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猫又姫の居候生活  作者: makimaku
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優等生と劣等生

私の名前は『中西なかにし 早苗さなえ』。一般的な高校に通う、ごく普通の女の子。運動に力を入れる学校に通ってはいるが、部には所属していない。だからと言って勘違いしないでほしい。別に運動音痴なわけではない。そして、体育会系の学校に通っているからと言って、別に勉強ができないわけではない。テストの成績は良い方だと思っている。

 この高校に入学した理由も、単に一番近い高校だから・・。昔からの友達も多く、不自由なく中学と同じような高校生活を送っている。だが、一つだけ私を苛立たせることがある。それは・・・。

「ああっハッハッハ!!」

『ピキッ・・』

 教室中に響く品の無い笑い声。その声は、いつも私の神経を苛立たせる。

「まじかよ!!あいつそんな地雷踏んだのか。馬鹿だな。ライターで見え見えの地雷だって分かるだろ!!」

「いや、それが『今回は違う。何より絵が良いからそれだけで買う価値はある』とか必死でさ。」

「ひーっ・・ひーっ・・。まあ、絵は悪くないわな。でも、あんなフルプラの抜きゲー。せめて様子でも見ればいいのに。」

 教室の隅で談笑する二人の男子生徒。不明な単語が含まれているが低俗な内容であることは分かる。そのうちの一人が上げる知性の欠片も感じさせない癇に障る笑い声。

(ああ・・またか。)

 男子生徒の名前は『柿野かきの 修平しゅうへい』。おそらく如何わしいゲームの話であろう。教室のみんなはいつもの事と思い、男子も女子も気にしていない。だが・・・。

「おっぱいが!おっぱいが!!」

『ぷちっ』

 瞬間的に殺意が込み上げる。

「うるさいっ!!」

 机を叩き、勢いよく立ち上がる。教室にいるみんなが私の方を見るが、そんなことはどうでもいい。時間が止まり硬直する皆に目もくれず、柿野のもとへと向かう。

「ちょっと早苗!!」

「止めないで!!」

 制服の裾を掴み、止めようとする女の子。クラスメイトの『名張なばり 美鈴みすず』。彼女の小さな手を引きずるように柿野のもとへとたどり着く。

「・・なんだよ、またお前かよ。」

 『うるさいのが出てきた』と面倒くさそうに対応するカッキー。

「なんだとは何よ。うるさいのよあんたら。卑猥な言葉をいっつもいっつもベラベラベラベラ!!」

「耳にタコだな、そのセリフ。」

「なら直しなさいよ!!」

「俺たちが何を喋ろうが勝手だろ!!」

「耳障りなのよ!とくにあんたの笑い声っ!!」

 声を荒げ、顔を赤くする中西。一方のカッキーも止まらない。怯んだ様子もなく、真っ向から中西と口論を続ける。

『やれやれ・・またか。』

 そう思ったのか、徐々に周りの生徒たちに時間が流れ始める。挙句、怒鳴り声に興味を持ったのか、隣の教室から何人か野次馬が駆けつける始末。

「おい、カッキー。落ち着けよ。みんな見てるぞ。」

「ん?ああ・・。」

 周りを見回し、一応は落ち着きを取り戻す。

「早苗も。ちょっと冷静になろう?」

「っ・・・。」

 一方、こっちはまだ冷静になれない。カッキーに対し、敵意をむき出しにする。

「なんだよ!言いたいことがあるなら言えよ。」

「さんざん言われただろ。煽るなよ。」

 苦笑いしながらカッキーを押さえつける。カッキーの言葉に対し、苛立っているのか、中西の握りこぶしが震えているのが見える。

「早苗!あんたも落ち着いて。」

 正樹と同じように背後から中西を押さえつける名張。小さな体で必死に彼女を止めようとする。


 ・・・放課後の男子トイレ。

「ああクソッ!腹立つ!!なんだよあの女!!」

 あれから中西と接することは無かったが、カッキーの怒りは収まらない。洗面所の前で愚痴を聞かされる。

「落ち着けよ。まあ、こっちが悪いんだし。女子からすれば下品な内容だろうな。」

「それにしても、あんなに怒鳴らなくてもいいじゃねえか。毎回毎回。正樹にはあんまり言わねえしよ。」

「うーん・・。」

(お前が突っかかってるからだろ。)

