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雨男、その尾を濡らす  作者: 汐多硫黄
降水確率1% 「雨男と運命論者」
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「雨男、その尾を濡らす」

                                

降水確率1% 「雨男と運命論者」



人生とは、孤独であると言う事。


 青年の短い人生において。

 青年は、それを良く知っていた。とてもよく知っていた。身に染みて… 理解していた。


 そう。

 何故なら青年は…… 《雨男》だから。


 これは、稀代の雨男である一人の青年「左雨五月雨」と、ちょっとだけ訳アリな《晴女》達との騒がしくも騒がしい、そんなひたすらにただ騒がしいだけの物語なのであーる。




         ◆ ◆ ◆




 梅雨。今年も彼が一年で最も嫌いな季節がやってきてしまった。


 いや、実際のところ彼が感じているこの感情は「嫌い」という言葉とは若干ニュアンスが違うのかもしれない。


 そう、正しくは、《嫌い》な季節ではなく《最悪な》季節だ。

ズバリ言おう。

 

 青年は、雨男だった。

 

 ただし、芸能人や有名人が気取ってそう名乗るような、だだの気取ったプロフィール上としての雨男ではない。

 そう。正真正銘の雨男なのである。


 

 ほわほわほわほわ~ん

 


 ………

 ……

 …



 彼が最初にこの事実に気がついたのは、小学生の冬のころだった。

 元来暑がりな体質の彼は、真冬にもかかわらず、マフラーというものを使用する機会が殆どなかった。それでも彼の意志とは関係なく、彼の母は小学生の彼にマフラーを巻いてくれることがあった。


 不思議な事に、そんな日に限って雨が降った。

 

 勿論、そんなものはただの偶然だと思っていたし、実際、青年がとある事実に気がつくのに、それから数年の歳月を要した。


 Q そのとある事実とは一体なんぞや?

 A 青年が首に何かを巻くと、その日は決まって雨が降る。


そして。幸か、不幸か。

 青年が入学した中学は、ネクタイの着用が義務付けられていた。

 別段制服でその学校に決めたわけではなかった彼は、何の疑問も躊躇も無く。結果、毎日そのネクタイを着用して登校した。


 するとどうだろう。


 入学式以来、連日連夜、雨、雨、雨。元々その稀有な名前から雨男であると、周囲からも半ば冗談で認知されていた青年。

 最初こそ、入学早々雨とはついてない。くらいにしか思っていな無かった彼だったが、それが1週間を超えたくらいからやがて疑惑に変わった。

 しかも彼がネクタイをつけていない日。つまり、土日はしっかり晴れているという事実は彼の疑惑を確信に変えた。幼き日からの経験と疑問が一気に蘇った瞬間だった。


 怖くなった彼は、まず、保健室の先生に相談した。件の保健教師はまだ若く、保険医としての経験も浅かったものの、彼の話を馬鹿にすること無く、真剣に話を聞いた。さらに、1週間の実験期間をおいて、彼女は、彼の話を完全に信用するに至った。


 彼女は、彼がトラウマを持っているという理由で、ネクタイ着用の義務を免除してくれるよう先生方に掛け合ってくれた。

 

だがしかーし、そしてしかーし…

 

今にして思えば。同世代のコミュニティ形成において、異質の存在がやがて淘汰されるのは極々自然な流れだったのかもしれない。完成されたコミュニュティが、排他的行動に身を落すのは至極当然の流れだったのである。

あぁ、生々しい青臭さ漂う青春の一ページ。


 彼は、中学生活の三年間いじめを受けた。件の保険医の助けを借り、何とかかんとか卒業だけは果たしたものの、残念ながら… 本当に本当にほんとーーーに、残念ながら。その頃には彼の心は完全に捻じ曲がり捻くれ、荒みきってしまうのであった。言うなれば、彼は心の中までもが雨男となってしまった…ということになる。

 

 こうして、左雨五月雨という純粋培養の正真正銘の《雨男》が完成してしまった。


 やがて時は過ぎ。

 総ての環境をリセットさせるべく、辛くも他県の高校へと入学を果たして1年。他者と関わり合うこともほとんどなく、彼の心の中だけは依然として雨が降りつづくままだった。


 雨は、彼にとっての負の象徴。


 そう。

 この物語は、彼と《雨》という彼の呪いを巡る学園青春物語なのである。



         ◆ ◆  ◆



 とある県。

 とある市。

 とある街のとある学園。

 二年のとある教室内での、とある青年ととある人物との、とある会話。

 

