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銀の浄化  作者: コゲタ野菜
始まりのセイル
19/27

番外編 プロローグの人の平和な日々

時間軸が、本編ともこれまでの番外とも違います。


気をつけてお読みください。

 ゲート官の仕事を終え、自宅へ帰宅。いつも通り俺は寝室として使用している部屋へ荷物を置き一息つく。


 何事も無く今日もまた一日が過ぎてゆく。


 この淡々とした日常、若干の飽きと憂鬱を感じはするが、実にすばらしいことだ。


 そんな、呟くのも恥ずかしい言葉を脳内で再生させながら、労働を終えた自身に対する御褒美兼、翌日への糧である夕飯を採るために、この一人暮らしにしては広すぎる一軒家の厨房へと足を運ぶのだった。


 ・・・・・・味噌汁は無事だろうか?


 最近暖かいから不安である。







「駄目ですよガラスさん。しっかりと野菜もとらないと。肉と酒と調味料しかないじゃないですか」


 広すぎる厨房。この国では珍しくは無いが、高価なガスコンロが6箇所も設置されている。どう考えても多すぎる。


 まぁ、設備だけなら飲食店など余裕で開けるだろう。保管庫、巨大な冷蔵室なんてものがあることでこの家がどれほどの規模か察してくれるとありがたい。


 俺はそんな人によっては喉から手が出る代物を持て余しているわけだ。


 アレだ、俺がついていないのは勿体無い化けからの罰なのだ。きっとそうに違いない。


 食事つながりだ。きっと彼、いや性別が在るかすらわからんが、俺の悪行が管轄外とはいえ視界の隅に映ってしまったのだろう。



「う〜ん、聞いてますかぁ?」


 ・・・・・・そろそろ現実を見るか。



 厨房へ向った俺の目に映った光景は、黒髪の空き巣がさも我が家にいるかの如く堂々と保管庫を漁っている。といったものだった。


 おかしいな、ちゃんと戸締りはしたのだがと今朝の行動を念のため振り返る。


 うむ、問題は無いはずだ。


 まったく、よく侵入される家である。


 呪いをかけられているのではなかろうか?


 当の空き巣はと言うと、変わらず漁っていた。


 ごそごそと中を確認するたびに、肩にかからない程度に切りそろえられた黒髪サラサラと揺れる。


 まったく俺を気にしていない。いや、話しかけてきたことを考えると気を向けてはいるのだろう。


 しかし、さもここにいて当然みたいにこいつは居る訳で。


 こういうのを我が物顔というのだろうか? 


 ん〜? なんか違う気がする。


 まぁいい。


 とにかくだ。


「やかましいわ」


 お前は俺の母親か何かか? 


 そんな、俺の言葉にまったく気にした様子も無い空き巣は駄目な身内を見るような目を俺に送りながら、マイペースに言葉を続ける。


「まったくもう。仕方が無いなぁ。私用の食料から分けるとして、後で買出しに行かないと」


 つーか、おーい。何やってんのこの人? 


 いや、確かに初対面ではないが、間違ってもこんな間柄じゃないんだけど。


 ちょっ、てか保管庫になに詰め込んでるのコイツ。


 泥棒じゃなくてサンタだとでも言うのか。俺は断じて認めんぞ。


 まぁ、サンタなんてコイツは知らないかもしれないが。


「何やってんだよお前・・・・・・つーかどっから沸いて出た」

「失礼な。人を虫みたいに言わないでくださいよ」


 うっせーよ。


 ・・・・・・つーか、不法侵入者に失礼などといわれる筋合いは無い。


「うるさいぞ、この黒髪空き巣。家族ないし、保護者が泣いてるぞ。つーか常習犯か? 速攻で憲兵に連れ出だしてやろうか」


 いやまぁ、俺も一応憲兵に分類されるんだろうが。


「ちゃんと正門から入りましたよ。開け方は内緒ですけど。それに」


 正門から入ってもそれは犯罪(ピッキング)ではなかろうか?


「ちゃんと相手は選んでいるので安心を」


 フンッ!!

 ――ダァン!!


