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滅びゆく世界のキャタズノアール  作者: 北条トキタ
ギア王国への侵攻
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第六十五話

「ぬうぅぅん!!!」


 俺は手に渾身の力を込めるとルーンアックスの一振りで五人を同時に薙ぎ払った。

 手や足が千切れ飛び、普通の者なら多少の躊躇が生まれるだろう。

 だが……。


「っ! それでも……来る、か」


 彼らに恐れと言った、感情はなかった。痛みすら感じていないのか、まるで魔物ゴルグのように、次々と勝ち目のない俺へと飛びかかってきた。

 その度に俺はルーンアックスを振るい頭を砕き、胴体を破壊し、致命的な一撃を与えていく。しかし……注意を払わなければならないのは、強靭な肉体を得ただけの一般人に過ぎないこいつらではない。


 ズシャッ!!


「やはり……そう来るかっ!」


 そう、民間人達の壁に隠れつつ、死角からエリクシアが鋭く攻撃してくるのだ。

 横腹を短剣で斬り裂かれ、軽く出血するが、すかさず攻撃が来た方向へと俺は奥義『光速分断破』を放ち、民間人ごと吹き飛ばした。だが……。


「いない。あの女はどこへ移動した?」


 再びエリクシアは民間人達に紛れて、姿をくらました。

 真っ向から挑む気はなく、ヒット&アウェー戦法を繰り返すつもりなのだろう。

 奇しくも、いつぞやギスタが俺に使ってきた戦い方と同じだ。

 違うのは今、この場にネクロマンサーであるマクシムスがいるということ。


「ロオオオオオ……! ギギギアアァ!!」


 腐臭を放つ死体達が、一体また一体と次々と起き上がり、こちらに加勢を始めた。

 現在の所、その数は五十体前後と言った所だろう。


「さすが良い仕事をしてくれますねえ。このままいけば十分な戦力が確保出来ます。ふふふふ……その調子ですよ、アラケアさん」


 マクシムスが手をかざすと、ゾンビ達が俺の周囲を取り囲み始めた。

 民間人達が近づけないよう壁を作りエリクシアの戦法を封じようと言うのだろう。

 しかし数でまだまだ優る民間人達がゾンビ達の壁を突破しようと跳躍し、頭上から俺に向かって飛びかかってきた。

 しかし警戒すべきは、やはりエリクシアの動向だ。


「どこだ。どこから来る、エリクシア?」


 死角を突かれないようゾンビ達で背後を固めて、前方から来る民間人達をルーンアックスで一人一人確実に薙ぎ払っていった。だが、その時だった。

 俺の目の前に迫った民間人の一人が爆発したのだ。

 突然のことに俺は碌に防御も叶わず、爆風で吹き飛ばされた。


「……ちっ、俺達が使った炸裂弾のようなものか!」


 床に尻餅をついた俺に、続々と民間人達が圧し掛かろうと飛びかかってきた。

 俺はその体勢のままルーンアックスを振るい蹴散らすが、それと時同じくして一際大きく跳躍した者が、眼下にいる俺へと飛びかった。


 ザグゥッ!!

