ムウの実力発表会
「お父様!帰りました!!」
夕方頃にフウが屋敷に帰って来た。そして、後ろには何故か震えているファンが居た…
(って!何かファンがすごい震えているんだけど…何があった?!)
小さな体のファンがものすごい、震えている…
まあ、体の小さならフウの方が小さいのだが、その小さなファンが更に小さく見えるほど、ファンは震えていた。
「なあ、フウ、ファンどうした?」
「…?あらどうしました?何だか震えているみたいですけど、何か怖い事でもありました?」
そう言ってファンの頭を撫でるフウ…
身長的に妹が姉に対して頭を撫でる構図なのだが、撫でられるファンはそのたびにびくびくしていた。
…絶対にファン…フウの事怯えているよね…
(本当に何があった?!!)
半日一緒に居ただけなのに、この怯えよう…本当に何に怯えているのやら…
「…お父様、私では駄目みたいなのでお父様にお願いしてもいいですか?」
そう言ってくるフウ…確かに、このまま、フウが相手にしても、悪化する未来しか見えない…
そう思った俺は、ファンを慰めることを了承することにした。
「ああ…」
そう俺が言うと、フウはファンを俺に託して…そのまま家に入っていった。
おそらく、飯を作りに行ったのだろう。
フウが見えなくなると、ファンは俺の足に引っ付いて来て離れなくなった…
(本当にフウが屋敷にいなかった午後の間に何があったんだ?)
それから、何事も無く、そのまま俺はみんなと一緒に夕食を食べ始める。
フウはいつも通り、俺の席の隣に座っている。
他の奴隷達も何とか朝の筋肉痛から回復して食事をしている…
結構大きめなテーブルなのだが、みんな俺達から離れている…
いや、俺と言うよりフウから皆は離れているんだろう。
実際、俺の隣にいるフウを他の奴隷達は、怯えた目で見ているようだし…
そんな事を考えていると
「お父様…明日なのですが、朝から一人で外出したいので許可を頂きたいのですが…もちろん、夕方までには帰ってきます!」
そんな事をフウが言ってきた。
「何しに行くんだ?というより外に行くのに許可って必要ないだろう?」
「許可は必要ですよ私はお父様の奴隷で、お父様のものなのですから!!」
ものって…奴隷自体、フウが勝手に奴隷になっただけなんだけど…
「後、外に出る理由ですか…思ってたより他の方が弱くて(ボソ)…、いえ、ちょっと欲しい物があるのですが、結構遠い所に素材があるのですよ、だから、明日その素材を取りに行こうかと…」
そう、フウが言った…前半はボソリといったためよく聞こえなかったが、何だ、何か素材が欲しいのか?
「それだったら買えばいいんじゃないか?お金はあるし…」
「買ってもいいんですか?」
「いいに決まっているだろう?お前のお金なんだし…」
「ありがとうございます…ただ、素材全てが売っているか解らないんです。だから明日市場を確認して欲しい物が無ければ自分で取ってこようかと思ってます!!」
「まあ、元々お前のお金だし好きに使いなよ…」
本当に、何で俺に伺いを立てるのやら…フウのお金何だし、自由に使えばいいのに…
今手元にある、お金全てがフウが採取した薬草やドラゴンなどの素材を売って、手にしたお金だ。
はっきり言って、俺のお金なんて、びた一文すら今手元に無いのに…そのお金で、俺の奴隷すら買っちゃ戯けで…こちらが申し訳がないと思うんだが…
そんな事を考えていると…
「いえ、これはお父様のお金です!!今すぐ返せと言われたら返しますし…もっと欲しいと言ったら稼いできます!!」
フウがそんな事を言ってくる…いや、もっと稼いでくるっと…既に、俺の一生涯分…いや、俺の何十生涯分稼いでいるんだが…
「いやいいから!!」
はっきり言って!フウが稼いできた白金貨1枚すら、俺!使い切れる自信ないからね!!
そんなにもらっても俺どうしようもないから!!
そんな突っ込みを心の中でしながら、フウと話をしていき、その日の夜は更けていった…
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朝起きると、フウはいなかった。恐らく、昨日言っていた通り、出かけたみたいだな。
そう思いつつ俺はベットから起き上がり、廊下を歩き出した。
すると…
「あっ」
廊下でばったりユウナにあった。何だか、顔が赤いが大丈夫か?