そんな会話から、このとある物語はスタートする。 



「なぁ、更科… 更科? … さ・ら・し・な!」

「ん~? どったの?」 

「どったのじゃねーですよ。はぁ… あのなぁ、更科。一応念のために言っておくけどさぁ。それ、俺の弁当だからね? 人様が朝もはよからシコシコ準備して作り上げた至高の一品をよぉ、お前さんはさぁ… よりにもよって目の前でさぁ、食うか? 普通」

 何をするにも憂鬱。息をするのも心底面倒。そんなダウナー系の駄目人間宜しく、青年は、ほの暗い水の底で死んだ魚のような濁りきった瞳と蒼白な不健康極まりない顔色で訴えかける。これ以上言葉で追求するのも疲れそうだから。青年は、その瞳で恨めしく訴える。やれ裏飯屋。


 そして一方。そんな青年に更科と呼称されしクラスメイトの少女が一人。妙に短いスカートに、これまた短いショートカットの良く似合う、そんなデコが光り輝く小さな貧乳少女。

 

「んー? んー。大丈夫大丈夫、ちゃんと食べられる代物だったから。問題ないよ?」

「一言で言えばびっくり。二言で言えばお前の自由さにびっくり仰天。そしてこの理不尽、糞ッ、あれもこれも… 全部、全部…」 

「ん。そしてご馳走様でしたのだ! さささ君。イヒヒヒヒw」

「はぁ… お粗末さまでした。そしてさようなら俺のカロリー」

「んー。どうしたのかね、さささ君や。今日はやけにテンションが低いじゃないの。溜息ばかりじゃないの。弁当をこのあたしに捕食されるなんざ、君にとっては日常茶飯事じゃないの。イヒヒヒヒッ… それとも、何か嫌な事でもあったかな? 顔がいつも以上に怖くなってるよ?」

「… 分かってるくせに。知ってるくせに」

 

青年はそんなセリフを吐き出しつ窓の外を眺める。

 

 雨。


 空から水滴が堕ちてくる天候。また、その水滴。大気中に含まれる水蒸気が気温が下がったり上昇気流に運ばれたりすることで凝結し、細かな水滴で出来た雲と也、雲の中で雨粒が成長し、やがて大きくなり地上に落下する現象。  


 以上、wikipedia調べ。


 と、まぁ、そんな分かりきった御託をよそに、青年は物憂げに窓の外を見つめ続ける。季節は初夏。呆れるほどに梅雨である。冒頭でも述べたとおり、青年にとって雨は人生における負の象徴。とどのつまり梅雨という季節は、彼をローテンションの極みへと突き落としてくれるそれはそれはありがたい季節なのでーあった。


「悦に浸ってるところ悪いけどさ。センセーがさささ君のこと探してたぁよ?」

「…… ほれ見た事か。あーあ、やだやだやだねぇ。こんな展開、嫌な予感しかしないっつーの」


 青年の憂鬱は、この雨が降り続く限り続くようであった。ああ、ご愁傷様。お気の毒様。


          ◆


「よぉ、来たか。雨男」

「そりゃ来ますよ先生。先生の頼みだけは断れませんからね、俺は」

「へぇ、そうかいそうかい。そいつは嬉しい。先生、超感動」


 とある空き教室の一角。

 そこで青年を待っていたとある女性が一人。年の頃30… ゴホン。ギリ20代後半。黒髪ロングに黒ブチ眼鏡。黒のロングスカートに黒のプルオーバーパーカー。そんな、黒一色を纏った女性、否、女教師が一人。


「感動したなら、もっと感動を物語る表情をしてくださいよ…」 

「あぁ? ケッ、テメーにだけは言われたくねぇセリフだな。それに、なーにが頼みを断れない、だよ。テメーが恩義を感じてるのは先生じゃなくて《奴》の方なんだろ? そうなんだろ? どいつもこいつもよぉ。揃いも揃ってよぉ。《妹》ばっかりよぉ」