 そいつは俺の右腕に短剣を突き刺すと、そのままグリグリと傷口を抉る。

 エリクシアだった。また俺は虚を突かれる形となったのだ。


「ぐっ、ぐううっ!!!」


「痛いかしら? けど私一人に……手間取っていていいのかしらね」


 エリクシアは無表情のまま俺の傷口を更に抉ろうとするが、後方からマクシムスが俺を援護すべく「ボン!」と骨を飛ばして、エリクシアに攻撃を仕掛けた。

 エリクシアは俺への攻撃を中断すると後方へと飛んでそれを回避し、距離をとった。


「今のはどういう意味だ?」


 俺がそう尋ねたその時だった。床より赤いルビーのようなハーケンが放たれてそのまま天井に激突し、瓦礫が崩れ落ちた。

 そして更に床下の階下から赤い紅玉の皮膚をした半竜半人のような怪物が這い上がってきたのである。


「まだ仕留めきれてないのか、エリクシア。何をもたもたしている。後は俺がやる。お前は下がっていろ」


「遅いじゃない、ガンド。それで一階は……どうしたの?」


 エリクシアの問いにガンドと思しき怪物は床に落ちたハーケンを拾い上げると、俺を見据えながら答えた。


「俺がここにいることが答えだろう。制圧した、一階はな。残りはこいつらともう数人だけだ」


 ミコトが敗れた? だが、それを聞いても俺には不思議と動揺はなかった。

 むしろ神経が研ぎ澄まされていく。

 俺は自分の中の迷いや焦りなどと言った余計な感情を自分の中から追い出すと、ただ今の戦いだけに意識を集中させた。


「そうか……では確実にお前はここで葬っておかねばならんな」


 俺はルーンアックスを構えると、視線の先にガンドを見据えた。

 全身から絶え間ない蒸気を噴出させて……。

 一度は敗れた相手だったが、今度は不思議と負ける気はしなかった。


「俺を倒すだと? 片腹痛いわ! すでにお前は敗北しているのだ! 先ほどの戦いで懲りぬというなら、再び力の差を味合わせて……」


 ドン!! ガンドの叫びが言い終わらぬ内に俺は駆けた。

 そしてルーンアックスを振り下ろし、奴のハーケンと斬り結んだ。


「ぬうっ!」


 俺のルーンアックスと奴のハーケンが激突し、休みなくぶつかり合った。

 俺が繰り出す斬撃は絶え間なく、最初こそ互角の攻防だったが、段々と俺の勢いがガンドの勢いを上回っていく。

 そしてついにはガンドの脇腹を掠めると、血飛沫が舞った。


「な、何! 馬鹿なっ……。なぜだ! 貴様、さっきは本気ではなかったというのか!?」


「さっきはお前ごときにスタミナをすり減らす気はなかった。だが、それでは勝てる戦いも勝てない。それに気付かされた、それだけのことだ」


 再び俺の一撃が、ガンドの防御を突き破る。

 俺の刃がその体を斬り裂き、ガンドは吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた。


「マクシムス、この男は俺が仕留める。その間、エリクシアはお前に任せたい。決して近づけさせないようにしてくれ。頼めるか?」


 マクシムスはこの場で行われている戦いの様子を窺いながら、ゾンビ達を操作していたが、くつくつと喉を鳴らして笑いながら言った。


「いいでしょう。あの女とは一度手合わせした因縁があります。ですから、貴方は思いっきりやりなさい。ガンドなど本来ならば貴方の勝てない相手ではないはずですから」


 エリクシアは今も民間人達に紛れて姿をくらましている。

 マクシムスはゾンビの群れを巧みに動かし、攻撃を仕掛けると同時に自身もまた全身から黒い炎を燃え上がらせ、戦場へと躍り出た。


「さて、続行しよう、ガンド。お前こそまだ本気ではないというなら、さっさと出すんだな。死んでから後悔しても遅いぞ」


「貴様……!」


 俺はただ目の前の戦いに全力を尽くし専念すればいい。

 このまま体力を消耗させて戦闘続行が困難になっても、まだ陛下や仲間達がいる。

 そう気持ちを切り替えるだけで、戦いも気持ちにかかる負荷も、ずいぶん減った。


「ならばっ……! お望み通り粉砕してやろう!」


 ガンドは後方へ飛んで間合いを大きくとると、ハーケンを後ろに回して、攻撃を仕掛ける体勢に入った。

 助走をつけて必殺の一撃を繰り出すつもりだろう。

 だが……それは俺とて同じだった。


 ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


 俺は右腕に全身の気を集中させると、ルーンアックスが青白い炎で燃え上がった。

 その勢いの衰えない青白き炎は、床に落ちた瓦礫をどろどろと溶かし始めていく。

 それを目の当たりにしたガンドの目の色が、明らかに変わった。


「貴様……そこまでの技を隠していたというのか」


「ああ、さっきは出し惜しみして悪かったな、ガンド。こいつが、俺の最高奥義『光速分断破・無頼閃』だ。次の一撃で決着にするとしよう、お互いにな」


「……いいだろう、望む所だ!」 


 俺とガンドは互いに奥義を放つ体勢でにらみ合う。

 そして……しばらくの膠着状態の後、とうとう両者は動いた。


「いくぞ! 受けてみろ、我が煉獄のハーケンの一撃を!! 跡形もなく消えてなくなるがいい、アラケア!」


 先に動いたガンドが、赤く煌々と輝きながら高熱を発するハーケンを投げ放つ!

 だが、俺の視線は今までのどんな時よりも鋭くガンドを、攻撃を見据えていた。


「生憎だったな、ガンド! 炎を操るのは俺の十八番。全力で放つこの奥義はすべてを焼き尽くし、消滅させる!」


 そして俺はルーンアックスを大きく振り抜くと、放たれた青白い炎の波はハーケンごとガンドをも飲み込み、炎の柱となって燃え上がった。


 ……どごわあぁぁぁぁぁっっっっ!!!!


「な、なんだとぉ!! ば、ばか……なっ! 陛下より賜りし、火竜の皮膚を持つこの俺がっ……! よりによって炎によって焼き付くされると……言うのか!! こ、こんなことがっ!! ぐ、ぐわあああああああっ!!!」


 その凄まじく激しく燃え盛る炎はガンドを跡形もなく焼き尽くすと、民間人達をも巻き込んであっという間に燃え広がって大広間を炎上させていった。

 そのまま勢いの衰えない炎は、周囲の壁や床をも、どろどろと溶かしていく。


 ――そうして……。


 炎が収まったのを確認すると、そこにはすでに黒い灰となったガンドや民間人だったらしき者達が床の焦げ跡として残っているだけだったのである。

 それを見た俺はようやく全身の力を抜いて、片膝をつく。


「ふうっ……さっきは本腰を入れずに戦って悪かったな……。これで、今度こそ本当に決着だ、ガンド」


 俺は全力で戦った反動で大きく消耗した体を、そのまま床に横たわらせると小さく勝ち鬨を上げた。

 しばらくは万全の状態で戦う余力は残されていなかったが、これで城内に残った強敵はエリクシアとダルドアのみ。

 だが、俺達はダルドアさえ倒せればたとえ残りは全敗したとしても構わないのだ。

 そしてその一勝は、あのガイラン陛下ならば、きっとあげてくださるだろう。


「さて……だが、俺もまだまだ頑張らなくてはならないようだな」


 俺は本調子ではない腰を起こすと、目の前で湯水のようにまだまだ湧き出てくる民間人達と今現在、マクシムスと死闘を演じているエリクシアを睨み付けた。

 そして……スタミナが尽き果てるまで奴らを相手に暴れてやる覚悟を決めると、俺はルーンアックスを手に奴らへと飛びかかっていった。

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