日々川 美雪
・・・一か月後。
「おーっす。」
「おお。」
いつも通り、カッキーに適当なあいさつをして席に着く正樹。朝礼前の余った時間を雑談で潰す。数分後には忘れてそうな薄い会話。漫画、動画、アニメ、エロゲ。議題は大抵この4つ。適当なローテで繰り広げられる話の中で、ふと窓際でクラスメイトと談笑する高瀬さんに目をやる。
「・・・・。」
何を話して居るのか分からないが、楽しそうにクラスの女生徒と談笑する高瀬さん。今では彼女もクラスに溶け込み、生徒として普通に馴染んでいた。
(女の子らしい会話してんだろうな。隣に居るのはテニス部の川本さんか。楽しそうに笑ってら。)
「おい、聞いてるのか?」
「あ、悪い悪い・・・。」
「・・ったく。それでさ、バイト代入ったら買おうと思ってんだ。そのエロゲ。」
「・・・・。」
(まあ、こんな話はしてないだろうな。)
家の中で一人の時間を満喫する麻姫。パインジュースを飲みながら適当な菓子をつまみ、ニュースを見る。
「面白いテレビもやっておらぬのう・・。昼過ぎならば、何か面白いテレビの再放送くらい流せば良いのに。」
ここに来て一か月が経ち、部屋でやる事も無くなってきた。家中の漫画を読みつくし、適当にDVDを漁り、現代の娯楽をそれなりに満喫はしたが、流石に毎日となると飽きが来る。
「『げえむ』とやらもやってはみたが、あれば時間を忘れてしまう。あまりやらぬ方が良いな。依存すると抜けられなくなる。」
ポテチを食べながらチャンネルを変える。『おやつを食ったら外にでも出かけるか』と思ったその時。
『ピンポーン』
「む・・。」
室内にインターフォンが鳴り響く。
「こんにちはー!!」
「その声は、・・・雨音か。」
外から聞き覚えのある子供の声がする。現に彼女は何度か遊びに来ていた。玄関の扉を開け、出迎える麻姫。
「婆様!!」
「おはようございます。姫様。」
声の主はそこに居た。予想外の人物と一緒に。大きめの紙袋を両手に持ち、買い物帰りだという事が分かる。
「何処か行かれていたのですか?」
「ええ。ちょっと買いものに。」
「『でぱーと』に行ってきたんだよ。」
余程楽しかったのか、いつも以上にテンションの高い雨音。フリフリのスカートが付いたワンピースに白いハイソックス。いつもの汚れて良い服装とは違い、着飾った姿。
「雨音、それは婆様に買ってもらったのか?」
「うん!さっき買ってもらったの。」
「まあ、立ち話もなんだ。上げてもらっても良いですか?」
「あ、はい。少し散らかってますが・・・。」
居間へと案内する麻姫。引き戸を開け、部屋の中を見せる。
「本当に散らかっていますね・・・。これを少しと言って良いのでしょうか。」
食べ終わった食器に脱ぎ散らかした服。崩れた単行本の山。それを見て呆れる婆様。
「やれやれ・・正樹も苦労しているな。」
「そ、それより何か飲みますか?今、何か持ってきますので。」
机の上の食器を片づけながら逃げるように台所へと向かう麻姫。
その後、世間話をしながら時間が流れる。
「・・・ところでどうです?人間の生活は慣れましたか?」
「そうですね。最初は戸惑いましたが。『機械』が生活の深い所まで関わっていて、扱いに慣れるまでが大変でした。ここ百年程で目覚ましい発展を遂げていますね。」
「生活が日々進歩していますよ。毎日暮らして居るとその発展が分かります。雨音ちゃんも色々と大変でしたからね。」
床に転がり、漫画を読む雨音。過去に見せた勇ましい表情はすでに無く、この時代に順応していた。
「ただ、慣れ過ぎても困ります。鍛練は怠らぬように。姫様・・少し太りましたか?」
「え?」
「少々ふくよかになられた気がします。特にお顔の方が。時代に馴染むのも大切ですが、護衛の仕事も忘れずに。」
学校中にチャイムが鳴り響き、一日の終わりを告げる。
「さて、帰るか。遊びに行くか?少しなら付き合えるけど。」
「残念。今日は俺、バイトなの。」
教科書に鞄を詰めながら誰よりも早く帰り支度をするカッキー。駅前にある全国チェーンのレストランでバイトをしていて、彼の大切な収入源だった。