 ぶつぶつと呟きながら、何故かいじけてしまう女教師。

 妙齢を過ぎた《メス》は、往々にしてメンドクサ… ゴホン。ウォッホン。失敬。人間、生きていれば、誰しも悩みを持つもの。どうやら、彼女もそのご多分に漏れない様で…。

しかーししかし。

青年は、そんな彼女の様子など馴れた様子でサクサク話の軌道修整を図るのであった。青年の日々の苦労と苦悩と憂鬱の一端が窺えるシーンであーる。


「先生。確かにアンタの双子の妹さんには、保健室のセンセにはさ、中学時代世話になったけど。現に俺は今、こうして先生に世話になってるわけだ。仮にもアンタ、担任なわけだし。当然、恩義だって感じてるさ。色々目を掛けてもらってるのも理解してるつもりなんだ」

「本当か? 左雨、テメー、本当にそう思ってるか? 妹の方と違って、色気の欠片も品性の欠片も無いガサツ女だって思ってねーか?」

「思ってませんよ。そりゃ、ぶっちゃけ、多少面倒なところはあると思ってますがね? お互い様でしょ」

 この時、青年は嘘をついた。

 多少面倒どころか、心底糞メンドクサイ女だと、心の底ではそう思っていたのだ。思わずにはいられなかったので~あった。

「お、おぉ。そうか。左雨… お前、良い生徒だな」

「はいはい。ありがとうごぜーます。それより法楽先生。俺に何か用事があって、わざわざこんなくんだりまで呼びつけたんでしょ?」

 こんなくんだり。

 青年がそう表現したここは、学校の隅の隅に位置するとある空き教室… という名の物置。教室内には、所狭しと様々な物品がぞんざいに放置されているのであった。雑然とした部屋に一人身を置くことで、日々のストレスから逃避を図る。学園内に置ける、彼女にとっての言わば秘密基地であり、隠れ家なのである。

 そんな教室内に何故か安置されている安楽椅子に身を預けながら、黒の女教師こと法楽教師が答えるのであった。

「まーな。ってかよぉ、話の取っ掛かりとしちゃ御あつらえ向きだぜ。ま、適当に座れや」

 女教師に促され、青年は慣れた手つきで周辺に転がっていたパイプ椅子を一脚手繰り寄せ、ストンと座る。

「まぁ、聞けや。実はその件の妹から、昨夜電話があったんだよ。左雨、テメーも何とかかんとか進級を果たして、今はもう二年生だろ? 妹がテメーの学園での様子を気にしててさ。これまでも何度かそーゆー事はあったんだが、糞面倒なんでこれまでは適当にごまかしてたんだ。うん」

 かつての恩師の教師らしい思いやりと、その姉の、教師とは思えない発言を同時に受け。一体どんな顔をしたら良いのか分からない青年は、一先ず無表情を貫く事を決めた。

「先生、それで?」

「ああ。んでよぉ、先生、昨夜はちょっと呑みすぎちゃってな。いー感じに酔いが廻ってるときにそんな電話が掛かってきちまったもんで、先生、色々あることないこと喋っちまったんだわ」

 あることないことって、一体何だろう。

 青年の不安はもはや爆発寸前。憂鬱の連鎖が、彼の心を打ち砕かんと、ちゃくちゃくと侵攻を始めるのであーる。


頑張れ、青年! 青年の戦いはこれからだぞ!


「つーことでさ。左雨、テメー、《晴女》を探し出せ。それがこの話の結論だ」

「ふむ。成る程。良く分かりま…… せんよねぇ? それだけじゃ分かるわけねーーですよねぇ?」

「おいおい。言ったろ? 昨夜は呑みすぎたって。頭に響くからあんま大声で喋んじゃねーよ雨男。つまりだ。這えたば立て、立てば歩めの親心って奴だぜ。分かんだろ?」

 ドヤッ。女教師は、実に良い顔でそう呟く。

「いやいやいやいや。分かってたまるかっての。国語教師だからってことわざ使えば何でも伝わると思ってんの? そしてそのドヤ顔が非常に腹が立つ!」

「んだよ。一から説明しないと駄目か? お前、作者の考えとか読み取るの苦手だろ? ったく。一を聞いて十を知るとは言わねーけどさ、もう少し想像力を養うべきだぜ、若けーんだからさぁ。テメーくらいの歳だとあれだろ? 毎晩毎晩妄想してんだろ? 夜は毎晩オッパッピーなんだろ?」

