポテトを揺らした。

 もうこの暴走機関車は止まらない。人の弱みにつけ込み鳴らす茶色の汽笛は、その人の理性を奪う。人目を憚る心を忘れ、自分をまるで小学生だと錯覚させる。

 公然の場だという感覚を海の底からサルベージ。平常心を取り戻す。そしてサルベージした公然の場だという感覚を装備。平常心は形を変え羞恥心となる。そして羞恥心と公然の場だという感覚を融合!出でよモラル!

「お前ほんといい加減にしろよ、追い出されたらどうすんだよ」

 しかし危機感を感じさせない友人のニヤけた表情が信じられなかった。今の攻撃にピクリとも反応しなかったのだ。実際にうんこを体内に抱えているとは思えないほどの余裕を感じさせる。

 友人はその表情のまま暫しポテトを見つめていた。やがてしなしなになったポテトを一つ摘まむとこう言い出した。

「これ快便ね」

 何を言い出すのか想像が付かなかった。笑わせにくることだけは分かっていたものの、その時自分は、笑わないようにするよりも何が来るかを楽しみにしていたのだと気づいた。

 結果、ドストライク三振バッター脱糞。

 肺の中の空気が全部出た。一周回って声には乗らず、ただただ肺の中の空気が一瞬で消えた。その空気はまるで、宿題を出し忘れたままホームルームを終わらせてしまったときの生徒のようだった。あまりの速さに肺は気づけず、ぺしゃんこになっても息を吐き続けようとしていた。時間差に気づいて息を吸うまで、もはや苦しかった。

 そして自分は友人のうんこ話に夢中になっていることに気がついた。他の客や店員さんなんてもう眼中になく、次の言葉が待ち遠しかった。

 しかし、友人の表情は豹変した。

「どうした?」

 あまりにも苦しそうな表情に、こちらも不安になりそう訊ねると、うんこの話してたせいでうんこがしたくなってきたと言い始めた。

「そういえばお前何日うんこ我慢してんだよ」

「昨日で二週間、今日で半分」

 半分とは月の半分ということだろう。それは耳を疑う数字だった。こいつは満月が新月になる十五日間、欠けた月の破片を毎日出さずにその腹に溜め込み続けてきたということだ。

 こいつは今、月を抱えている。

 わかりやすく言えば十五人分、通常の十五倍と予想される量のうんこを、こいつは一人の腹で抱えているのだ。

「爆弾じゃねーか」

 友人に早くトイレに行ってこいと言った言葉が、今日で一番周りを気にしない発言だった。ハンバーガーショップに一つだけあるトイレに、十五人が一斉にうんこをすると言っても過言ではない状況だ。だがそれを店に迷惑だから我慢しなさいと、十五人分の便意を催してる友人に果たして言えるのだろうか。

 言えるはずがない。何故なら友達だから。

 うんこで笑わせてくれた友人がうんこで苦しむなら、それを支えるのはうんこで笑ったその友だけだ。

 友人が帰ってくるまで、幾らでも待とう。


 基本的に便とは、茶色く、臭く、一般的には汚い物として定義されている。そのためこのワードを多くの人が嫌っているのは事実である。しかし会話の中で用いれば人を笑わせることがあるのもまた事実。とある界隈ではその事実故に、このワードで人を笑わせてはならないという暗黙のルールが存在する業界がある程だ。


 それは扱いの難しい爆弾である。

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