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滅びゆく世界のキャタズノアール  作者: 北条トキタ
ギア王国への侵攻
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第五十六話

 陛下により選定された面々は王都の東門に集結し、各々の手荷物を用意された戦闘用馬車に積み込んでいた。

 ハオラン、ゼル、ミコト、ヴァイツ、ノルン、ダール。そして陛下も。

 だが、もう一人……陛下に呼ばれなかったにも関わらず、この場に姿を現した者がいた。


「ガイラン国王、俺はこの国の人間じゃないから、正式にこのメンバーに選ばれることがなかったのは重々、承知してます。けどギア王国のエリクシアとやり合えるのは、あいつとの戦闘経験がある俺しかないと思っています。だから……たとえ無理だと言われても……その無理を承知で俺も同行させてもらうつもりです。構いませんか、陛下?」


 陛下は馬車内からギスタの言葉を聞いていたが、表情を崩して馬車から降りた。


「堅苦しいな。そう言うのはなしだ。お前もその言葉使いに慣れていないのだろう。お前は私の部下ではない。だから敬語など不要だし、同行したいと言うのなら好きにするといい。むしろ腕が立つお前が来てくれるなら、私達も心強い」


 それを聞いたギスタは改めて陛下の目を見ると、そしてにっと笑みを浮かべた。


「さすがはガイラン国王。懐が大きいんだな。あんた、良い買い物をしたぜ。絶対に損はさせねぇ。俺が同行する限り必ず勝利に貢献してみせるからな!」


 ギスタは目を輝かせながら馬車に乗り込むと、力強く腰を下ろした。

 これでギア王国を襲撃する面子は全員で九人となった。

 少数ながら、いずれも申し分のない実力者ばかり。

 孤立奮闘することも想定されるこの戦いで非常に頼もしい顔ぶれに思えた。

 そして全員が馬車内に乗り込んだのを確認し終わると、御者台に聖騎士のゼルが座り、陛下の合図と共に出立した。


 目指すは東方の軍事大国ギア王国。

 以前、俺がグロウスと出会った国境砦の更に東側に位置する国だ。

 なぜアールダン王国とギア王国が長年に渡り、対立しているのかを語るにはまずはあの国の建国の歴史から話さねばならない。

 凶星キャタズノアールが天に現れる前、東方の地は蛮地として荒廃する大地があるだけだった。

 当時すでに存在していたアールダン王国もまたこの東方の僻地には何の価値も見出すことはなく、多くの人々にとっては世間から疎まれた、ならず者や咎人が行くような場所という認識だったのである。


 だが、アールダン王国の目から逃れるようにこの地に移住を始めた者達がいた。

 かつて王国の権力争いに敗れ、国外追放の憂き目にあった王侯貴族達である。

 しかしそこで待っていたのは、高貴な身分の者であった彼ら自らが開拓を行い更に先住の蛮族達と武器をとって戦わないといけなかった、過酷な日々であった。


 獅子や象など大型の獣を戦いに活用する先住蛮族達との戦いは苛烈を極め、貴族達自らが先陣を切って戦ったが、それでも長きに渡って決着がつかなかった。

 当時、貴族と言えば優雅でまったりとした暮らしぶりという概念であったが、生き残るためには、それらの常識を捨てるしかなかった。

 そんな彼らをアールダン王国で雅な文化を誇っている王族貴族達は笑って見ていたのである。

 アールダン王国とギア王国の仲の悪さはここにあった。


 だが、今からおよそ数百年前にようやく蛮族達を打ち破り、ギア王国が建国された。

 そして蛮族達の戦い方や文化を吸収し、ギア王国では武士や忍と言った東洋的な「東方武士団」や「忍衆」などが作られていったのである。

 今ではギア王国はアールダン王国に並ぶ強国として災厄の周期からも何度も生き残ってきている。

 もう誰一人として未開の蛮族の国と侮れる者はいないだろう。


 そんなギア王国へ向かう馬車の中、ノルンはふいに俺に尋ねてきた。


「あの……アラケア様」


「どうした、ノルン。何か心配でもあるのか?」


 その表情からこれからの戦いに不安を感じていることが窺えた。


「もし私達がギア王国に到着したなら、まず私達はどう行動するのでしょうか……? まだ私達は陛下から何も聞いてませんが」


「そうだな。ギア王国が抱えている軍隊は俺が知っている限りでは約五~六万と言ったところだ。総兵数ではアールダン王国よりも優っていると言えるが、皆既日食の直後である今、その数を大きく減らしているはずだ。だが、実際には今、向こうではどうなっているか分かっていない。だからまずは到着次第、出来る限りの情報を集めることが先決だ。その後のことは陛下がご判断されるだろう」


 ノルンは俯きながら聞いてたが、恐らく頭の中では俺達の攻撃にギア王国の兵が大挙して押し寄せてくると考えて心配していたのだろう。

 俺は「心配するな。きっと上手くいく」と言ってノルンを落ち着かせた。


 そして俺達を乗せた馬車は依然、ギア王国へと向かっていたが、視界に映る景色はどこもかしこも魔物ゴルグの攻撃による破壊跡が広がっており、その深刻さに皆、無言のまま馬車に揺られていた。

 黒い霧の広がりにより、また人類の生存領域が狭くなってしまったのだ。

 根本的な解決を試みなくては、いずれ人類は魔物ゴルグに滅ぼされてしまうというそんな危機感が皆の心の内にあるのだろう。


 俺も同じ思いだったが、俺は先日、陛下が仰られていた凶星キャタズノアールに干渉した災厄の根源に関わる者のことを思い出していた。

 そしてグロウスも同様に言っていた、黒い霧を生じさせている発生地点が海を北に越えた先にあると言うことも。

 ならば歴代国王から代々命じられてきたライゼルア家の使命として、俺が皆の先頭に立ち、その災厄に立ち向かっていかねばなるまいと、改めて自らの使命感を思い出すと「父よ、母よ。どうか俺に加護を……」とだけ虚空を見上げ呟いていた。

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