「そんなの関係ねぇ!」

さながらそれは、青年による魂の叫びだった。声高らかなる青年の主張だった。勇ましいぞ、青年! 真実のほどはひとまず置いておくとしても。

「大丈夫大丈夫ー、誰にも言わねーって。ま、左雨の暗い青春の話はさておき…… いや、駄目だ。さておけねぇんだった。それが問題なんだよ、雨男」

「… なんスか? なんなんスか」

「星彗学園二年。《左雨五月雨》、別名、雨男。お前がこの学園に入学を果たして一年間。先生はテメーの担任として、ずっとその素行を見守ってきた。ズバリ言おう。テメーの青春は… 雨模様だ」


 先生にだけは言われたくない。

雨どころか、いい年こいて万年日照り続きであらせられる先生にだけは絶対に言われたくない。

そんなセリフが喉から出掛かるのを全身全霊で止めながら、青年は、何とか必死に冷静を装う。


「友達は居ない。部活もしない。かといって学業に専念するわけでもない。そして何より… 心が荒んでる。いや、枯れ果てちまってる。毎日適当に過ごし、適当に生きる。巷じゃ草食系男子なんて造語が流行ったし、今は仙人系男子なんて上位互換もあるらしいが。そうだな、テメーの場合は、どっちかっつーと《雨降系男子》ってやつだ。勿論、先生はお前の《性質》を知っているし、過去の苦しみも知ってる。だからこそ、今のテメーの思想や、根性の曲がり具合も成るべくしてなっちまったもんだと理解しているつもりだ。だがな、左雨……… お前、このままでいいのか? このまま、なすがまま、人生にたった一度しかやってこない貴重な貴重な青春という名のゴールデンタイムを、無駄に消費しちまっていいのか? 良くない。絶対に良くないはずだ!!! だからこそ、テメーはテメーを救ってくれる存在、変えてくれる存在、《晴女》を捜さなきゃならねーんだよ! 自分で自分を変えられねーんだったら、誰かに変えてもらう。もはやそれしか方法はねぇ。ただし、それを探すのは当然、自分自身の力で無きゃならねぇんだ!!! それが、テメーに託された学園での使命なんだよ!!!! …… と、昨日、妹が熱弁してたってわけ。ぶっちゃけ先生は、どーでも良いし面倒なんだけどさ、無視するとさらに面倒なんだよなぁ、アイツ」


 反面教師。という言葉がある。

 青年にとっての恩師。中学時代の保険医であり、青年の体質を受け止め、最初の理解者となってくれた法楽妹。

 何の因果か。そんな妹から彼を託され、これまた何の偶然か担任教師として青年を見守る法楽姉。


 二人の恩師。


 今、青年の心には、言葉を超越した何かが伝わる。さながらそれは、黄金の精神を得た奇妙な登場人物達のように。それはもう、ズキューン、と。


「あぁ、なんだろうな。この感情。言葉ではなく、心で理解した。そんな感覚だ」

「マジデか!? 何だよ左雨。テメーもやれば出来るじゃん。やっぱさ~、国語って作者の気持ちを理解しようとするその気持ちがまず大切なんだよなぁ。ってかさ、ぶっちゃけ糞面倒だしテメーの青春なんぞどうでも良いとか思ってたけど… マジでやる気なん?」

 あわよくば、自分と同じ道に引きずりこんでやろうか? 黒の教師の黒の本音を見抜いた青年は、改めてかつての恩師の姿を思い描く。辛い中学時代を支えてくれた恩師。その姉が、今、この目の前に居るどーしょもない駄目大人だと思うと、それだけがとても悔しい。

 だからこそ。

青年は決意するのであーる。


「確かに。今、先生の話を聞いてみてもさ、正直余計なお世話だって思うよ。けど、こんな俺をそこまで心配してくれてる人が居てさ。今、決断しなきゃどうなるか? こうしてそれをわざわざ反面教師として実践してくれちゃってる見本市まで俺の目の前に居る。だったらやるしかないでしょ」

「おぉ。そうか…… あぁ? ちょっと待てや、誰が万年日照りだぁ? 誰が行き遅れだぁ? 誰が羊水腐ってるだぁ?」

「あ、いや、流石にそこまでは言ってないです。ってかやっぱり自分でもそう思ってるんですね、先生」

「…… いや? 別に?」


 教師は、涙目でぽつりと告げる。幾許かのそんな間が、世の無常を如実に物語っているのであーる。


 頑張れ、青年! 大志を抱け! 目の前の人物と同じ道を歩む事だけは、ぜーーったいにオススメしないぞっ!


