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滅びゆく世界のキャタズノアール  作者: 北条トキタ
激動する、いにしえの故郷
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第二十一話

 ここはデルドラン王国王都、龍角都の中心街。

 今、ここは先ほどから雨が降り、辺りを激しい雨が見えなくしている。

 家路に急ぐ者や、城へ向かう竜人族や獣人族の兵士達が大通りを行き交っていた。


「すでに夜が明けて大分経つが、ギスタは今だ戻らずか。だが、妙に慌ただしいと思わないか? 兵士の兵装をした者達が、ああも血相を変えている。まさか何かが起きたというのか……?」


 俺は宿の2階の窓から下の様子を見下ろし、行き交う人々を眺めていたが、昨日の活気に満ちた王都の街並みとは打って変わって、突然の大雨のせいもあるだろうが、大通りは慌ただしい様相を見せている。


「さあ、どうなんだろうね。けど僕らが到着して翌日早々だよ? それまで平和そのものだった王都が僕らが来た途端に何かが起きたって言うなら疫病神は僕らなのかもね。あ、冗談だよ。だけど、僕らが連れて来たのかもしれないじゃない。疫病神をさ」


「……騒ぎを起こすなら俺達と同じく他所からやって来た者ということか。まあいい。そろそろ昼の時間だ。飯でも食いながら、今後のことを決めよう」


 俺とヴァイツは別室のノルンに声をかけ、更にふん縛っておいたセッツの縄を解いてやると一階に降り、宿屋兼料亭でもある、この店で昼食を注文した。


「セッツ、お前の兄貴分、帰ってこないね。まあ、お前を見捨てて逃げる奴じゃなさそうだったけど、何か手間取ってると思っていいのかな」


「へっ、兄貴がしくじるはずはねぇ。まあ、見てな。そのうち有力な情報を手に入れて戻ってきてくれるさ」


「そう願いたいわね」


「とりあえず後、一時間だけ待ってみよう。それでギスタが戻らなければ俺達は俺達で捜索を始めることにする。残された猶予は多くはないからな。あまり時間を無駄にする訳にはいかん」


 カウンター席に座り、俺達がそのやり取りをする中、一人の客が店の中へと入って来た。

 カランカランカランと鈴の音がして、店内の者達はその男を見たが、客は深くフードを被っていたため顔は見えなかった。

 すたすたとカウンター席まで歩いてきた客は、俺達の横に座ると……。


「パンチの効いた味のカクテルをくれ」


 と、言いフードを脱いだが、その顔は……。

 俺達が帰りを首を長くして待っていたギスタだった。


「あ、兄貴ぃ!! も、戻ったんですかい!!」


「ああ、弟分を置いてとんずら出来るかよ。ばっちり探し人の行方を掴んできたから安心しな、アラケアさんよ。けど思ったより大変なことになってるぜ。お探しのカルギデという男だが、つい昨晩、罪人の中でも特に凶悪犯が数多く収容されている漆黒の地下監獄タルタロサを襲撃し、占拠しちまったらしい。しかもな、これは現在進行形で今も続いてるんだ。そのせいで今、兵士達は対応のために大慌てのようだな」


「なっ……! あ、あいつ……何てことをっ!! 他所の国でまでやりたい放題じゃないか!」


「……恥さらしね、アールダン王国の」


 それを聞いたヴァイツが驚愕の表情で言葉を吐き出し、ノルンも冷ややかに侮蔑の表情を浮かべている。昔から派手なことを好む男だったが、勝手知らない他国でまでそのようなことをしでかすとは、どこまでも大胆な男だということを、俺も再認識させられた気持ちだった。


「で、行くんだろ? 地下監獄までの案内まで含めて今回の依頼ってことにしといてやるからよ。だからと言ったらなんだが、この件が終わったら、依頼料金は弾んでもらうぜ、アラケアさんよ」


「分かった、約束しよう。報酬なら後日、色をつけて払わせてもらう」


「いよっし! じゃあまずは地下水道を通って王城地下を目指すぜ。監獄はその更に地下深くにあるんだが、ただ王都の地下水道や監獄までは縦横無尽に地下道が張り巡らされてて、迷路のようになってるんだ。ま、ルートは調べてあるから、俺についてくれば大丈夫だけどな」


「頼んだぞ、ではそこまで案内してくれ」


 俺は出された水をぐいっと飲み干すと賃を払い、宿屋兼料亭を後にした。

 外は先ほどと同様に雨が降り注ぎ、兵士達が慌ただしく走り去っていく。

 ルートは違えど、どうやら行き先は俺達と同じ場所のようだった。

 カルギデとの戦いの予感を感じ取りつつ、俺達はギスタの先導の元、地下への入り口の場所を目指し、走り向かった。



 ◆◆



 雨に打たれながらどのくらい走っただろうか、ギスタは近くにあった色違いの石壁を軽く叩いた。

 するとどうだろう。

 石壁の一部が動き、人が通れる程の穴が現れたのだ。


「よし、ここだ。ここから地下水道に降りれるんだ。さ、行くぜ」


「貴方、どこからこんな情報を仕入れてきたのよ。ずいぶん有能じゃない。暗殺者をやめて諜報員になっても通用するんじゃないの?」


 ノルンは感心した様子でギスタを褒めると、ギスタはにやりと笑うと得意げに語り始めた。


「デルドラン王国の貴族の中でも『建築芸術』を専門とする王都と地下下水道工事を手がけた一族の屋敷に忍び込んで見取り図を写し取って来たのさ。御大層に厳重に保管されていたよ。けどな、言ったろ。俺の気配は魔物ゴルグにすら感じ取ることは出来ないってな。相手がエリクシアでさえなければ潜入、索敵、暗殺で俺がしくじることなんて、あり得ないんだよ」


「へえ、やるじゃない。ただの自惚れやかと思ってたけど見直したわよ。口先だけの男じゃなかったのね」


「分かりゃいいんだよ。じゃあ降りるぜ。足を踏み外すなよ」


 俺達はさっそく一人一人、出来た穴を通って、地下へと降りていく。

 そして全員、降り立つと、地下水の染み出している地下道を俺達は走った。

 足元には水がたまり、バシャバシャと俺達の駆ける音だけが聞こえていた。


「暗いな、足元に気を付けて進め。ギスタ、目的の地下監獄まではまだかかるのか?」


「ああ、もう少しだ。回り道になる通常ルートを通らず、隠し通路を通って最短ルートを進んでるんだ。そう時間はかからないはずだぜ」


 ギスタは立ち止まると、また石壁を手で触れ、隠し扉を開いていく。

 石壁が動き出し、新たな通路が出来、俺達はそこへ進もうとするが……。

 先に隠し通路を進もうとしたギスタが驚きに目を見開いて動きを止める。


「お、おい。嘘だろ……どうなってんだ、こりゃ。あり得ねぇだろ」


「どうした、ギスタ? 何か問題でもあったのか?」


 言葉を失うギスタの真横から、奥の様子を俺も覗き込む。

 そして俺もそれを見た途端、思わず息を吞んだ。

 なぜなら、そこに広がっていた信じられない()()とは……。

 そう、地下道の先に広がっていたのは……世界を覆いつくす脅威であり、そして国境砦でも目にしていた……あの忌まわしき『黒い霧』だったのである。


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