「あぶなぁっ!! コ・・・・・・殺す気デスカ?」


 振り返るように体を反転させ、自重を十分に込めながら振り下ろした蹴りが虚しくも空を切り我が家の床で我ながら見事な音を鳴らした。


 綺麗に避けといて白々しいやつだ。当たる気がしねぇぞ。


「やかましい! そもそも何をどう安心しろと、つーか喧嘩売ってるだろコノヤロウ。相手選んでも犯罪は犯罪なんだよ」


 空き巣は先ほどの事が無かったかのような飄々とした顔で口元に手を当てて考える仕草をし――


「ほら、ばれなければ犯罪ではないとか」


 ――ニコニコと笑みを浮かべて返してきやがった。


「俺に現行犯で目撃されてんじゃ――あぁもう! 何が目的だ。話がすすまねーよ!」


 空き巣は、待っていましたと言わんばかりにきらりと目を輝かせる。


 嫌な予感しかしない。


「2週間ほど厄介になり「却下」ひどい!」


 内容が読み取れる程度まで聞いた俺に感謝するべきだ。


 てか、アホだろこいつ。


「なんで、お前をしかも、数年前に俺を暗殺しようとしたヤツを泊めねばならんのか簡潔にわかりやすく言ってみろ」


「えっと、ほらそれは悪かったなぁとその数年間の間反省しましたので水に流す方向で前向きに検討していただきたく「うっせーよ」・・・・・・む〜」


 簡潔にと言っただろうが。


「遊びにきて良いって言ったじゃないですか!」


 逆ギレ!?


 誰が言う――


 ――ん? あぁ・・・・・・言ったっけ? そんなこと。


 あれだ、ストックホルム症候群にでも罹っていたに違いない。


 短時間でもかかるのか? アレ。


 しかし、そんなもの認めてたまるか!


「幻聴だ、妄想だ。お前はきっと錯乱してたんだよきっと。つーか忘れてくれ」


「幻聴でも妄想でも錯乱でも捏造でもありません! 良いじゃないですか、同い年の友人と遊びたいんですよ!」


「意義あり!」という幻聴が聞こえそうな勢い、そして、若干ぶーたれた様子で文句を言ってくる。この体と同じくらいの年のはずだが、その様子はとても幼く見えた。


 ガキかコイツ・・・・・・。


 つーかツッコミ待ちか? こいつとは今を含めてもまだ二度ほどしか会ってないんだが。


 小さくため息をつく俺。それと同時に苦笑する。


 しょうがない。


「しゃーない。空き部屋をテキトーに使え。ただし、条件がある」


 あぁ、もう目が輝きすぎだ。無邪気な顔しやがって。


 あのときの奴と同一人物なのか疑いたくなるな。


「ハイ!」


 元気のいい返事だな。尻尾が幻視できそうだ。犬かネコかはわからないが。


 あれ? 尻尾振るのは犬だけだっけか?


「屋敷内の掃除と朝晩の飯当番だ。あと、食費くらい出せ」


 しかし、同い年の友人ねぇ、俺からすれば友人の子くらいの感覚なんだが。


 俺を対象に選ぶとは相当飢えてると見た。


 友人を認めたとしても、コイツに本当の意味で同い年の友人は居ないに違いない。


 仕事がどうであろうと、これだけ人懐っこければ十分居そうなものなのだがね。


 それにしても・・・・・・。


「ガッテン! 任せてください! ふっふっふ、私の能力の前に平伏すが良い」


 ハイテンションで敬礼したかと思えば、高笑いしながら見下ろすような視線を送るという器用な真似をする空き巣。


 楽しそうだなぁコイツ。何故かがさっぱりわからないが。


「厄介者が何を言うか・・・・・・。まぁいい。じゃあ早速頼んだぞ――」


 俺はきびすを返し厨厨から居間へ向かうことにした。


「――ジェノス」


 初めてヤツの名前を呼びながら。







「んで? 実際のところ何が目的なんだよ?」


 カチャカチャと小さく食器が音を立てる中、俺は今晩のもといここ2週間の限定のシェフに声を投げかけた。


「ふぁい?」


 飲み込んでから返事しろ。 


 俺の視線で察したのか「んっく」と口の中の物を飲み込むとジェノスは俺の問いに答えるべく水で口内を洗浄する。


 ちなみに、現在食卓に上っているのは、豆と、よくわからん緑色の葉そして唐辛子が入った緑色のスープと、ほうれん草のソテー、白米に、味噌スープだ。


 このカオスっぷり・・・・・・若干スープが多いが日本の食卓を思い出す。


 まぁ、白米と味噌汁は俺の作り置きだしな。


 ちなみに味噌は珍しいらしく、えらく高かったことをここに記しておく。


 それにしても、コレだけのメニューにおいて見事に肉も魚も含まれていないのはこいつの陰謀だろか?


