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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある令嬢からの贈り物

作者: 零々



少しだけ残酷な描写があります。

気をつけて自己判断でお読みください。



誤字脱字は広いお心で胸にしまっておいてください。

自己満足の物語なので悪しからず。




「お姉様、ライハート様をわたくしにくださいな」



緩やかに弧を描く薄桃色の唇

陶器のように透明感のある白い肌

柔らかな淡い色の髪

純真すぎるほどの真っ直ぐな視線を向けてくる緋色の瞳


それはそれは美しい天使が鈴のような声音で言葉を紡ぐ


さきほどまで賑やかな紳士と淑女の軽やかな笑い声が聞こえて来ていたはずが、今や会場は静まり返り天使のような少女の軽やかな声だけが反響する



「お姉様」



私は少女に腕を取られている彼に視線を向ける

読み取れない表情


小さく息を吐いて私は少女、妹へ視線を戻した




幼い頃より全てを譲ってきた

体の弱い妹、美しい妹、それだけの理由で周囲は私から大切なものからどうでも良いものまで


まるでそれが良い事のように言葉を紡ぐのだ




「ええ。いいわよ」



音の無かった世界から一気に音が蘇る

ざわめく周囲、困惑した声


たった今、彼は私の婚約者ではなくなった

視界に伸ばされる手をぼんやり映し身を返すようにして二人に背を向け歩き出す



ようやく、ここまで来れた



私はゆっくりと笑みを浮かべ人の垣根を縫うようにして会場から出ていこうと扉に手をかけた


しかし王宮の護衛騎士に堰き止められる


顔を上げれば見知った顔で

学園で彼の側に居て、その視線が天使に向けられていた事を思い出す



「あら、貴方はふられてしまったのね。可哀想に」


「…っ、」


「それと、退いてくださるかしら?行かねばならないところがございますの」



早く、行かなければ

焦りを悟られてはいけない


優雅に淑やかに、『アリス·ビンヤード』は会場から退場しなければならない


私のプライド?そんなものではない

そうしなければならないのだ



「ようやくだ。アリス」



騎士の彼に足留めをされていたからか、伸ばされた手が間近に迫り私は身を避けるようにして彼と向き合う


温度の無い美貌が、緩やかに弧を描く

その冷徹なまでに色の無い深い闇のような瞳はそのままで


「ライハート様、妹のマリアはどうされたのですか?」


「私の意思は聞かぬのか?」




何を言っているのか

彼の後ろに両親と従者に止められているマリアを見て彼を見る



「あら、どうして聞かなければなりませんの?ライハート様も以前に仰ってたではありませんか」





「マリアが欲しがっているのだからあげなさい、と」





軽やかに笑う

会場は静まり返る


目の前の彼も表情を消す



周りは言いましたわ

私の大好きなお菓子や

誕生日でいただいたぬいぐるみ

丹精込めて育てたバラ

お気に入りのドレス

景色のよかった私室

競い合える友人

私に一生仕えると言ってくれた従者

ライハート様からいただいたネックレス




「誰も私の意思など、聞いてはくださらなかったではありませんか。マリアが欲しがっているのだからあげなさい。だから私は貴方の婚約者という立場をあげたのです」



青ざめる両親が視界に映りあぁ、と息をはく



「いえ、責めているわけではありませんのでご安心くださいな。お母様、お父様。初めは確かに悲しいとは思いましたけれど所詮は私にとってとって足らぬものだったのです」



だから言われるまま私は手を離すのだ

惜しいとは思いつつも諦められる、その程度のものを……



「では、私は急ぎますので」

「クウヤとやらの元へ行くのか」


踏み出しかけた足を止める


「…………その名をどこでお知りになりましたの?」


「……………それはどこの誰だ」



暗い瞳に見据えられ私は息が詰まる

しかし、その名を知っているという事は目の前も彼も私と同じ存在なのだろうか


いや、そんな事はありえない

彼はあまりにもこの世界の王子たる『ライハート·セルシア』という存在そのものなのだから



「………影をお使いになったのね」


「どこの貴族だ。いや、町に下りているときに知り合った人間か」



まるで浮気を問い詰められているようだ

私は暗い瞳の中をのぞき込むようにして彼に触れる



「ライハート様、最初で最後に私からお渡ししたいものがございます」



ゆっくりと瞬きして虚をつかれたような表情の彼に微笑みかける

そして視線を滑らせ両親、従者、友人、妹へと微笑んだ


最後に扉に立ち塞がったままの騎士の彼にも笑いかける



「ここだけの話、貴方の口の悪さに応戦するのは楽しかったんですよ?」



歪められた表情

私はライハート様に視線を戻し笑う



「最初で最後、貴方様達と過ごした18年間の記憶と思い出の全てをプレゼントいたしますわ」



ふわりとドレスを翻し扉を開け放つ

何かの叫びと伸ばされる手



全てを譲ってきた私の初めての贈り物

強請られて譲ったものではなく、自ら渡すのは今までの記憶



そうしなければならないのだ



何も持たないままこの世界に生まれたのならば

何も持たないままでしか戻れない



走って走って

私は叫ぶ



「クウヤ!」



ふわりと現れる白い存在

ようやく、ようやく戻れるのだ


頬を熱いなにかが滑り落ちていく


隠し持っていた小型のナイフを取り出し

目の前の神たる存在を見据える



「アリス!!!」

「お嬢様っっ!」


「おねぇさま」



やはり、貴女は天使ね。マリア




すっと手を引けば耳元でぷちりと肌の断裂する音が聞こえ

ゆっくりと眠るように意識が遠ざかっていく

















「飛鳥っ!」


明確になる意識で重たい瞳をこじ開ける



皺の増えた顔は泣きそうに歪められ

声を発する前にきつく抱きしめられた



「あぁっ、無事でよかった!ぅぅ、ほんとに、あすかっ、飛鳥っ」




「た、だいま。おかぁさん」



掠れた声を何とか絞り出し

上手く動かない腕を必死になって伸ばす


「飛鳥っ!」


飛び込んで来た人物に私は抱きしめられながら頬を緩ませる



「父さん、ただいまぁ」


せっかくの高いスーツがしわくちゃだ

それに若作りのイケメン面も涙で台無しだよ


私は大切な両親二人から抱きしめられ笑う

ごめんねと、何度もただいまを言う







ようやく私は元の世界に戻れたんだ




お読みいただきありがとうございます。

好みに走った物語です。


非常に分かりにくい伏線を何本も引いた話になりました。


少しでも楽しんでいただければ良かったです。


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