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滅びゆく世界のキャタズノアール  作者: 北条トキタ
残された希望は意思を受け継ぎし、2つの光
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第百五十一話

「さて、状況から判断して、あそこにいる少年が災厄の王ネロのようですが……。試してみますか、如何ほどの力を秘めているのか。この闘刃マスカダにて、ね」


 カルギデはネロを見据えると、今まで愛用していた鬼刃タツムネとは異なり、暗色をした刀身、そして何よりその刀身には十個の赤玉が埋め込まれている大剣をゆらりと手にすると、力強く構えを取った。

 一目見ただけでその大剣が強大なる力を秘めていることが、感じ取れた。


「これはデルドラン王国にて妖精王の死後に残された妖精鉱、それより削り出して生成された特別性の神剣です。相手がかの災厄の王ネロであるならば、その力を試してみるには、申し分がないと言えるでしょうなぁ」


「待て、カルギデ。ネロには単純な攻撃では通用しない。今はまだ完全に解明は出来ていないが、奴の防御には何か秘密があるようだ」


 カルギデが今にも飛びかかる姿勢に入ったのを見て、俺はそれを制止したが、この男はそれを無視してネロに斬りかかっていった。


「笑止! 秘密があると言うなら、戦いの中で見極めれば済むこと!」


 ネロは暗黒色のオーラを放ちながら繰り出されたカルギデの一太刀を、まるで微動だにせず防御行動すら取らずに、その身に直撃させた。

 だが、カルギデは動じることなく更に幾度も斬撃を浴びせていく。


「なるほどっ、確かに当主殿の言った通りですなぁ! 攻撃の効き目が薄い! ですが……っ! これならどうです!?」


 カルギデは指の間に挟むようにして握った数本の針を、ネロの周囲に投げ放つ。

 すると暗色の光と共に技が発動し、結界のようにネロを封じ込めんとした。


「奥義『影法呪縛』っ!!」


 それより、ネロの動きが僅かに鈍ったように見えた。

 だが、カルギデは奥義を発動させたことに慢心することなく、冷静に技の効果とネロの動きを見極めんとしていた。


「ほう、攻撃は通らずとも技の特殊効果ならば効果があるようですなぁ。ただ……それすらも力ずくで掻き消してしまうと言う訳ですか。異常とも言える規格外な基本的性能の高さによって」


 カルギデが言った通り、ネロが笑いながら念を込めると、奴を取り囲むように地面に突き刺さった針は、瞬く間に腐ってぼろぼろと崩れ落ちてしまったのだ。

 それを見たカルギデは後方に飛んで、ネロとの間合いを計り直した。


「アラケア様っ、私も戦います! 少しでもお力になれるなら!」


 その隙をついて今までネロから動向を目で監視されて動けなかったノルンが、 俺の元へと走って駆け寄って来たが、ネロの目つきが明らかに険しくなったのを見て、その身を震わせた。


「……母さん。何で、僕のことよりもそんな猿なんかをさあ」


「ふざけないでっ! 私は貴方の母親じゃないわ! 一体、何なのよ、貴方! はっきり言っていい迷惑だわっ!」


 ノルンのなじるような言葉を聞いた、ネロの形相が殺意に満ちていく。

 だが、それは一瞬のことですぐにまた落ち着きを取り戻し、笑みを浮かべた。


「……そうか、そうなんだ。母さんは記憶を失っているんだね。だったらさあ、失ったその記憶を僕が取り戻させてあげないとっ!」


 ネロが強い力で両足をつけている床をその場で踏み抜いた。

 と、同時にその姿が掻き消え、途轍もない衝撃と振動が、周囲に走った。

 それらは部屋内を駆け巡り、内部構造をも大きく作り変えていった。

 天井が消し飛び、柱は倒壊し、壁はひび割れた挙句に粉々に吹き飛んだのだ。


「う、おっ! 奴め、跳躍したのか!? それだけでこれだけの破壊力を!」


 俺とカルギデは衝撃を防御姿勢で耐え切った後、揃って上を見上げた。

 なくなってしまった天井の代わりに広がっていたのは、赤黒い光が渦巻くまるで異空間さながらの光景だった。


「まあ、バトルフィールドが広がったのは、私にとっても好都合ですがなぁ。ですが、飛び上がったと言うことは、ネロは今度は上空から来ると言うこと! 迎え撃たせて頂きましょうかっ!」