「ん〜・・・・・・羽を伸ばしに?」


「帰れ」

「帰りません」


 俺が羽を伸ばしたいんだよ!


 即答しやがるとはコノヤロウ。


 まぁ、それはもういい。すでに諦めたからな。しかしだ。


「・・・・・・厄介ごとに俺を巻き込むなよ? 事を起こすなら他所の街でやれ。俺の管轄外でだ」


 間違っても爆弾なんぞ仕掛けないことを願う。


「私のことを何だと思ってるんですか」


 憮然とした表情で返すジェノス。俺は視線を他所に逸らす。


 コレが答えだ。察してくれ。


 じっとりとした視線がうざったいが、気にしないことにする。


 さて、未確認のシチューへと手を伸ばすとしようか。


 ・・・・・・。


 なん・・・・・・だと?


「ジェノス、コレ、何?」


 裏返りそうな声、俺はどれだけ動揺してるというのだ。


 落ち着くんだ俺。


 ビークール、ビークール。


「確か、カリーとか言いましたっけ。なんでも東南の料理で様々なスパイスを――」


 なるほどなるほど。


 まさしくこれはアレなのだろう。限りなく本場に近く見事にサラサラ。


 あとは、俺の知るあのドロドロとした感じにするにはどうするべきか。


 様々な思考が駆け巡る。


「ちょっと! 聞いてますか? 」


 声を荒げながらじっとりとした視線を送ってくる。行儀が悪いぞジェノス。


 食事中は声を上げるにも限度があるだろうに。という俺の心情はおくびにも出さず、とりあえず謝ることにした。無視はよくないからな。


「ワルイワルイ。なぁ、あとでいいから簡単にレシピ書いといてくれないか?」


「まぁ・・・・・・いいですけど。そんなに美味しかったですか? この香辛料高かったんですよ~。いやはや買って正解でしたね」


 不思議そうな、それでいて嬉しそうなニヤニヤ顔のジェノス。


「いや、まぁ美味いが。たまたま探してた奴に近かったからな。コレを元に作ろうと思う」


「へぇ〜、なら完成したらご馳走してください。あまりは置いていきますので」


 期待が大いにこもった眼差しを送られる俺。


 期待には応えてやるべきだろうが、過度なものは早めに摘んでおかねばならないと俺は思っている。


「キガムイタラナー」


 棒読みになってしまったのは仕方が無いことだ。


「ちょっと! 食べさせる気ないじゃないでしょう!」


 いやだって、俺、嘘つくのが下手だから。


 しょっちゅうつくけど。


 まぁ、ワザと俺の意図がわかるように言ったんだが。


「気のせいだろ」


 正直高価な物なら実験的に使うのも気が引けるしなぁ。まずはあれだ『我々の言うシチュー』を感聖っせてからだろうな。


 まったく。こんなことなら、一度でもルーから作って覚えておいたのに。


 そんな事を思いながら、俺はジェノスをからかいながらも今回の夕飯を存分に楽しむのだった。


「気のせいじゃありません。・・・・・・楽しみんですよ~ガラスさんが作るの変わってて」


 こんな状況ででも美味しいと言われる事が無いところがリアルに俺の腕前を表していると思う。


 さらには、できるのはどれほど後かわかったもんじゃない。ましてや人に食わせるほどなど。


 食わせるレベルと言っても、旨くも無く不味くも無い。そんなもん楽しみにするとはこいつも変わっていると思う。


 ・・・・・・。



 そういえば、人と取る食事は久々だな。


 人に飯作ろうかで悩むのも・・・・・・。





 まぁ、


 気が向けば・・・・・・いや、機会があれば、かなぁ?




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