「へえ、結構続いてるんだな。」
「まあな。いやー、人材が育たなくてさ。出番の予定じゃ無かったんだけど、『穴が開いたから来てくれ』って店長が。」
「へー。」
「頼りにされてるとつらいよな。まったく、他のバイトも成長してくれると助かるんだけど。」
「えらそうに。将棋の『歩』みたいなもんじゃねえの?」
「なんだよ『歩』って?」
「いや、だから。『ここに何か置きたいけどこの駒使いたくないし・・。持ち駒見たら歩が沢山あるから、これでいいや』って感じで。」
「ちげーよ!!」
声を荒げ否定するカッキー。バイトに関してはそれなりにプライドがあるらしく、傷付けられる事を嫌う所がある。
「必要にされてんだよ!ったく。じゃあな。」
機嫌を損ねたらしく怒りながら教室を後にするカッキー。日常茶飯事の為、別に気にはしない。
「やれやれ。」
鳴女と二人、帰り道を歩く。いとこと言う設定は意外と使い勝手が良く、一緒に帰る口実に最適だった。
「そうなんですよ。雨音ちゃんも友達が出来たらしくって。」
「近所の小学生ですか?」
「そうです。夕方の三橋商店は小学生のたまり場になりますから。」
世間話をしてるうちに、いつもの分かれ道に到達する。そこで鳴女と別れ、帰宅する正樹。『ただいま』と声を掛けると、だるい声で『おかえり』と返事がくる。
「ただいま。」
居間の引き戸を開け、改めて同じ言葉を麻姫に伝える。いつもより綺麗に使われている部屋を見て、少し驚く。
「お、今日は綺麗に部屋を使ってくれたんだ。」
「婆様が来たからのう。」
「婆様?ああ、三橋の婆ちゃんか。」
「雨音も連れてな。余所行きの服を着て、嬉しそうじゃったぞ。」
「へえ・・。見たかったな。」
「ロリコン」
「うるさい!!」
麻姫と暮らして一か月。最初こそ色々あったが、その暮らしにも次第に慣れ、平穏な日々が続いていた。
「・・・・」
『コンッ』
沈黙の中、テーブルを爪で軽く叩く正樹。合図を聞き、麻姫も納得の表情を見せる。
「正解。もう察知は出来るようになったか。」
握っていた麻姫の手を離す。訓練を続け、最初は分からなかった妖気も徐々にではあるが感知できるようになっていた。
「何とかね。でも、自信はあったよ。」
「ふむ。妾が送っていたのは非常に微量な物。これに気付ければ以前、雨音が暴れていた時の妖気に気付く様にはなっているであろう。」
「なんだろう。最初始めた時は全然分からなかったけど、徐々に刺激として伝わってくる感じがして・・・。」
最初の頃に無かった感覚。微妙に刺激として妖気が放出されたのを感じ取れた。
「そう伝わっておるなら大丈夫。お主自身、無意識のうちに妖気を操っておる。それに何度も言ったが、正樹の核は妾の核から作られておる。つまり、妖気自身は妾の物と変わらぬ。その妖気を感じ取れたという事は、他の者の妖気ならばもっと簡単に読み取れるであろう。」
「なるほど・・・。」
「言っておくが、術は教えぬぞ。あくまで扱い方を教えるだけ。あまりやりすぎると人間界で異質な存在になりそうなのでな。」
「肉体に当てれば凄い事になるって事?」
「まあな。馬鹿な考えは持つなよ。お主は人間。人間界のルールで生きるのが正しい。妖気など、使わぬ方が身のためじゃ。」
「・・・もともと覚える気は無かったんだけど。」
勝手に人を苗床にして、そのうえ『取り出せませんでした』と来たもんだ。多少は嫌味を言ってもバチは当たらないだろう。
「ま・・まあ悪かったと思っておる。じゃから、お主には特別にこうして妖気の扱いを教えておるのじゃから。」
目が泳ぎ、失言だったと後悔する麻姫。なんとか話題を逸らそうとしたその時。
『ピンポーン』
突然、インターフォンが鳴り響く。
「お、客人じゃぞ正樹。」
「誰だろ?こんな夜に。」
突然の来客。誰か予想もつかないが、とりあえず玄関に向かい、扉を開ける。そこに居たのは・・。
「よっ!」
「カッキー?どうした?こんな夜更けに。」