 確かにネロは上空にいた。だが、それを目にした俺達に戦慄が走る。

 ネロは無数の火の玉を眼下の俺達に放ちながら、頭上からそれらと共に床へと落下してきていたのだ。

 そして先に床へと到着した幾つもの火の玉が着弾と同時に炸裂し、周囲に爆発と空高く噴き上げる火柱を上げさせた。


「ちぃぃぃっっ!!」


「むううううっ!!」


 全身の皮膚を焼かれる熱さと皮膚が裂ける痛みに俺達は叫びを上げる。

 だが、真の恐怖はここからだった。一呼吸遅れてネロが落下してきたからだ。

 そしてついにネロの体が地ならしをした後の床へと、勢いよく降り立った。

 瞬間、これまで以上の衝撃によって床が波打つようにして襲い掛かると、抵抗も空しく俺達の体は弾き飛ばされた。


「くっ! ネロは、どこだ!?」


 俺は防御に大半の力を割く中でも、ネロの動向を探るべくその姿を追った。

 そして見たのは俺を容赦なく叩き潰すべく迫りくる、俺の目に錯覚を与える程の巨大にさえ見えるネロの拳だった。


「災厄の王、ネロ殿! 私の名誉のためっ、その首を頂きましょうか!」


 だが、それと同時に闘刃マスカダを振りかざしたカルギデが、ネロを迎撃すべく突撃を仕掛けていた。

 そして空中にて、暗黒色の波動を纏わせたカルギデとネロの拳が交差する。


「うおおおおっ!!」


 二人が激突した瞬間、その隙に俺もまた飛びかかっていった。

 床へと降り立ったネロが俺達の斬撃を両腕で次々と受け止めて、弾いていく。

 だが、それでも俺とカルギデは揃って間断なく攻撃を繰り出していった。


「何て光景なの……あのカルギデとアラケア様が一緒に戦ってる……。共通の敵を前にしたからと言って、こんなことが起きるなんて」


 唯一、これまでの攻撃の被害を免れていたノルンが、そう呟く。

 俺にとっても意外だったが急ごしらえといえ、カルギデとのコンビネーションは不思議と息が合っていた。

 攻撃が通らないとはいえ、俺達の攻撃は明らかにネロを押していたのだ。


「まったく、この猿共がさあっ! ここまで力の差を見せてやっても、ちっとも諦めないなんて面白くないねっ!」


 苛立ちを見せたネロが再び残像と共に跳躍すると、またもや先ほどと同じく、着地と同時に尋常ではない衝撃が床をうねらせながら、四方へと放たれていく。

 俺は咄嗟に飛び退いて衝撃を緩和させていたが、ネロの着地地点から近くにいたカルギデは回避が間に合わず、俺よりもまともに衝撃をその身に受けていた。


「ぐうううっ! これしきのことっ、どうと言うことはありませんなぁ!」


 しかしそれでも尚、カルギデは怯むことなく闘刃マスカダをネロへと繰り出し、その肩に目掛けて刃を斬りつけていた。

 だが、受けたダメージは決して軽くはなかったのだろう。

 その斬撃は勢いに欠けており、カルギデらしかぬ弱々しい一撃だった。


「っ! 痛っ……」


 だが、しかし……予想に反して、カルギデの攻撃はネロに通っていたのだ。

 ネロが血が流れ出る肩口を押さえて、表情を苦痛に歪めている。


「攻撃が効いた!? なぜだ、今の一撃はこれまでとは何が……そうか!」


 俺はカルギデの元に走って駆け寄ると、手を貸そうとしたが、この男はそれを振り払ってから言った。

 どうやらカルギデも俺と同様に、ネロの防御の秘密に気付いたようだった。


「気付いたようですなぁ、当主殿も。ネロは、一定速度以上の攻撃を遮断する。どうやら、そんな防御結界を身に纏っているようです」


「ああ、それさえ分かれば勝機は出てきたな。だが、それでも奴が尋常ならざる戦闘力の持ち主であることに変わりはない。簡単にはいかないだろうがな」


 疲労は蓄積し、負傷も大きいが、ようやく見えてきた光明によって俺達の目には確かな活力が漲り始めていた。

 俺は顔面の血を拭うと、ネロに聞こえるように言い放った。勝利宣言を。


「お前の秘密は見抜いた。これからは俺達の反撃の時間だ。覚悟はいいな、ネロ」


「へええっ……下等な猿がさあ、言ってくれるね。ちょっと僕を傷つけたくらいで勝てると己惚れちゃったなんてさあっ」


 俺とカルギデはやや距離を開けて並んで立つと、それぞれの武器を構えた。

 それを見たネロは笑い声を響かせながら、またもや上空に飛び上がった。

 奴のこの必勝戦法に対し、俺達は作戦の打ち合わせをした訳ではないが、自然と取るべき行動は理解していたのである。


「おおおおおおっ!! いくぞ、カルギデ!!」


「ええ、ですがネロを倒すのはこの私です! 邪魔立てはなさらないよう!」


 俺とカルギデは周囲に散って、奴の着地を待った。

 そしてネロが火の玉と共に空から落下してくると、爆風が戦場に走った。

 だが、それが俺達の反撃開始の狼煙となったのだ。

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