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雨男、その尾を濡らす  作者: 汐多硫黄
降水確率2% 「雨男と徒然なる来訪者」
4/9

 成り行き上、金髪異国少女の世話係りとなった青年は彼女とともに昼食を摂るため、屋上へとやって来たのであった。


「学園を案内する意味では学食とかの方が良かったんだろうけどさ、今日は珍しく晴れだろ? 貴重な晴天だから。ってことで今日は屋上で昼飯だ」

「あんだすたんデスよ、サミー」

「サミー、ね。まぁ祖チ○より大分マシか。ってか、お前さんは転校初日で昼飯は準備してあるのか? 無ければ俺の手作り弁当を少し分けるけど。今日は更科の奴から死守したからな」

「ノーもんだいデスよ。キーテはコレがブランチなのデス。しんぱいいらんチンなのデスよ」

 そう言って少女がカバンからがさごそと取り出したもの。それは、とても良い具合に完熟した一房のバナナだった。いや、バァナナーナだった。

「バナナかよ。ってかバナナかよ。いや、まぁ、否定するつもりはないんだけどさ。意外と言うかなんと言うか… あぁ、もしかしてお前さんのお国の名産品とか?」

「いや、ゼンゼン」

「あ、そう。いや待て。そう言えば朝からずっと引っかかってたんだ… キーテ、お前さん、いったいどこの国から来たんだ? 普通、そういう情報は挨拶で真っ先に言うもんじゃねぇのか? 他の部分があまりに強烈だったからすっかり忘れてたけど」

「…… キーテは、ニホンからとってもとってもハナレタ、チーサナチーサナしまぐにでうまれたのデス」

「へぇ、島国か。一応ここも島国だからな。ってか南国?」

「イエス。ニホンよりずっとずっとアツイのデス。こくみんはビキニがふだんぎなのデス」

「マジでか!?」

「ジョーだんデス。それは、さいきんべんきょーのためによんだマンガのせっていデシタ」

「嘘かよ!」

「キーテは、そのクニから… 《ジャパニーズ・もえ》のブンカをベンキョーするためにやってキタのデス」

「マジでか!?」

「ジョークデス。そーリー、それはさいきんよんだラノベのせっていデシタ」

「また嘘かよ!? ってか、喋りながらバナナ食うのは別に良いんだが… さっきから何なの? その食べ方。先端を舐め回すような食べ方。後その持ち方ってか触り方! もうアレにしか見えないからね? アレをアレしてるようにしか見えないからね? アレをアレして、アレするようにしか見えないからね。わざとなの? 流儀なの? おいおい、流石は南国… パネぇな…」


 解説は都合により省略するのである。貴兄らのご想像にお任せする次第なのである。

 それと青年、恥ずかしいからそんなに興奮しないでくれ。


「キーテのクニではバナナはこうやってタベルのがジョーシキなのデスよ? モチロン、ウソなのデスけどネ」

「ですよねっ!!」

「うそをウソとみぬけないヒトには、キーテをあんだすたんするのはムズカシイよ」

「いや、何かお前さんの事をこれ以上知るのが怖くなってきた。こりゃ、君子危うきに近寄らずだな」

「ク○ニうきうきイシャいらず?」

「どういう民間療法だよ!? 流石南国だぜ…。南国舐めてたぜ、あ、色んな意味で…… ゴホン。まぁ、とにかく、お前さんが言いたくないならそれはそれでいいさ。良好な人間関係を築く上で何より大切なのは、相手に踏み込み過ぎないことだ。相手のことを知りすぎないことだ」

 青年が言うと物凄く説得力のある言葉である。

 勿論、反面教師として捉えていただければ、ドヤ顔の青年も浮かばれるというものなのである。

「ま、一言で言うと俺の経験則だよ。二言で言うと、俺みたいにこんな体質してると色々と… いや、何でもない」

「…」

「おっと。何だかんだで昼休みも残り時間少ないぜ。おふざけはここまで、とっとと食べちまおうぜ」

「こんなの、おっきすぎてキーテのおくちにはいりきらないヨォ」

「俺の話聞いてた!?」


          ◆


 放課後。


「更科はHRが終わった途端いつも通りドロンか。あいつ、部活やってるわけでも無い癖にいつも何やってんだかな。まぁいいさ、キーテ、一応学園内を案内してやる。この後時間大丈夫か?」