「いや、バイトの帰り道でさ。ほれ、余り物。勿体無いから貰ってきたんだ。」
ビニール袋に入った食材。ハンバーグにから揚げ、キャベツの千切りに綺麗に切られたトマト。ラップに包まれた食材を正樹に見せるカッキー。
「今週、予想以上に暇だったから食材が余ってよ。俺ん家だけじゃ食いきれないからさ。」
「おお。悪いな。」
たまにカッキーはバイト先のレストランから余った食材を持って来てくれる事がある。家では作らない料理が多いだけに、正直かなりありがたい。
「良いって事よ。それより、中に入れてくれよ。」
「え?」
その言葉を聞き固まる正樹。
「どうした?」
「え・・い、いや。上がってくの?」
心臓が飛び出そうになりながら、なんとか平常を保とうとする正樹。
「なんだ?上がっちゃまずいのか?」
「い、いや。そういう訳じゃ・・・。」
「ならいいじゃねえか。お邪魔するぜ。」
「ちょっ!!」
ずかずかと上り込んでいくカッキー。彼の普段通りの行動ではあるが、それを許すわけにはいかない。
「や、今日は駄目だって!!」
「なんだよ。何、動揺してんだよ。」
引き戸を開け、居間へと入る彼を止める事が出来ない。すると・・・。
「あ!!」
「っ!!!」
驚きの声を上げるカッキー。『見られた・・・』と諦めながら、内心で言い訳を考える正樹。
「おい、猫じゃねえか。お前、いつからペットなんて飼ったんだ?」
「え?」
「ニャーゴ。」
部屋を覗く。そこに居たのは麻姫の座布団の上で堂々と寝転がる一匹の黒猫。ぺしぺしと尻尾を座布団に打ち付け、眠たそうにこちらに視線を向ける。
「あ・・・。」
(マキのやつ。化けたのか。)
ほっと胸を撫で下ろす正樹。だが、内心で『ついでにどこかに隠れればいいのに』と思う。
(まあ、逃げる時間が無かったのかも知れないし・・・。とにかく最悪の事態は避けられた・・。)
「おい、ここってペットOKだっけ?」
「いや、駄目だよ。だからあんまり見せたくなかったんだ。」
「なんだよ。俺にくらい言えよ。可愛いな。なんて名だ?」
「え、えっと・・・クロ。」
咄嗟に口から出た安直な名前。
「なんだよそれ。まんまじゃねえか。ほれ、クロ。唐揚げ食うか?」
ビニール袋から唐揚げを取り出し黒猫の前に差し出すカッキー。その唐揚げを美味しそうに食べる黒猫。
「ふーん。どれどれ。あ、メスか。」
「!・・・シャアア!!」
尻尾を捲り、雌雄を確認するカッキー。その瞬間、黒猫が声を上げながらカッキーを引っ掻く。
「痛ってえ!!なんだよこいつ。おとなしいと思ってたのに。引っ掻きやがった!」
そのまま部屋を飛び出す黒猫。トタトタと階段を駆け上がる音が聞こえる。
(そりゃそうだろ・・・。まさか化け猫とも思わないだろうな。)
猫の姿をしているが、立派な女の子。流石にあんな事をされて怒らない訳が無い。
「しつけがなって無えじゃんか。おー痛ってえ・・・。」
「野良猫だしな。」
そのまましばらく談笑し、玄関先でカッキーを見送る。食材のお礼をして、『また明日』といつも通りの別れの挨拶。扉を閉め、玄関前で安堵の溜息を吐く正樹。
「ふーっ。良かった。」
「ちっとも良くない。なんじゃあの無礼者は。」
「ん?」
階段前で人間の姿に戻った麻姫が姿を現す。腕を組み、怒りを露わにする彼女。
「許してやれよ。猫だと思ってたんだからさ。」
「だからと言って、勝手に尻尾を触るどころかあんなところを見られるとは・・・。」
「あんなところ・・・。」
人間に置き換えて想像し、少し興奮する正樹。
(やっぱり、あそこだよな。)
「・・いま、想像したじゃろ。」
「い、いや・・。だって、そんな事言えば誰だって想像するだろ。」
「そこは嘘でも否定しろ。・・まあ良い。それより腹が減った。あの唐揚げを食わせろ。」
「いいのか。それで機嫌が直るなら・・・。」
「おっす。おはよう。」
「おう。」
学校に着き、朝礼前のいつものやり取り。性格は適当なのに、学校に来るのは早いカッキー。
(なんか良からぬ事でもしてるんじゃないだろうか?)
