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滅びゆく世界のキャタズノアール  作者: 北条トキタ
いざ、災厄が生まれし地へ
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第九十六話

「……そうか、ミコトとゼルが逝ったか」


 俺の報告に陛下は、しばし目を伏せ、そのまま道中の経緯を聞いていた。

 先ほど飛空船にて、王都付近に降り立った俺達は今、俺達はアールダン王国の王城にて、陛下に謁見している最中だった。


「ミコトの心の底にある悪意を見抜けなかったのは、私のミスだ。苦労をかけたな、アラケア。そして貴国にも、迷惑をかけてしまった。心よりお詫びする、カルティケア王」


 陛下は玉座の間から降りてくると、俺達の前で深く頭を下げた。

 それを見た王は陛下を真っ直ぐに見据えながら、答えた。


「頭を上げられよ、ガイラン国王。王たる者が、軽々しく頭を下げてはならぬ」


 それでも陛下はまだ頭を下げていたが、頭を上げると周囲にいた兵士に王の息子を釈放し、この場に連れてくるようにと命じた。

 しばしして玉座の間に地下牢に拘束、幽閉されていたラグウェルが連れられてやって来たが、彼のその表情は、どこかやつれた感じであった。


「牢獄生活は堪えたようだな、ラグウェル。だが、その結果を招いたのは他ならぬお前自身だ。深く反省し、このままデルドラン王国に帰国しろ」


 だが、王のその言葉を聞いたラグウェルは、弾かれたように叫んだ。


「お言葉ですが、父上! このまま帰ることなど、したくありません! この男、アラケアは命を付け狙った僕を、殺しはしなかった。牢獄で冷静に考えてみて、そのことがどれだけ難しいことか、気付きました。けれど僕の最愛の人、ナルテイシアの死の原因を作った男なのも事実です……。だから……僕はこの男のことを、もっと見極めたく思うのです。それまで帰国はしません! どうかその我儘をお許しください、父上」


 ラグウェルの胸中に溜め込まれていたのであろう、その心の叫びを最後まで聞き終わった王は、ふぅと溜息をつくとゆっくりと答えた。


「ただアラケアとライゼルア家に責任を求めて、憎むだけだったお前が、その考えに至れただけ、大きな成長だ。好きにするがいい。だが、余らはこれから船で海を越え、北を目指すことになっている。その我儘を通したいなら、お前もその旅に同行せねばならんぞ」


「北に、ですか? 僕は構いません。どこまでもついていきます。お許し頂き、ありがとうございます、父上!」


 王のその言葉を聞いた途端、ラグウェルの表情は活力が漲ったように明るくなり、王に何度も頭を下げて礼を言った。

 この少年も竜人族として多感な年頃なのだろうが、牢獄に投獄されたことをきっかけに一皮剥けたということだろうか。

 そんな彼らの様子を見届けた俺は、次なる任務の予定の話を切り出した。


「それで陛下、外海へ渡る準備は整っているのでしょうか? 私が旅立つ前、私の配下の黒騎士隊にも軍艦の整備を手伝うように命じておきましたが、私達がデルドラン王国へ旅をして帰って来た時間を考えると、すでに済んでいておかしくない頃合いかと思いますが」


「ああ、整備は終わっている。だからお前達の到着を待っていたのだ。黒い霧に関しては、私よりお前の方が専門家だからな。騎士団や黒騎士隊への指示はお前が出せ。出港時刻もお前に任せる。責任は重大だが、お前にしか頼めない。引き受けてくれるか、アラケア?」


 指揮権を俺に一時的に譲渡すると言う思わぬ、そしてその重みのある陛下のお言葉であったが、俺はそのご命令に背筋を正すと答えた。


「はっ、それが陛下のご命令とあらば、承ります。お任せください、陛下」


「うむ、期待しているぞ、アラケア。当然、その任務には私も同行する。留守の間は隠居の身である父上に、しばらく現役に戻って頂こうと思う。聖騎士隊の一部も王都に残しておけば、間違いは起こるまい。だから後はお前の判断次第だ。日時が決まれば、私に報告するのだ。それに従い、我々は軍艦十隻を率いて王都から出港する」


 その力強いご命令に、この場の皆が俺に視線を向けたのを感じ取った。

 皆の命が俺にかかっている。それほど重責を俺が背負うこととなったのだ。

 しかし俺の心はすでに決まっていた。出港前にやり残したこと……。

 それさえ済めば、すぐに出港する覚悟であった。


「では、陛下。日程が決まれば、またお伺いに参ります。個人的な用事がまだ残っておりますが、そう時間はかかりません。近いうちに再び謁見に参りますので、それまでしばしお待ちください」


 それだけ言い残すと俺は陛下に敬礼をして、ヴァイツとノルンを伴って玉座の間を後にした。

 王らデルドラン王国の来客達はそのまま残っていたが、王城で、その時が来るまで滞在してもらうこととなったようである。



 ◆◆



「アラケア、何か心残りがあるのかい? 何か心に引っかかってることがあるって顔だよ?」


 王城からの帰りの道、屋敷を目指し馬を走らせる俺に並んで馬を駆り、俺の内心を見抜いたかのように、ヴァイツは声をかけてきた。

 確かにヴァイツのその指摘通りに、俺には気になっていることがあった。

 それを調べるために、俺は今、屋敷に向かっているのである。


「ああ、気になることがあってな。屋敷の図書室で少しあることを調べたい。恐らくだが、ライゼルア家の歴史書に記述が残されているはずだ。お前達も、それが書かれた本を探すのを手伝ってくれ、ヴァイツ、ノルン」


「構いませんが、歴史書から何をお調べになるんですか?」


 ノルンが最もな疑問を抱くが、俺はそれに対しこう答えた。


「ある男の正体についてだ。俺の予感が正しければ歴史書から、それが分かるかもしれない。航海に向かう前に、どうしても知っておきたくてな」


 説明を聞いても腑に落ちない顔の二人であったが、それでもなお俺達は馬を疾走させ、ようやく屋敷へと辿り着いた。

 そして屋敷の入口の大扉を開けると、俺達は急ぎ足で図書館へと足を運んだ。


「歴史書だ。探すのは、それが陳列されている棚だけでいい。それも最低でも二百年以上前のものをな。そこを片っ端から探すぞ」


 俺達は埃をかぶっている本を一冊一冊、手に取っていき、ある名前が記述された本を徹底的に探して回った。

 その作業は日が暮れても続き、さすがにヴァイツとノルンも顔に僅かな疲労の色を浮かべ始めた頃、とうとう俺は目的の歴史書を見つけることが出来た。


「あったぞ、これだ。間違いない、やはり俺の予感は正しかった」


 その言葉にヴァイツとノルンが、表情を明るくさせながら、床に散らばった無数の本を避けながら、駆け寄ってくると、俺が手にした本を一緒に覗き込んだ。

 そして俺は歴史書のページを開き、そこに書かれていた一文を読み上げた。

 そこに書かれていたのは……。


 ――グロウス・ライゼルア。


 ライゼルア家始まって以来の天賦の才に恵まれながらも、あまりに危険なため追放処分となり、半ば伝説となっていた、最強の天才剣士の名であった。

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