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滅びゆく世界のキャタズノアール  作者: 北条トキタ
遥かなる旅立ち、まだ見ぬ地へと
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第十四話

 雑踏の王都通りを歩き、陛下が御座すガルナス城正門前にたどり着いた時、俺はいよいよかと息を吐くと、後ろにいたヴァイツとノルンに向き直った。


「これから陛下に謁見に向かう訳だが、俺達はあるいは叱責を頂くかもしれん。いや、確実に咎められるだろう。陛下は寛大だが、国を脅かす者や事態には容赦がないお方だからな。このご時世に俺が出国するのは、それほど重大なことなんだ。俺に同行するというのなら、覚悟は出来ているな?」


「水臭いね、アラケア。君の友人として君一人で行かせるつもりはないよ。陛下がお怒りになった時は、僕ら三人で怒られようじゃないか」


「はい、覚悟ならとうに決めています。私が忠誠を誓ったのは、アラケア様お一人だけであって、それは陛下でも黒騎士隊長の兄でもないんですから」


 ヴァイツもノルンも、その目には迷いはないように見える。

 俺は二人のその覚悟に嬉しく思い、ふと笑みを漏らした。


「ふっ、そうか。では勝手にしろ。行くぞ、ついて来い」


 俺達は城の門をくぐると、城兵に案内され、謁見の間へと通された。

 謁見の間にて俺達は跪くと、偉丈夫であり、獅子のごとく白銀の髪と顎鬚を生やした、齢三十の若き国王、ガイランは玉座より俺達を見下ろしていた。


「よく来たじゃないか、我が友、アラケア。自慢の黒騎士隊の二人も一緒か。どうした? 今日は何の用で私に会いに来たのだ?」


 俺は顔を上げると、重い口を開いた。


「ガイラン陛下、単刀直入に申し上げます。一族の分家であるカルギデが謀反を起こし、私の屋敷から盗み出した黒い霧と凶星キャタズノアールの重大な情報を敵国ギア王国に流したばかりか、再び屋敷を襲撃し、罪なき使用人達の命を奪っていきました。私は本家ライゼルア家の者として奴を討ち、皆の仇を取らねばなりません。奴を追ってデルドラン王国に向かう許可を頂きたく本日は謁見に参りました」


 聞き終えたガイラン陛下の表情が若干、険しくなったのを感じ取ったが、それでも俺は陛下から目を逸らさなかった。


「そうか、常に冷静さを崩さないお前が、いつになく怒気を帯びているから何事があったのか心配していたのだ。お前が怒るのも無理はない。だが、言っていることが分かっているのか? お前は我がアールダン王国を魔物ゴルグより守る盾なのだ。危険を冒させてまでお前をデルドラン王国になど向かわせる訳にはいかん。お前が魔物ゴルグやカルギデに後れを取るとは思わないが、万が一のことがある。お前ほどの男を失う訳にはいかんのだ」


「はっ、重々承知しております。しかし……」


 だが、ガイラン陛下は俺の言葉を遮るように、口を挟んだ。


「と、言うのは国王として建前として言っておかねばならん。しかしな、他ならぬ友人の頼みだ。無下にする訳にもいくまい。条件を出そう、アラケア。私が出す条件をクリアすれば構わん。出国を許そうじゃないか」


 予想外のお言葉だった。

 驚く俺を余所に、ガイラン陛下はにやりと笑うと、玉座から立ち上がり、つかつかと俺の前まで来ると、肩に手をやった。


「中庭に来い、アラケア。久しぶりに手合わせをしようじゃないか。もしお前が私に一太刀でも浴びせられたら、私はお前の強さを信用する。カルギデごときに遅れはとるまい。お前の頼みを聞き入れよう」


「へ、陛下?」


「二度は言わんぞ。ヴァイツとノルン、お前達もだ。さあ、久しぶりに軽い運動といこうじゃないか。ふふふふふ」



 ◆◆



 ガルナス城中庭にて……。

 俺とヴァイツとノルンは今、ここでガイラン陛下と対峙している。


「さて、思い出すな、アラケア。お前と初めて戯れにやりあった時を」


「あの時は私が一撃で陛下に叩き伏せられました」

 

 それを聞いた陛下は空を仰ぎ見て、高らかに笑う。


「ん? そうだったかな? まあ、それは子供の頃の話だろう。だが、今は話が違うんじゃないか? 言っておくが本気でくるんだぞ。私を殺すつもりでな。中庭の外壁などが多少、壊れるのも目を瞑る。でなければお前達、三人の実力を確かめられないからな」


「失礼ですが、陛下。私には三人がかりで来いと言っておられるように聞こえます。いくら陛下でもご冗談が過ぎます。舐められているようで不愉快です……」


 ノルンが露骨に不機嫌な顔になる。

 相手は国王と言えど、俺と黒騎士隊の力を侮られたのは不快なのだろう。


「よせ、ノルン。陛下は最強の聖騎士にして、国王を歴任しておられるお方。先王がそう育て上げられたのだから。俺が王国を守る盾ならば、陛下は剣。この方の強さは俺の上をいく……俺が知る限り、陛下より強い男はいない」


