表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

下書き

 渋谷から魔法骨董通りを南下し、時計台駅前の交差点を左折すると、ちょうど時計台が正午を指していた。


 今日の授業は二時からだ。まだかなり余裕がある。


 ケヤキ並木の古書通りに入ると、アオのホウキは加速した。買ったばかりのホウキにまたがってこの通りを飛ぶのが、アオのお気に入りになっていた。


 科学技術の世界から、魔法と科学が共存する『こちら側の世界』へと渡海してから数年がたっていた。


 アオのように、渡海してこちら側に暮らすようになった若者のことを、世間ではエトランゼと呼ぶ。


 エトランゼには魔術の才があるとされている。アオも例外ではない。渡海後は全寮制の魔法科高校で基本魔術を身につけた。記憶を消して、元の世界へと戻る選択も与えられたが、アオは魔術大学への進学を決めた。元の世界に、もはや未練はない。


 こちら側では「元の世界」のことを「」。


「アオ、お昼一緒に学食で食べない?」


 古書通りを抜けたところで、じゅうたんでキャンパスに向かう春日レンから声をかけられた。レンもまたエトランゼで、同じ呪文学専攻の一年生だ。


 レンは大人たちが顔をしかめるような派手な色使いの半袖ローブを身にまとっていた。レンには不思議にそれが似合ってしまう。金髪に碧眼の派手な顔立ちがそうさせているのかもしれない。


「学食か。それなら魔法陣学専攻のキャンパスのほうに行こうぜ。授業まで時間はあるだろ」アオは答えた。


 確かにまだ時間はあるよね、とレンは頷いて、アオのホウキにスピードをあわせてきた。二人は入学式で知り合った。お互いに大学ではじめて出来た友人同士だった。アオはこの同じエトランゼの友人とつるむのが好きだった。


「でも、あっちの学食って、混んでるんじゃないの」

「今日はどのみちどこも混んでるだろ。ほとんどの学科で選抜やってるから、俺らみたいなのがうようよいるぜ」

「うへえ。だったら文キャンの学食で良くない?」


 文キャンというのはキャンパスの略称だ。呪文学専攻校舎キャンパス。


 二人の通う東京魔術大学は魔法の術式によって専攻が分かれている。呪文学、魔法陣学、魔法薬学、魔法書学、魔法道具学、魔法動物学の六学科だ。


 どの専攻を選んでも、すべての術式を学ぶのだが、本人の適性で専攻が決まっている。二人は呪文学専攻なので、文キャンで大学生活の大半を過ごしていた。


「いや『選抜』前だからさ、文キャンだとやりにくい気がするんだよ。みんな詠唱の練習とかしててさ。うるさいんじゃないかって」

「うわ。確かにありえそう。あ、だから静かそうなほうに行こうと」

「そういうこと」


 今日は五月に入って一週目の土曜日で、ほとんどすべての科目で『選抜』が行われる日になっていた。


 五月の『選抜』はいわゆる適性診断で、授業の履修を決める重要な手続きだ。選抜に受からなければ、その授業を継続して受けることが出来なくなるので学生側は必死である。


「あ、その前に俺、教科書揃えないといけないんだわ。レン、お前もう一通り買った?」

「いや、基礎呪文集と魔法史のテキストは買ったけど、あとは全然だよ。ていうか、ほとんど普通の書店じゃ売ってなかったよ。大学近くじゃないと多分置いてないんだと思う」

「やっぱり、そうか。だったら文キャンの手前にある本屋で揃うだろうから、寄って行こうぜ」

「そうだね。せっかくだから中身もはやく見てみたいし」


 ふたりとも、高校の魔法科で魔術を学んでいたが、あくまで魔術道具の扱いや魔術理論を知ったにすぎない。それこそ、ホウキやじゅうたんで飛ぶ魔法を知り、乗りこなすことが出来るようになった程度だ。大学で学ぶ新しい魔術に胸を膨らませずにはいられない。


「基礎呪文集、どうだった?」

「いや、やっぱ、面白いよ。唱えたくなっちゃう。もちろんそんなことできないのは分かってるけどさ、知らない呪文だらけで、読んでるだけでかなり面白いね。アオは買ってないの?」

「ああ。今日、買おうかなと思ってるけど、以前に目を通したことはあるよ。とりあえず自分の変身魔術がどれになるのか不安で仕方ないな」


 呪文学で最初に学ぶのは動物への変身魔術とされている。魔法動物とされている十八種類の動物のうち、自分の適性のある動物への変身を学ぶのだ。


 そして、この変身が『選抜』に影響する。


「どうしよう、アオはドラゴンなのに俺だけカエルとかだったら」

「いやいやいや、それはこっちのセリフだよ。ヘビだったらどうしようとか不安で仕方ないよ」


 魔法動物は全部で十八種あると言われている。ドラゴン、ペガサス、グリフォン、ユニコーンの最上位四種に加えて、ライオン、ワシ、オオカミの上位三種、クマ、ワニ、イヌ、クロネコ、シロネコ、フクロウの中間六種、ヒキガエル、ヘビ、トカゲ、アゲハチョウ、クモの下位五種。


 上位か下位かというのは厳密には優劣ではない。とはいえ、最上位四種に人気が集中しているのは確かだった。


 アオは最上位ならドラゴンかユニコーン、上位ならライオンになりたい、と考えていた。特にドラゴンなら呪文魔術のほとんどと相性がいい。名前もアオだから青いドラゴンなんて格好いいに違いない、とアオは考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