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雨男、その尾を濡らす  作者: 汐多硫黄
エピローグ ~雨降って、地・END~
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エピローグ

エピローグ ~雨降って、地・END~




 子供が生まれた。


 ああ、勘違いしないで欲しい。勿論、俺と《アイツ》の子供じゃないんだ。


 まーね。もしそうだったら、きっとイヅナにも胸を張って報告できたんだろうけど。


 一言で言えば、現実はそんなに甘くは無い。


 二言で言えば、漫画みたいに、それこそ何事もなくいきなり十年後ってわけには行かないって事。


 人生は、青春の延長線上であり、青春は《狐、その尾を濡らす》って奴に他ならない。


 つまり、始めるのは簡単だ。けど、終わらせるのは……難しい。


 人生はそんなに甘くないし、人間生きていればそれなりに色々あるもんさ。そして、それよりなにより… そんな風にしていちいちスキップしてちゃ、人生もったいないだろ?


 なんて、この俺がどの面下げて言うんだよって感じだよな。あぁ、勿論それは分かってるつもりだ。


 かつての俺がどんな人間だったのか。それは、痛いほどに理解しているつもりだからな。


 あの頃の俺と来たら。寝ても覚めてもただただ日々を無為に過ごすばかりで。一体何がしたかったのか? 持て余すエネルギーを、無駄に消費する日々。とにもかくにも、なんとも非エコロジカルな毎日を送ってたってこと。


 っと。話が横道に逸れちまったな。えーっと、何の話だっけ? … あぁ、そうそう。子供の話だ。


 子供が生まれるっていうイベントは、ある意味人生の縮図であると、俺は思う。


 青春からの脱却。そして、人生の始まり。人はいろんなものを心の中に背負い込んで生きていく生き物だからな。


 具体的には何を抱え込むかって? 例えば、ほら… 狐とか。


 卒業といえば。


 何を隠そう、今日は星彗学園の卒業式だ。つまり、あれから一年半が経過したことになる。


 それをあっという間だったかと捉えるか、それとも長かったかと捉えるか。その感覚の相違こそ、その人の送ってきた人生の指針なんだと俺は思う。


 俺の場合は… どうだろうな? 死ぬほど長かった気もするし、イヅナとの出来事が昨日の事のように思うこともある。


 胸を張れ。前を向け。動かなければ、何もしなければ全ての可能性はゼロのまま。


 俺は、常にそう自分に言い聞かせてきた。そうだな、その成果が少しでも現れていたら、嬉しいんだけどな。


 ん? おぉ、そっか。もうそんな時間か。 なぁ、イヅナ。そっちはどうだ? そこから見える景色は、かつて俺の中から見た世界と、どう違って見える? なんてな。


 それじゃ、そろそろ行くか。んじゃ、今日も良い仔で待ってるんだぞ? 《イズナ》。


 … あん時の仔犬《小雨》が、いっちょ前に子供ってか仔犬を産んじまうんだもんな。日々の流れを感じるぜ。

 

 しかも何が笑えるって、物凄い狐顔なの。犬の癖に! まるでイヅナそっくり。なんて言ったら笑われるかもしれねーが、だから名前はお前からとって… 《イズナ》だ。


 まぁ、そう笑ってくれるな。俺だって大概だと思ってるんだからさ、でもいいじゃねーか。人間は感慨に耽る生き物だって、イヅナも身をもって証明していただろ?


 ってなわけで、そろそろ《アイツ》も待ちくたびれている時間だろうし… 


っ良し!! イヅナ。まぁ、見ててくれ。


今日、俺は、アイツに告白して…… この青春を卒業する。


この一年半、悩みに悩み、導き出したこの結論。


《雨男、その尾を濡らす》って奴だ。


俺とアイツの間に、一体どんな未来が待っているか。願わくば、俺達の行く先が満天の青空で有ります様に。




 それじゃ、行って来るよ。






 ―― 過去を紡ぎ未来を見据える今を成す為、青年は、今日も今日とて雨の中を、征く。








THE END


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