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プロローグ2


 母さんの病が重くなっていくにつれ、父さんが看病につきっきりになることが多くなった。原因はわからなかったが、同じ時期に同じような症状が出た人が村の中に何人かいた。流行り病だろうって村長さんは言っていた。父さんの必死の看病もむなしく、母さんは半年もたなかった。母さんは最後に「ごめんなさいね」と謝りながら逝った。


 母さんを失った悲しみからか、今度は父さんも病気がちになった。半年後、父さんも咳き込みながら血を吐いた。


「…………ジーク。父さんも、長くないかもしれない」


「そんなことないさ! じきによくなる! 心配しないで!」


 僕はそんな言葉を父さんにかけた。だがそれは、父さんが母さんにかけた言葉でもあった。


「…………父さんが死んだら、ジーク、リリィを頼むぞ」


「そんなこと言わないでよ父さん…………。元気に、なってよ……」


「お前は優しいからな、ははは。リリィのことは任せられるが……父さんはお前の方が……」


 父さんも逝った。こうして僕ら兄妹は両親を亡くした。



********



 僕らの小さな家だが、リリィと二人で住むには少し広い。ふとした瞬間にこの広さがちょっぴり僕の胸を痛くさせる。リリィはあれから塞ぎ込むようになった。僕より小さいのに泣き喚いたりせずに、自分の布団に包まってだんまりとしている。


「リリィ、昼ご飯にしないか? 兄ちゃんまだへたっぴだけど、リリィの好きな山菜のたくさん入った酸っぱい麦粥作ったんだ」


「…………」


「……テーブルの上に置いておくからな。兄ちゃんは畑仕事の続きしてくるよ」


 まだ料理を初めて一週間も経っていない僕の腕前は結構ひどい。だが、リリィにはちゃんと食べさせないといけないんだ。父さんと約束したから。ごめんなリリィ、まずい麦粥しかつくれない兄ちゃんで……。

 僕は土間に立てかけていた鍬を手に家の裏にある畑に繰り出した――。


 今の季節は夏なので一歩家の外に出てくると照り付ける日照りとうだるような暑さで、早くも汗が垂れてきた。

 朝から昼前の作業で畑のおよそ一割は耕せたのではないだろうか。先は長いので、考えるよりも先に僕は鍬を振るっていった。

昨日雨が降ったのでだいぶ土は軟らかかったが、まだ子供の僕には少し重たいこの鍬を使った中腰での長時間の作業というのが結構堪えている。肩の後ろや腰回りがすでに悲鳴を上げている。振り下ろすたびに鍬を握っている感覚も痺れていった。


「ぐっ……、でも、僕が頑張らないと……、ハァ、リリィが食べるものが……」


 そうして新たに畑の一割を耕し終わった頃、僕の家の畑にマルクが来ていることに気づいた。


「あっ……マルク、ハァ、いつきたの?」


「今来たところだ。ジーク、今日はその辺でやめとかないか? この暑さだ、ジークが倒れちまう」


「そんなこと…………」


 そんなことないさと言おうとして、もし自分が倒れてしまったらリリィはどうなるのだろうかと考えた。ここで無理をしてリリィに負担をかけたらダメだ。


「……そうだね、今日はこの辺にするよ」


「ああ、それがいいと思うぜ。にしてもジーク、お前ちょっとムキムキになってきたな!」


「はは、そうかな。まだ鍬が重くてすぐ背中痛くなっちゃうから、まだまだムキムキになりたいな」


 そんなたわいもない話をしながら家の中に戻る。リリィの位置は変わっていなかったが、麦粥はちゃんと食べ終わっていた。


「えらいぞリリィ。お昼ご飯ちゃんと食べてくれたんだな!」


 リリィはまただんまりだったが、ご飯を食べてくれたので気にしない。ご飯が食べられるうちは大丈夫だと思う。父さんと母さんは最後の方は水も飲めなかったしな。


「遊びに来たよリリィちゃん、俺だよマルク。またお話ししたいんだ」


 布団の中にいるであろうリリィが一回もぞりと動いた。そう、マルクが遊びに来てくれた時は反応を返してくれるのだ。できればお兄ちゃんの時もしてほしいな。


「じゃあマルク、いつも悪いんだけど少しの間リリィの面倒を見てくれる? 僕は森に山菜を採りに行ってくるからさ」


「あ、ああ。いいぜ、気にすんなよ。俺も好きでしてることだからさ。気を付けていってこいよ」


 また布団の中のリリィがもぞりと動いた。


「うん、いってきます!」



********



 デールの村から少し離れた切り株広場を通り過ぎて半刻ほど進んだあたり、僕は足を止めてその場にうずくまる。


「くっ、うっ、父さん、母さん、寂しいよ、なんで死んじゃったの……」


 僕は我慢できずに泣き出した。最近はいつもこうだ、マルクがリリィの面倒を見てくれている間ここに来て泣いてしまう。鼻水もよだれも垂れてきた。


「畑仕事がつらいよ、うっ、料理がうまくできない、ぐっ、リリィが元気にならない、ううっ、ごめんなさい父さああん」


 リリィの前では決して弱音は吐かないようにしているが、誰の目もないような場所に来るとプツリと僕の感情の荒波が解き放たれてしまう。


「僕はどうすればいいの、ぐっ、父さん、母さん、うっ、うわあああん」


ジークが感情のままに泣いているところに立ち尽くす影があった。


「ジーク…………」


 山菜の入ったバスケットを抱えたサラだった――。


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