「ん?どうした?人の顔なんか見て。」
「いや・・。それより、昨日の食材ありがとうな。さっそく弁当に使わせてもらったよ。」
「ああ。良いって事よ。その年で一人暮らしも大変だな。」
「一応、姉貴と二人暮らしだけどな。帰って来ないけど。」
(今は妖怪が居るなんて思わないだろうな。)
「あ、昨日の猫が居るから一人暮らしじゃないか。」
「ま、まあね。」
(中々鋭いな。)
心の中を見透かされている様で、ドキッとする正樹。朝礼が終わり、一日が始まる。何事も無くいつも通りの日常。午前中の授業を終え、昼食後の憩いの時間。なんとなく一人でぶらつく正樹。そこで事件が起こる。
「ちょっといいかしら?」
「?」
呼び止められ、後ろを振り向く。
「日々川先輩?」
凛々しい顔つきで長身の彼女。その雰囲気は一瞬、男と見間違いそうだった。
「一年生の池村君よね?ちょっと聞きたい事があるのだけど。」
「三年生が何の用ですか?」
内心で用件は察しがついていた。この人に呼び止められるとしたら、その内容は一つ。
「あなた。あの女の事知ってるわよね?」
「あの女?」
「とぼけないで!剣道場に現れたあの生意気な女よ!!あの時、あなたも居たわよね?」
「え・・えっと・・。」
(あの一瞬で顔覚えられたのか。)
「その右手!そんな手をしてる奴、この学校に一人しか居ないわ。」
「あ・・・。」
右手に残る3本のアザ。確かに、初対面の人には顔よりもこっちの方が印象に残る。
「クラスの奴に聞いたら割とすぐに見つかったわよ。あの子、何者よ。あいつの顔だけは忘れない。なのに、学校中を探しても見つからないし。あの『姫』とか言う女について教えなさい!!」
段々と熱が上がってくる日々川先輩。その時の事を思い出したのか、口調は徐々に荒くなる。
「いや、あの子はうちの学校の生徒じゃないんで・・・。」
「『情報を教えなさい』って言ってるの。知っている事を吐けばいいのよ。」
威圧する様に詰め寄る先輩。その迫力に女性の印象は無い。
「・・・分かりました。彼女に伝えておきますから。」
「もう一度戦わせてくれるって言うの?それでいいわ。そいつに伝えておきなさい。ただじゃ済まさないって!」
「伝えるだけです。」
「決闘まで持っていきなさい。逃げるのは許さないわよ。」
目が血走る先輩を見て、押される正樹。余程プライドを引き裂かれたのだろう。マキに対する恨みが伝わる。言いたいことを言い終わり、ようやく先輩から解放される。
「マキの奴。えらい事をしてくれたもんだ。」
「・・・と言う訳でさ。」
「あの女か。敗北から何も学んでおらぬのう。」
「心をズタズタにしたのでしょう。姫様はやりすぎです。」
正樹の家で話し合う3人。グラスの麦茶を飲みながら麻姫の行為を注意する鳴女。
「凄い形相でさ。殺されるかと思った。」
「面倒臭いのう。あれから一月しか経っておらぬのに・・・。」
正樹の言葉を聞き、日々川先輩が本気で自分を倒そうとしている事を知る麻姫。簡単には収まりそうもない憎悪に嫌気がする。
「身から出た錆です。しっかり収拾してきなさい。」
「鳴女、お主も付き合え。」
「お断りします。話を聞くと、私の顔は覚えられていない様なので、こういう事には関わりたくありません。」
「うう・・。」