 言えばまた荒れそうなので、この言葉は言わないでおく。

「女だから手も出せねえしよ。あのアマ。それを利用して俺に言いたい放題言ってるんだ!」

「いや、中西の性格だろ。あいつ、誰に対してもあんな感じだぞ。」

 裏表のない性格で、思ったことを口にする。それ故、デリカシーの無いところはあるが、男女ともに人気は高い。特に同性からは人気が高く、姉御肌で知られている。

「だから、ああいう会話が嫌いなんだろうな。」

「くっそ!!思い出したら腹立ってきた。ぜってえ犯してやる。」

「・・・馬鹿なこと言うなよ。」

「なんかあいつを懲らしめる方法ねえかな?せめて服従させてやりたい。」

「誰かに聞かれたらどうするんだよ。さっさと帰るぞ。」

 怒りの収まらないカッキーを置いてトイレを出る。すると・・・。

「あ・・・。」

「なんだよ正樹。止まるな・・げっ!」

 扉の向こうで腕を組み、壁に寄り掛かる中西。不敵に笑う彼女と目が合う。

「聞いてた?」

 正樹の質問を聞き、『ふっ』と鼻で笑う中西。

「ええ・・。女子トイレまで聞こえてきたから自然とね。へえ・・わたし犯されるんだ。そうなんだ・・・。」

「な、なんだよ・・。」

 つかつかとカッキーの前に歩み寄る中西。聞かれた言葉が言葉だけに若干、後ろめたさを感じるカッキー。

「そんなに怒りが収まらないのなら勝負をしましょうか?」

「勝負?」

「そう。私も柿野君に対してむかついていることがあるの。どう?」

「へえ・・。要するに、その勝負によってお互いが恨みを晴らすってことか。おもしれえじゃねえか。」

 中西の提案に乗る気のカッキー。『いい機会が出来た』と笑みを浮かべる。

「俺が勝ったら絶対服従だ。二度とその高慢な口をきけなくしてやる。」

「あらあら怖い怖い。それじゃあ私は、風紀を乱すことを禁止するわ。あなた達がいつもやっている下品な会話、そして卑猥なゲームの貸し借りとプレイを禁止する。」

「はあっ!??」

 中西の要求を聞き、絶叫するカッキー。目の色を変え、身を乗り出し、声を荒げる。

「ふざけんなよ!!なんでそこまで縛られなきゃいけねえんだ!!会話だけでいいだろ?」

「あら?私を服従させるんでしょ?だったらそれ相応の要求をしないと釣り合わないじゃない?」

「く・・・」

 カッキーにとって『エロゲを止めろ』と言われるのは、人生の楽しみを奪われるようなものである。だが、こちらの要求も要求なだけに言葉が出てこない。

「なら、緩和させる。」

「もう遅い。」

 強制的に罰ゲームを決定させる中西。そこに少し不可解な点を感じる。

(自信満々だな。負ける気が無さそうに見えるが・・。)

『カッキーに対し、不利な勝負ではないだろうか?』正樹がそう考えた時、自分の胸の前に人差し指を立て、再び中西が喋りはじめる。

「勝負は期末テストでどう?一か月くらいあるんだから、今から頑張ればいい勝負できるでしょ?」

「き、期末!?駄目だ、もっと早くできるようにしよう。」

「あら?勝負の場にはうってつけだと思うけど。」

「球技大会はどうだ?2週間後くらいだろ?」

「駄目よ。団体競技じゃ個人の勝負にならないわ。」

 カッキーの顔色を見て、学力に自信がないことを確信する中西。

(なるほど、そういう事か。)

 中学が違う中西はカッキーの事をほとんど知らない。だが、数か月とはいえ、日ごろの行いで学力が無いのは理解している。そして、この慌てよう。

「いい?一か月あれば追い越せる可能性だってあるでしょ?それでいいわね?」

(やっぱり勉強は苦手みたいね。体格から見て運動を受け入れてはこちらに不利。学力勝負は譲らない。)

「ぐ・・くそっ・・。」

 代わりの勝負が見つからず、折れそうなカッキー。『いっそ、反故にしてしまおうか・・』あまりの分の悪さに勝負自体をなかったことにしようと考える。

「待てよ、中西。」

「なに?池村君。」

「言っておくが、勉強勝負だとカッキーは不利だ。しかも合計勝負ではカッキーに勝ち目はない。」

「へえ・・じゃあ、どうするの?」

「教科ごとにしたらどうだ?」

 勝負について提案する。中西の出した勝負内容は、どう考えてもカッキーに不利。

「主要五科目。現国・数学・理科・社会・英語。これでどれか一つでもカッキーが中西を上回れば勝ち・・どうだ?」

「どれか一つ?そんなの、柿野君に有利すぎるわよ。」

「いや、言っておくが俺の目から見てこれで5分と言ったところだ。どうだカッキー。これなら勝てそうか?」

「・・・一教科なら。」

 悩みながらも希望の光を見つける。期間は一か月。勉強とは無縁ではあるが、一教科に絞れば勝てない勝負ではない・・。だが。

(それでも分が悪いとは思うけど・・。)