「イエス。モロチンおっけーデス」

「一応言っておくが、もちろんだからな。まぁ、大船に乗ったつもりでいたまえよ。ぼっち暦の長い俺に案内できない場所は無いんだぜ。なんせ校内探検ってのはちょっとした時間つぶしにゃ最高だからな」


 青年は、とても良い顔でそう言い切った。

 とても胸を晴って言えるような事じゃない。けれど、こうしてその技能が活かされるシーンが実際に巡って来たのだ。やったな青年! 異国少女を連れて存分に気が済むまで校内を廻りたまえ!


「んじゃまず1階から。ここらは下級生の教室な」

「カセイのホーケイな?」

「去年俺達が使っていた教室だよ。この学園は学年が上がれば教室も上になるんだ。いわゆる、余談だ。ま、一応。どうでもいいけどな」

「いっしょう、童貞デモいいけどナ?」

そんな呪詛の言葉を振りまきながら、青年と少女は放課後の校舎を巡る… あぁ、そんな青春の一ページ。


の、はず。たぶん。 

 

         ◇


「1階で忘れちゃいけないのが食堂の存在。お前さんだっていつもバナナってわけにはいかないだろ? そーゆー時はここを使え。安いし、味もまぁ悪くないし、安いし、メニューも多いし、何より安いな」

「サミーもよくツカウ?」

「いや、俺は滅多に使わないよ」

「わからんチンです、ナゼデスか?」

「ぼっちでここ来るとすげぇ目立つからな。視線の弾丸。無言のプレッシャー。飯の味なんかわかりゃしねーレベルさ」

「Oh サミー、とってもカワイソス。こんどいっしょにタベヨーネっ♪」

「……。嬉しくなんか… ないんだからね」


 その時の青年の瞳は、太陽に照らされた雨露のように輝いていたという。


          ◇


「2階。俺達の教室は省略するとして、後はまぁ、理科室やら視聴覚室やら専門教科やら文化部の教室が多い階だな。要注意スポットとしては、風紀委員の会議室があるのもこの階だ」

「フーキイイーン? なんだかドキドキするひびきデスね!」

「そうだな。ドキドキというよりブルブル。ワクワクというよりガクガク。お前さんも気をつけろよキーテ。そこにはおっかない委員長殿が居る。ってか出来ればお前さんとは会わせたくないな。風紀委員長と歩く18禁。どう考えても相性は最悪だろうからなぁ…」

「ノーもんだいデスよ。キーテはとてもヨイこ」

「或いは喋らなきゃそうかもな。口は災いの元だぜ」

「クチはさわさわのアト?」

「何かゴメン。俺の心が汚れちまってて…」


 青年は思った。これはもう、わざとだとかカタコトとだか言うレベルなどではなく… 単に聞き手の魂の穢れの問題なのだと。

 もしかして自分は、試されているんじゃないのだろうかと。そんな事とは露知らず、異国少女は、満面のアヘが、もとい、尚も純粋無垢な笑顔で、優しく微笑み続けるのであった。


          ◇     


「3階。上級生の教室がある階だ。特に用事でもない限り寄り付かん方が懸命だな、授業で使うような特別教室も少ないし。知り合いもいないし。それに… こんな目つきしてると、喧嘩売ってるように勘違いされる事も多々ある。ネクタイもしてねーし。そういう時は決まって血を見る結果になるもんさ… 勿論、主に俺の」

「とんだチキンやろー、デスね!」

「うん。我ながらそう思うよ… だから指差して笑うのは辞めてくれ」



 時間の許す限りだらりだらりと校舎内を巡った青年と異国少女。

 そんな二人が最後に辿り着いた場所。それはこの校舎の最上階、つまりは屋上だった。


 夕暮れとともに、黄昏色に染まりつつある校庭を眺めながらひっそりと佇む男女。

 おぉー、これは絵になる。絵になるぞ青年。まさに青春の1ページじゃないか!