「わざと負けるとかは?」
「そんな侮辱、出来る訳が無かろう。」
「まあ、そうだよな。」
「せめて素性は晒さないでくださいね。池村様と同棲されてると知られたら面倒になります。」
「うむ・・・。行うのはあくまで決闘だけ。その意思は伝えておいてくれ。」
「分かった。」
「・・・という訳です。」
「分かったわ。今度の金曜日。20時なら剣道場に人も居ない。そこに来るように伝えておきなさい。」
引き受けてくれた事に感謝しながらその場を後にする日々川先輩。
「ふー・・。」
「やる気満々ですね。」
一部始終を隠れながら見ていた鳴女。付き合わされる正樹に同情する。
「まあ、それだけトラウマになったんでしょう。」
「プライドの高そうな人ですね。ただ、一か月でそこまで実力が変わるとは思えませんが。」
「うーん・・・。」
冷静さを欠いた日々川先輩の行動。もちろん、勝つことは目的なのだろうが、それよりもマキとの再戦に熱くなり過ぎている気がした。
「実力の差が分からない方では無いと思うのですが。何か算段があるのか、それとも本当に自分が見えていないのか。」
「その両方とか?」
「そんな器用なマネ、出来ませんよ。どちらにせよ次の試合で最後にしていただきましょう。それで諦めていただけると有難いのですが。」
親の仇でも討つかの様な先輩の迫力。マキに対する執着が尋常でないのは明らかだった。
家に帰り、マキに報告する正樹。温かいお茶を一口飲み、至福に満ちた溜息を吐く。
「その女にも困ったものじゃのう。」
「駄目だよ。自分で撒いた種なんだから始末はしないと。」
「分かっておる。じゃが、実力の差が分からぬ奴では無いと思ったがのう。」
「それは高瀬さんも言ってた。『どちらにせよ次で最後にしてもらおう』って。」
髪をかきあげ、うなじをポリポリと掻くマキ。『面倒くさい』と思っているのか、それとも下手に日々川先輩のプライドを傷つけたことを悔いているのか。
(間違いなく前者だろうな。他人のプライド傷つけることをそれほど悪いと考えないし。)
「ん?どうした?」
「い、いや・・。」
心を見透かされている気がして、表情を隠すようにお茶を飲み、口元を隠す正樹。
「でもさ、人間と妖怪の差なんてそんなに強いの?あの人が勝つ可能性もあるでしょ?」
「そりゃあ、勝負じゃからのう。じゃが、妖力を引いたとしても妾とあの女の間には差がある。高々生まれて二十年も満たぬ人間の小娘に負けたとなっては、妖怪の名折れ。妾とて負けるわけにはいかぬ。」
「なるほど。キャリアが違うってことか。」
「もとより前回は妖気を使っておらぬ。対等の勝負で打ちのめした。その女が人外なら別じゃがな。たとえば雨音の様に。」
「雨音ちゃんって、神様なんでしょ?そんな簡単に居ないって。それに、あの人は校内だけじゃなく全国的に名が知られているんだし。」
「まあ、声を掛けたのは妾からじゃ。さすがにその可能性は考えておらん。それにしても・・・面倒くさいのう。」
「自分で撒いた種。それに相手も本気・・・だろ?」
「むう・・。それを言われたら無下には出来ぬ・・・。」
ふてくされ、机の上に乗せた下顎を滑らせて顔を突っ伏すマキ。彼女自身、日々川先輩の気持ちを察していることから手を抜くという考えは無い。