「ちょっと待って、私、嵌められてない?あまりにも私に分が悪いわ。」

「そんなに疑うなら・・。カッキー。中間のテスト持ってるか?」

「中間?いつの事だと思ってるの?あるわけないでしょ。」

「ああ・・それなら教室の机の中におそらく。」

「なんで持ってるのよ。持って帰りなさいよ。」

 その時点で学力のある人間の行いとは離れている。とりあえず教室へと移動する。パンパンに膨れた机から大量の教科書とプリントを取り出す。

「汚い。・・教科書くらい持って帰りなさいよ。」

「便利なんだよ。ほかの奴らがなんで教科書持って帰ってるのかが俺には分からねえな。大体、次の日に使うんだから置いて帰っても問題ないだろ?」

「予習とか課題とかあるでしょ!!」

「うるせえなあ・・・あったあった。ここにあるってことは、もう少し奥かな?固まってそうな気がするな。お、やっぱり。」

 出てきたのは折れ曲がり、シワだらけのプリント。そして、ポイントを掘り当てたのか2枚、3枚と次々と出てくる。

「・・・あんた、卒業したら鉱夫にでもなったら?」

「なんでだよ?そんなに筋肉があるわけでもないし。それより揃ったぞ。」

 見えないようにプリントを扱うカッキー。

「OK。じゃあ、見てみろよ。中西。」

「分かったわ。えっと・・・ブッ!!」

 テストを確認し、思わず吹き出す中西。

「現国、15点。 数学、4点。 英語、7点。 理科、13点。 社会、38点。」

 今まで自分が見てきた物とは全然違う答案用紙。別世界の扉を開いたような気分になる。

「分かったろ?5教科合わせて100点も言っていない。これが現時点での差だ。そこから1教科でもカッキーが中西に勝てば、カッキーの勝ち。駄目だったら負け。簡単だろ?」

「・・・そうね。これならいい勝負が出来そう。」

『いい勝負が出来そう』。その割には勝利を確信したかのような笑みを浮かべる。

(まあ、こんな答案を見れば確信もするだろうな・・・。)

「いいわ。条件は決まった。期末テスト、楽しみにしてるわ。お互い、全力を尽くしましょう。それと・・・負けた時は覚悟していなさいね。」

 そう言い残し、中西は教室を出ていく。

「ああ・・くっそおおおお!!」

「落ち着けよ。一教科でも勝てばいいんだから。」

「そんな簡単にいくかよ!このテスト見てわかるだろっ!?」

 机に置かれたテストを叩きつけ、怒りと不安をぶつける。

「正樹だって成績は良くねえだろ。」

「まあな。でも、総合点での勝負じゃ尚更、勝ち目はないだろ。」

「それは・・まあ・・。くっそ!!あのアマ!!俺からエロゲまで取り上げる気かよ。おい正樹、だれかいねえか?頭のいいやつ。せめて、そいつに勉強指南してもらわないと。正直、自分だけじゃ勝てる気がしない。」

「家庭教師か・・。」

(俺は戦力外ってことか。まあ、それは置いといて。)

 体育会系が多いこの学校で帰宅部に所属している生徒は少ない。ましてや成績優秀となると・・・。

「あっ。」

 あっさりと候補が見つかる。



 向かった先は三橋商店。居間に通され、学校での出来事を鳴女に説明する正樹とカッキー。

「・・なるほど、それで私のところに。」

「迷惑な話だとは思いますが、お願いします!!俺と正樹だけじゃ勝ち目がないんです。」

 お茶をすすり、少し考える鳴女。

「ですが、中西さんの言いたいこともわかりますね。風紀を乱すのはいただけません。それは控えないと・・・。」

「う・・・分かりました。気を付けます。」

 珍しく物わかりの良いカッキー。中西の時とは違い、鳴女の声はすんなりと受け入れる。

「クラスメイトの成績向上は歓迎です。私でよければ協力しますよ。」

「ほ、ほんとですか?」

「ただし、甘くはありませんよ。相応の努力をしていただかないと。」



「・・・ってことがあってさ。」

 食事後の一服。自宅の居間で今日あったことを麻姫に説明する正樹。

「ふむ・・。鳴女は努力家じゃからな。指南役には向いておる。」

「へえ。前回のテストもいきなり上位に食い込んでたし。5位以内には入っていたと思う。」

「ちなみに正樹は?」

「言っておくが、カッキーよりは上だぞ。50以上を保つのがやっとだけど・・・。」

 自分の中の最低ライン。50を切らなければ面目は保たれると思っている。

「中西と言うたか、その女はどんなもんじゃ?」

「中西か。70以上は取ってると思う。そこから上積みを考えると、80は取らないと厳しいんじゃないかな?」

「厳しいのう。まずは長時間の勉強にカッキーが耐えられるかが問題じゃな。」

「それは思う。今頃、どうなってるか。」


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