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彼女は23月鳥

作者: 雨皿茅端



 僕の彼女は23月鳥。毎朝六時に僕の事を起こしに来る。勿論玄関からだ。二階の窓から飛び込んで来たりなんかしない。堂々と玄関から入ってくる。勿論鍵はかかってくるので僕がベッドから起きて半分脱げたパジャマのボタンを付けて、ズボンを履く。その間もずっとチャイムは鳴りっぱなしだが、気にしない。もうなれた。「早くしないと遅刻しちゃうよー!」しない。絶対しない。「うっさいんだよこのガキ!」「んあだとー!こちとら早起きして忍ちゃんが遅刻しないように頑張ってきてるんだぞー!てめぇらの学校つーのは隣にあんでねぇか?」そうだ。僕の二階の部屋の前には学校がある。中学校だ。僕たちは中一の春に出会って夏休みの花火大会でお互いの事が好きになって二学期が始まる頃には付き合い始めていた。が。それから毎日こんな調子だ。午前六時に23月鳥の彼女は僕を起こしに来る。だがそれも中学二年の春になるともう慣れてしまって、逆にそれどころか寝起きの悪い僕がこれで遅刻しなくなったので有難いというか、へへ、ちょっとしたノロケ話にして消化しちゃえるくらいには可愛げのある彼女の求愛行動だと…おっとこれじゃ畜生みたいなもんじゃないか。「忍ちゃんまだー?」「今いくー!」二人の朝ごはん用に昨日準備しておいたサンドイッチを通学カバンに入れて学ランの上着を着て玄関の戸をあけると、目の前にはハゲヅラのおっさんが頭から血を流して死んでいて、その屍体を23月鳥な彼女がボリボリとどこかのじゃがいものスナック菓子みたいに食べていた。右腕左腕右足左足胴体頭。その順番でリズミカルに素早くその小さなお腹の中にごっくんと全部入れると、スカートの埃をぱぱっと払ってこちらに手を伸ばしてきた。


「血がついちゃってるよ」

「あららほんとだー」

「拭いてあげる」

「忍ちゃんはやさしいね」

「これぐらい普通だってば」

「そういうのが嬉しい」

「朝ごはんいらないっぽい?」

「いらないっぽい。あ、でも折角だし。お茶くらいもらおうかしらん」

「まぁいつもの所についてからでいいか…」

「そうだね」


 23月鳥の彼女にはギザギザの歯がついているからキスをするときがこわい。でも毎朝一回はするようにしている。血生臭い時はつい顔をしかめてしまうんだけど、彼女は大体その時目を閉じてしまっているので多分気づいてないし大丈夫だ。と思う。そんな彼女と毎日こんな朝早く会って何をしているのかというと散歩だ、近くの川まで手をつないで散歩する。散歩して色々なおじちゃんやおばちゃんと挨拶したり、リア充死ねってガキ共に言われたりするのが楽しい。多分彼女の楽しいと思ってる筈だ。それで学校が始まる時間になったら学校にいく。そこで授業を受けて、放課後になったらまた一緒になって帰る。家に帰って宿題をして風呂に入ってごはんを作って食べる。テレビやゲームをしたり彼女と電話したりラインしたりしてして寝る。寝て起きて朝6時に彼女が起こしになってきて僕は家を出る。出るとすぐ目の前に屍体があってそれを23月鳥は彼女が食べている。僕はそんな彼女を頭を撫でたり、ちついた血をハンカチで取りながら今日持ってきた朝食の話をする。ちなみに僕には両親がいない。彼女に食べられてしまったから。


 めんどくさい大人達はめんどくさくなると彼女に食べられてしまう。

 23月鳥、というのはつまりこういったもの(病気)を背負った鳥(人間)たちの事を指す。

 

 見た目は人間だけど、中身は人じゃないからと言って、病気に罹った人たちを区別するためのNo.が与えられたのが始まりだ。でもNo.だとそっけないって、可愛くないって色々な人間が死んだり殺されたりしたので、代わりの名前が付いた。鳥と月だ。病気の種類毎に数字と月の名前がつけられることになった。ちなみにそれぞれには異名がついていて、彼女は23番目の病気名がついているから23月鳥。この何月病に罹った人間が決して普通の人間に戻ることはできない。自分のからだに宿った力と共存しながら共に生きていくか、その場で死ぬしかない。そんな病気に罹った彼女の事を僕はその生で決して絶対に呼ばない。異名も口にしない。彼女に両親を殺されたからと言って怒らない。愛してる。誰よりもあいしてる。今繋いでいるこの手でもって彼女の愛しているのだから、つまり問題ない。


「忍ちゃん何難しそうな顔してんの?」

「ああ、なんでもないよ」


 さぁ、一緒にお茶を飲もう。今日もまた同じ川べりに来て、自前のお茶をコップに注いで彼女に渡すと、彼女はそれを美味しそうに飲んで、むせて、吐いた。そして、その唇にキスをした。例えばその時僕の両手が彼女の首に手を掛けようとしていたとか、桜の花びらが水筒の中にひらひらと落ちていきそうになったこととか、例えば僕がこの手で彼女の首をしめたら彼女は僕を殺すのだろうかとか、そういう当て所のない疑問をさっと一秒程考えている間に彼女の肩の力は抜け、咳は止まり、顔は赤くなってまたジット目をつむっている彼女にもまた両親がいない。彼女をおいて出ていこうとしたところを彼女に食い殺されたのだ。その現場に居合わせた僕はその日浴衣を着ていた。お互いに告白したあの夏の日に彼女は23月鳥を罹患したのだ。


 彼女に与えられる餌、というのは罪人だ。そして彼女に罹った病気はこういうものだ「自分の好きになった人との時間を邪魔する奴を食べる」そんな彼女がまともな社会生活を贈ることなど出来る筈がなかった。ので、彼女は今迄の、僕以外の記憶を消した。僕や彼女の両親を食べたことを忘れて。この小さな街、作られた街、言ってしまえばドームの中で、僕らと同じような症状を持った奴らと毎朝うえから落ちてくる大罪人が僕らの時間を邪魔するのを待って、それを彼女が綺麗に食べて学校に言って寝て、起きて食べて散歩とかして、してる奴らも皆そうだから、桜の花びらは、だから年中あんなにもピンクに咲いているんだとさ。ちなみに僕らは上から落ちてきた奴らが本当に罪を背負った奴らなのかなんて知らない。


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