渋谷の空を魔法のじゅうたんで飛んだ
バスは高架下に到着した。高架下からしばらく歩くと大きな交差点に辿り着いた。
「ここって……もしかして、東京?」
ミズキは声をあげた。
そこは渋谷のスクランブル交差点にとてもよく似ていた。
ミズキは渋谷の街並みを知っている。父母がまだ健在だったころ、ミズキは父母とともに東京に暮らしていたからだ。
「そうね。ここが、M軸の世界における、東京よ。推察の通り、渋谷のスクランブル交差点ね」
ユナは答えた。
その光景は、ミズキの知っている渋谷の姿とそれとなく似ていた。だが、一方で、かなり異なる光景でもあった。
高層ビルが立ち並び、渋谷駅からカエデの葉脈のように広がった道路を車が走り、ビルに設置された巨大ビジョンには広告らしき映像が流れている。そこまでは同じだ。
だが、決定的に異なるのは、ホウキにまたがって街を飛びまわる人々が大量に往来している点だ。
立ち並ぶ高層ビルも空を飛ぶ人たちに優しく作られている。入り口が空中にも作られているのだ。
「実はこの世界、かなりL軸の世界に影響されているのよね。ほとんどの歴史も似ているの。戦争が終わったあと、世界各地で魔術が発見されたんだけど、戦後、日本の経済発展に大きく寄与したのはどこにも負けない魔術力。科学技術の力で発展してきたL軸の日本となんとなく似ているでしょう?」
「でも、魔法がある世界なのに、高層ビルが立ち並んだりする光景は一緒なんですね……」
「だって、科学技術だって便利だもの。鉄筋コンクリートやガラスをつくる技術はこっちのM軸の世界でも同じように役に立つのよ。魔法で代替できるものだってあるけど、科学だってちゃんと重宝されているんだから」
「そうなんですね。なんだか不思議な光景……。わたし、もっとRPGみたいな世界を想像してました」
「ドラクエみたいに薬草とか魔法の杖だけを売ってる店があったりとか? 残念ながらこの世界には流行のセレクトショップだってあるし、ハンバーガーショップだってあるし、カラオケや映画館だってあるわ。あ、でも、映画は向こうのものとは迫力が違うわよ」
「へえ、今度見に行ってみたいです」
ユナの語るこちらの世界についての話は信じられないようなことばかりだったが、ミズキはわくわくしながら聞き入っていた。
「とりあえずじゅうたんで移動しましょう」
そう言うと、ユナはどこからともなく畳一畳ほどの大きさのじゅうたんを取り出した。すでにじゅうたんは地面から浮き上がっている。ユナはこともなげにじゅうたんに乗り込むと、ミズキを手招きした。
「さあ、乗って」
言われるがままにじゅうたんに座ると、身体が吸い付くようにじゅうたんに固定されたような感覚がした。なるほど、これで落ちないようになっているらしい。
「じゃあ、行くわよ――。」
すると、みるみるうちにじゅうたんが浮き上がり、一気に三階建ての建物ほどの高さまで浮遊した。
「すごい……!」
ミズキの口から思わず感嘆の声が漏れた。
「とりあえず、あなたにも魔法。今年度のエトランゼは三十人ほどしかいないのだけど、」
「」