「…その…昨日はありがとう…」
そう言ってユウナはちょっと気まずそうに言った。
(昨日…?ああ…!!)
昨日の朝食事を食べさせた事か!
あれだけ疲れていたら仕方ないだろうに…そう言えば…
「…昨日は何か途轍もなく疲れてたみたいだから詳しく聞かなかったけど…何があった?」
昨日はファンを除く3人が全員ぶっ倒れていた為、朝何をやっていたのか聞かなかったのだ。
フウに聞いても、はぐらかされて、自分から話さなかった為、今日復活したユウナに聞こうとしたのだ。
「…何でもないよ…ただ、訓練しただけ…本当にそれだけ…」
そう言ってユウナは少しの間黙り込んだ・…
(訓練しただけって…それだけであんな惨状になるのか…?)
俺は尚も詳しく聞こうとすると、ユウナは、ぽつりぽつりと、昨日起きたことを話し始めた。
「はは、あの子フウって言うんだっけ?その子がさ実力を見る為に、3対1でいいから掛かってこいって言ってきてさ…私がそんなんじゃ、相手にならないって言ったのさ、もちろん向こうが敵わないってって意味でね…」
そう言ってユウナは深呼吸をしてもう一度話し始めた…心なしか、身体が震えている様だった。
「こんな私の身長の半分位の小さな子供が強いはずが無いって決めつけて…そう馬鹿にしたらさ、気づいたら宙に浮いていた……ユウナとニーム驚いてたなあ…ニームの驚いた顔、お店の中でも見たことが無くてレアだった…」
そう言ってユウナは笑った、目元には涙が見える…
「そうしてひとことその子は言ったんだ『この位も防げないのかって』…ってね。その後は蹂躙されたよ…私さ冒険者の時に剣に結構自信持っててさ…剣同士の闘いならBクラスにも負けないつもりだったんだ…それが、あの子には素手で何度も投げ飛ばされて…はは、笑っちまうだろう?」
そう言って今度は思いっきりユウナは笑った…
「そうやって、何度も投げ飛ばされながら、闘っていたら、いきなり、自分の力が上がったんだ…それこそ、今まで限界だと思っていた以上に、力が出たんだ…何でかはわからない…けれど、チャンスだと思った…これなら勝てるかもしれない…そう思ったんだ…」
自分の力が上がった…?ああ、これは、フウが言っていた、強化魔法か!
確か、フウが訓練中に3人に掛けたって言ってたもんな…でも…
「本当に、これまで生きて来た中で、これ程力を出せた事は無かった…このいきなり降って湧いてきた力なら、目の前に居る子度にも勝てる…そう思ったのだが、それすらも、簡単にあしわられてしまった…そして、気がついたら、体力が切れて、今まで経験したことが無い程の筋肉痛に襲われたのだ…その後は、ご主人様の知っての通りだ…」
多分、筋肉痛になったのは、フウが掛けた強化魔法が原因だと思う…確か、強くなる代わりに、とてつもなく疲れるって言ってたっけ?だとしても、あそこまでなるとは…
「…私は…弱い…それこそ、小さな子供にも勝てない程にな…」
そう言ったきり、ユウナは黙り込んだ…ってえっ?!
ちょっと待て?!弱いって言った??!
ユウナって確か…Cクラスだっとよな!!?
(それが弱いって…それを言ったら…俺なんて…)
俺は、自分が弱いと言ったユウナに俺は激しい憤りを感じていた…
自分が弱いなんて、俺を前によく言えるな…!