「アラケアがそこまで言い切るなんて……よっぽどらしいね。まあ、陛下がお強いのは噂には聞いてたけど、こりゃ僕らが陛下から一本取るなんて出来るのかなぁ」


 ヴァイツが息を飲むのを感じるが、その目は覚悟を決めているように見えた。


「さて、いつでもいいぞ。お前達もすぐにでも出発したいのだろう。私に僅かに掠りでもしたら笑顔で見送ろう。さあ、来るといい」


 陛下は腕組みをして、余裕の笑みを浮かべているが、ノルンはそれを見てあからさまに不機嫌な顔だ。


「そうですか、では……参ります、陛下。怪我をしても怒らないでくださいね」


 ノルンは先制し、愛用のハルバードを高速で突き出したが、すっと陛下が動いたと思った時にはノルンの脇に立ち、ハルバードを指二本で掴まれていた。


「え!? そんな……! 見切られた!? こんなに緩やかな動きを私が捉えられないはずなんて無かったのに……!」


「聞いてなかったのか? 私は殺す気で来いと言ったぞ、ノルン。それにお前は感情がすぐ顔に出る。それでは攻撃を見切られて当然だ」


 陛下は殺気の篭った目でじっとノルンを睨みつけ、力を込めて腕を掴み上げるとノルンは軽く裏返った悲鳴を上げる。

 そこへ俺は陛下に短剣を投げ飛ばしたが、ぱしっと難なく受け止められた。


「陛下、どこを見ているのです? 貴方の相手はこちらです。参りますよ」


「そうだ、それでいい。お前は分かってるようだな、アラケア。ならばこちらも相応しい技をみせよう」


 俺は水平に構えた戦斧に闘気を収束させると、それを一気に振り抜き、ライゼルア家に伝わる奥義『光速分断波』を発動させた。

 眩い光と共に、光の波が陛下に押し寄せていくが、陛下は側にいたノルンを手で勢いよく突き飛ばすと、俺と同様に剣を水平に向け、深く腰を落とし、剣の切っ先を俺へと向けた構えを見せた。

 そしてっ……!


「『牙神』!!」


 ズジャャァアアアアアッッッ!!!!

 陛下の体が、空気を裂く音と空気が焼け焦げる匂いと共に、駆け抜けた!

 後から発動させたにも関わらず、俺の光速分断波を一撃で粉砕し、その前方にいた俺の体にも剣の切っ先は届き、肩の肉を裂いた。

 そのあまりに強烈な衝撃によって俺は背後に大きく飛ばされ、宙でバランスを取ると、どうにか地面に両足をつけて、着地した。

 だが、裂かれた左肩からは鮮血が噴出し、ドクドクと流れ落ちる。


「ア、アラケア!!」


 ヴァイツは俺の負傷を確認した後、きっと陛下を睨みつけたが、陛下が放つ殺気の鋭さに、体が小刻みに震えている。

 それでも対抗しようと陛下から目を逸らさないのは強い覚悟故だろう。


「技に繊細さが足りないな。理知のない魔物ゴルグには通用しても人間相手だとこのように、簡単に見切られてしまうぞ」


「それが簡単に出来てしまうのは、貴方くらいですよ、陛下」


 俺と陛下が向かい合うと、放たれる闘気と殺気に城内と中庭の地面が震える。

 俺と陛下の激闘の第二幕が、ついに始まろうとしていた。


 ギィイイン!! ガギィィンッ!!

 幾度も戦斧と剣が激突し、激しい力の衝撃によって両者は弾き飛ばされる。

 しかし弾かれる度に即座に態勢を立て直し、次々と攻撃を繰り出していく。


「はははははっ!! 腕を上げたじゃないか、アラケア。だが、まだまだだな!

 そんなことでは出国許可を出せんぞ!」


「ご安心ください。何としてでも陛下の許可を頂きます!」


 俺は再び叫びながら戦斧を振り抜き、奥義を発動させた。


「『光速分断波』!!」


「『牙神』!!」


 互いの奥義が交わる。

 力、技、スピード、反射神経、気迫、いずれも陛下は俺を上回る。

 正攻法では勝ち目はない。


「……」


「……凄い、二人とも。私達なんかじゃ手が出ないわね」


 ヴァイツとノルンは、遠巻きにその戦いをただ見ていた。

 次元が違う俺達の戦いに、見守ることしか出来なかったのだ。

 だが、二人は決してこの戦いの一部始終から、目を離すことはなかった。


「陛下は確かにお強いわ、アラケア様以上に。だけど……私は信じてる。アラケア様ならやってくれるって」


 戦いが始まってから、実際にはまだ十分も経過していない。

 しかしそれがまるで一時間か十時間かに感じられるほど、激しい戦いだった。


 ザシュ!!


「ぐっ!!」


 陛下の剣が俺の胸元を斬り裂き、鮮血が飛ぶ。

 ……血を流し過ぎた。このままではそう長くは戦えないだろう。

 余力が残っている内に勝負を仕掛けるしか、俺に勝機はない。

 だが、相手は国王にして、最強と言われる聖騎士。

 その陛下の威圧感をひしひしと感じ取り、掠り傷を負わせるだけでも並大抵のことではないことは実感していた。


「ならば……」


「隠し技か? お前が私の予想を超えるには、私が知らない技を繰り出すしかないだろうからな。いいだろう、見せてみろ。だが、それが私の『牙神』を破れるものでなければ……私はお前を叩き潰すだけだ」

 

 陛下は剣を水平に構えて唯一の、そして最強の技である牙神の前動作を見せる。

 これまで以上に、陛下の気迫が大きく高まるのを感じ取れた。


「では……参ります。これが先代から教わり戦いの中で俺が昇華させたライゼルア家の最終奥義……『光速分断波・鳳凰烈覇』です」


 戦斧が燃え上がる。

 いや、まるで炎であるかのような闘気は俺の全身にまで燃え広がり、背後に煉獄の火炎鳥を浮かび上がらせた。


「我儘を通すには力が必要だ。私に相応の力を見せてみろ、アラケア!」


「はっ、ご覚悟を、陛下!」


 そして俺の奥義が……発動した。

 陛下も牙神の構えから高速で駆け抜けると、両雄の奥義は激突した!

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