「まぁ、こんなところだろ。悪いな、色々つき合わせちまって」

「でも、キーテはたのしかったデスよ?」

「そう言って貰えると助かる… それに、俺も楽しかったよ。誰かと一緒に校内を廻るなんてあんまり無かったからな。中々えらい経験をさせて貰った」

「エロイけいけん?」

「… まぁ、あれだ。俺が言うのもなんだが… ってかぼっちな俺だからこそ言えるんだが。お前さんならまだ大丈夫だ。転校初日にちょいと飛ばしすぎちまった程度ならまだまだ取り返せる、平穏でありふれた素晴らしき青春って奴を謳歌出来る筈だぜ。お前さん、黙ってれば目を引く容姿してるしな」

「?」

「ま、俺が何を言いたいかって言うとだな。席が隣だからって俺に構う事は無いってこと。大した事したわけじゃないが、今日のことで恩義を感じる必要も無いって事。だから… うーん、悪い、うまくまとまんねーんだが、よーするに… お前さんならクラス連中とも仲良くやれるだろって話さ。最も、多少難はあるがね。だからこそ、俺にかまってるとお前さんまではみだし者になっちまうかもしれないからな。それだけは避けたいんだ。こんな思いをするのは… 俺だけでいい」

 青年よ、それは… なんと言うか。少々潔すぎるというか。達観しすぎているというか。

 異国少女のためとはいえ、青年は本当にそれでいいのか? チャンスを自ら潰すような真似をして、本当にそれでいいのか!? 青年!!

「ってな事で、左雨五月雨による校内探索ツアーはこれにて終了だぜ、お疲れさんだ… 見ろよキーテ、空もあんな見事なオレンジ色に染まってやがる。ここ最近は雨ばっかりでこんな綺麗な夕焼けは見れなかったからな、季節柄仕方ないとはいえ。そういう意味ではツアーの最後にお前さんにこの夕日を見せられて良かったよ」

「オォー。ゴールデンタイム、デスね」

「かくいう俺はこの屋上が好きでね。一人になりたいときはいつも… ってか、大抵はもともと一人なんだけどな? 良くここから景色を眺めるんだ。俺がこの学園で一番気に入っているのがここからみる景色。月並みだが、自分の抱える悩みなんてちっぽけなんだって思えるくらいには見事なもんだろ? 今の時間帯なら尚更だよ。この景色のおかげで、俺はこれまで何とかやってこれた… ってのはまぁ、言いすぎだけどな」


 屋上。

 夕焼け。

 独白。

 

 何だ、青年もやれば出来るんじゃないか、人並みの青春。 


 だが、青年はやはり青年。捩れて捻くれまくった人生・運命を送るのがこの青年なのだ。

 だからこそ、話はただの美談では終わらない。青春の一ページには収まりきらない。

 だからこそ、だからこそ、少女は…。


「キーテも、ひとつ、コクハクしたいことがアリマスデスよ?」

「あぁ? なんだよ藪から棒に」

「サミー、さっきしりたがってタヨネ? キーテが、ドコからキタのか」

「まぁな。けどお前さんが喋らなかった以上、俺はもう無理やり問い詰めたりしねーよ。安心しな」

「………」

 異国少女は、一歩、また一歩と青年に近づいていく。

 頬を紅色に、体をオレンジ色に染め。異国少女は少しずつ、けれど確実に青年の前に近づく。お互いの吐息が掛かる、その距離へと。

「あの、キーテ? キーテさん? キーテ・アロエリーナ・アッパレリアさん? おい、何だこれは。ってかデジャブかよこのパターン」

 互いの息どころか、互いの唇が触れ合う距離。誰かが後ろからちょいと後押ししてやれば、もしくはどちらかがちょいと勢い付けばそれこそ触れてしまいそうな距離。

 あぁ、青年よ。やっぱりやっぱりこのまま青春の階段を三段跳びで昇るつもりか? だが、それもまた青春。

 さぁさぁさぁ青年よ…… 今度こそ、大志を抱け!!!