「ところで先生。今更ですけど、そもそも晴女ってなんスか? まさか俺が極度の雨男体質だからって、その反対の性質を持つ晴女をあてがおうなんて単純な話じゃないですよね? 晴女なんてファンタジー生命体、本気で居ると思ってるんスか? そんなの所詮、良くて天然ちゃん。悪くて腹黒女しか捕まりゃしやせんぜ、今時」

「どのツラ下げてそんなセリフ吐けるんだよテメーは。歩くメルヒェン生命体なくせしやがってからに。ま、メルヒェンって顔じゃねーのは確かだけどな。テメーの場合は」

「… まぁ、実際眼つきが悪いのは認めますよ。この眼つきのおかげで今じゃいじめられるどころか、誰もよりつきゃしませんがね。いや、いじめられた過去があるからこそこの眼つきになったのか」

「卵が先か、鶏が先かってか? 顔に似合わず哲学だな」

 青年は、今にも人を殺しそうな鋭い目つきをしているものの、別段怒っている訳でも、ましてや殺意を振りまいているわけでもない。これが彼のデフォルト状態なのである。

悲しいかな、彼の持つ雨男体質は、彼の表情までもこのように残念なものへと変えてしまう程度には、強烈な… 正に呪い、なのかもしれないのであった。

とはいえ、中学時代とは異なり。体つきも大きく成長を遂げ、眼つきも刃物のように鋭利になってしまったおかげで、今や積極的に彼に喋り掛けようなど言うクラスメイトは一部の例外を除きほぼ皆無。


 彼の土砂降り人生の輪は、様々な要素を絡めぐるぐると循環しているのである。


「左雨、晴女の件だが。妹が実際どういう意味でいったのかは、分からねぇ。けどよ、先生が思うに晴女ってのは、読んで字の如く。テメーを晴らす女、なんだと思うぜ?」

 先ほどまでとは異なり、一、教師としての立場からの発言が窺えるような、そんな珍しくまじめな顔をした法楽教師が語る。

うーむ、いつもこうならもう少し生徒にも慕われる存在になりえるのに。だがしかし、そうならないからこそ、今の彼女がいるわけで。いやはや、人生とはかくも難しきものなのである。

「晴らす? 何をです?」

「決まってんだろ? テメーの心を、晴らすんだよ。性根、性格とも言い換えられるし、修正とも更正とも矯正とも言えるのかもしれねーがな。まっ、よーするに、テメーにとっての晴女ってやつを探しだしゃ良いのさ。所詮人類の半分は女だ。テメーを変えてくれる女の一人や二人くらいどっかにゃいるかもってやつだ。どうだ? 何か青春っぽいだろ?」

「…」

「あぁ? 何だよテメー、人の顔じろじろ見やがって…… ははん、惚れたか?」

「冗談はその年齢と口調とファッションセンスと職業だけにしてくださいよ。まぁ、先生がまともな事言うなんて珍しいなとは思いましたがね。ってか、まるで教師のようでしたよ」

「誰が冗談のデパートだコラァ! ま、いいや。そろそろ昼休みも終わりそうだしな。要件は以上だぜ、左雨、何か質問は?」

「はい、先生。んで、問題はその方法なんですが。俺はどうやってその晴女を探し出せば良いんスかね? 俺、嫌ですよ、スポ魂漫画よろしく爽やかに汗水たらしたり、ましてや、面白部活を立ち上げるとかオゾマしすぎて吐き気がするっての。どう考えてもハーレム作れる顔とキャラじゃねーでしょ?」 

 

 ふむ、と。暫し目を閉じ、腕を組み逡巡した後。法楽教師は、このシークエンスを締めくくるべく、さながら国語教師らしい、とてつもなくありがたーーいお言葉を、彼に授けるのであーる。



「犬も歩けば棒に当たる… 適当にうろついてりゃ、何とかなるんじゃね?」


 ちゃんちゃん。


          ◆



 《運命》という言葉がある。


 恩師のため、何より自分自身のため。彼にとっての運命の相手である《晴女》を探す事と相成った青年。

 青年は思う。星彗学園に入学を果たし早1年。女性の知り合いはおろか男友達すらも碌に出来なかった自分に、果たして運命の女性などという大仰な存在を探し出す事など出来るのであろうか、と。

 

 幸せは歩いてこない。かの有名なフレーズもそう謳う通り、運命もまた歩いては来ない。

 

 何故ならそう、運命とは… 向こうから走ってやって来るものなのだから。



 ……どうなる青年!? 怒涛の後半へ続くぅ!! 

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