「…ユウナ…外に出ろ…」
「えっ?」
「いいから…!」
有無を言わさず、俺はユウナを外の庭に連れ出した。
外に出て思うんだが、相変わらずこの家の庭はでかいよなあ…
本当に何でこんな大きな屋敷を買ったのやら…
しかも、この庭には池があるし…こんなもの貴族の家位しかないぞ…
まあ、残念ながら、今は魚は泳いでいないが…
だが、今からやる事に対しては丁度良かった。
俺は、ユウナと一緒に池に行き、おもむろに手をかざした…
「ファイアーボール!」
下級魔法のファイアボールを池に向かって放つ。
魔の森で必死になって覚えた魔法の一つ。
いや俺が覚えた魔法…結局ファイアーボールとウォーターボールの二つしか覚えていないんだけどね…
とにかく、その内の一つを唱えた。
池に放ったファイアーボールは、水ですぐに蒸発して消えた…
「ウォーターボール!」
もう一つ覚えた魔法…ウォーターボールを池に放つ。
池に放ったウォーターボールは、水飛沫を上げるでもなく、すぐに他の池の水と分からなくなった…
「これが俺の全力の魔法だ!!」
俺は叫ぶように言った…
「……………………ムウ様は剣士なのですか?」
そんな事をユウナは言ってくる…
そうだよな、フウがあれだけ強いのに、俺が弱すぎるのは信じられないよな…
「剣貸して…」
ユウナから腰に差してた剣を借りた…
うん、うまく持ち上がらない、振り下ろす事すら困難だ…
俺が何度もフラフラになりながら、剣を振った後…ユウナに返した…
「これが俺の実力だ!!」
もう、俺は半分泣きそうになりながら言った…
「………………何でフウのご主人様やっているの?」
俺が聞きたいわ!!!
俺は心の中で叫んだ…
「普通、フウ様の様な途轍もない実力者なら、奴隷落ち何てしないだろうし…第一、初めて会った、初日、自分から奴隷になったって言っていたよな…あれ…本当なのか?」
そんな事を聞かれた…うん…嘘みたいだけど…本当なんだよ…」
「ああ…その通りだ…本当に何で、フウは奴隷になったんだろうな…?」
本当に何でだよ!!俺弱すぎる位弱いだろうに…フウにいつもおんぶにだっこされている状態だって言うのに…何で…奴隷になったんだろうか?未だにわからない…
「……実力を隠してるんじゃあ…」
そんな事を俺を見ながら言ってくる…
「…そう見える?」
「…いいや…余りにも酷すぎて、演技にも見えない…」
そこまで言うか!!しまいには本当に泣くぞ!!!
「…ああ!泣かないでくれ!!わかった!!剣の使い方教えるから!!」
そうして、俺は、ユウナから、剣の基礎を教えてもらう事になった。
まあ、教えてもらうって言っても、最初は素振りだけみたいだが…
その素振りすらも、俺にとっては重労働…はっきり言ってまともに振れないから一回振るだけで、腕がしびれてしまう…
それでも、俺が、何とか既定の回数素振りを終えた…
俺が息を整えながら、仰向けになっていると…
「…どうかされたのですか…?」
エレナの声が聞こえた。
声の方に顔を向ける…エレナとニームがそこに居た…
「…訓練をしていた…」
疲れて声が出ない俺の代わりに、ユウナが答えてくれた。
「訓練?」
「ムウ様なんだかな…えっとその…」
エレナが言いづらそうにしている…
そうだよな…言いづらいよな…主人である俺が弱いなんて…
Aクラスのギルドカードを持っているとはお店から聞いてはいるだろう…それなのに、俺自身が弱いなんて言いづらいんだろう…
だけど、いつかはバレるんだろうし…今言っても変わりがないはず…そう思い、俺は話す決心をした。
「ぜえ、ぜえ…俺が頼んだんだ…」
俺は息を整えながらそう言った…
「…えっとどういう事ですか?」
俺は息が整った後、ユウナと同じ様に魔法を放ち、素振り?もどきを見せて説明した…
「「「…」」」
3人共沈黙してしまった…どうすんだよこれ…
「えっと、Aクラスの冒険者って聞いていたのですが…」
エレナがおずおずしながらそう聞いてくる…
「…フウのおかげでなった…俺の実力はゴブリンすら勝てるか解らない位だ…」
更に気まずい雰囲気が流れる…本当にどうするんだよこれ!!!
「えっと、大丈夫ですよ…多分…」
…とエレナ…
(ぐは、根拠のない慰めが途轍もなく効く!)
「大丈夫だって、私が鍛えて……鍛えてどうにかなるかな…?」
とユウナ…
(ぐふ、最後の言葉は飲み込んでほしかった…)
ニームに至っては…
「…(憐れんでいる顔)」
(がは、もう、その顔の表情だけでダメージを受けるって……)
「とにかく、色々試してみよう…そうすれば、少しはましになると思う…多分」
ユウナ…嘘でもましになると断言して欲しかった……
それから、フウが帰ってくるまで訓練するのであった……