「…… サミー」

 熱っぽい視線と熱い吐息を携えて… 彼女は… 異国金髪碧眼少女は… 青年の… 青年の… 青年の大切な…




 首 を 絞 め た 。




「ぐぅええええっ!? ぐ、ぐるじ、キーテ、おま、え… な、んの、つもり」

「キーテは、とってもとってもチーサナシマでウマレタ」

「ギブギブギブ! ってか、ば・か・ぢ・か・ら!」

「トテモトテモあついクニ。キーテは…… そのクニのオージョさまナのデスよ?」

「ヴぇ!? 《王女》?」

「キーテは、さがしテタ。ずっと、ズット、さがしてタ」



 青年の首に、異国少女のか細い手が巻きつく。

 青年の首に何かが巻きついた。

 

 東から昇った太陽が、やがて西に沈むように。

 冬が終わり、やがて春が訪れるように。

 人間が生まれ、やがて死に至るように。 


 それは… とどのつまり、至極当たり前の事であるかのように、当然の事であるかのように…… 《雨が降る》事を意味するのである。



 しとしとしと。


「!!!! アメ! あめ!! アメーーーーー!!!」

 

 しとしとしと。


 

 雲ひとつ無い空から徐々に降り始めた雨は、黄昏色に染まる二人の若人を少しずつ濡らして行く。


 言葉とも取れぬ歓喜の叫びを上げながら、青年の首からようやく手を離しながら、異国少女は屋上にてぴょんぴょんと飛び跳ね廻る。


「げほっごほっがぼっげほっ。き、キーテ、お前さん、いったいなんのつもりだコンチクショー! 俺を殺すつもりかよ!」

「ノーノー! サミーはとってもとってもタイセツなヒト。そんなのアリエナイヨ!」

「だったら何だこのヤロー! 自慢じゃないが、俺を殺したって一ミクロンの得もありねーぞ! 思わず《あの三人》に緊急SOSメール送っちまったじゃねーか、どーすんだよコレ…… イヤ、待て。それよりお前さん、さっきさらっととんでもないこと言ってなかったか? 確か、王女がどうとかって。ん? まて、キーテ、お前さん…」


 屋上にやって来て。二人で景色を眺め。独白し… 首を絞められる。

 未だ混乱の渦中にある青年。

 雨の降りしきる中、まるで気でもふれてしまったかのようにはしゃぎまわる異国少女。


 屋上で若い男女が一組。その構図は最初と変わっていない筈なのに、事態は一瞬にして変貌を遂げてしまった。

 青年の前に現れたこの異国少女の秘密、そしてその正体、目的は? 

 

 だが、この緊迫状態において事態はさらに雲風急を告げる。更なる登場人物達の到来。招かれざる来訪者。

 3階と屋上をつなぐ階段を怒涛の勢いで駆け上がってくる二つの足音。そして、勢い良く開かれるドア!


 青年、何だこれは! どーするんだこの状況! 全く予想がつかないぞ!


「五月雨君! 急にあんなメールを送ってくるなんて… いったい何事!? 急に降りだした雨ってまさか」

「なになになに!? イヒヒヒヒッw さささ君、何か楽しいことでもあったぁ?」 


 突如として現れた風紀委員長女史と少女更科。

 だが、異国少女は気にとめない。その狂喜を、その目的は、その開かれた口は、もはや誰の手によっても止められない。



「あぁ、いとしのサミー。このキーテ・アロエリーナ・アッパレリアと、どうかどうか………… ケッコンしてください、デっス!!!」



『はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!???????』



          ◆ ◆ ◆



 かくして出会った青年と異国少女。

 黄昏色の夕暮れを背に、雨に濡れるは4人の男女。

 究極の雨男体質にして灰色の青春をおくる呪われし究極のぼっち、我らが青年《左雨五月雨》。

 風紀委員長にしてM気質な運命論者、青年と急接近しつつある晴女筆頭《晴模様命》。

 謎の転校生にして、歩く放送禁止ワード製造機こと金髪異国少女 《キーテ・アロエリーナ・アッパレリア》。

 

そして。

 青年の腐れ縁にして…… 実は、《最大の問題》を抱えるキーレディ《更科》。


 はてさて。物語りはいよいよ佳境。青年を巡る三竦みの青春という名の争奪戦争が、今、始まろうとしている!!!! かもしれない。


 負けるな青年! 本当の青春はすぐそこにある筈だ! … 多分。気になる続きは第三話へ続く? 続く。


 ごほん。それでは、いざ、明日へ向かってキャッチザレインボー!    



 ……それでは、お後が宜しいようで。



END

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