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猫又姫の居候生活  作者: makimaku
16/20

動き出す狂気

・・・次の日。早朝。三橋商店。

「では、行ってきます。」

「うむ。その綾と言う女生徒について調べてみる必要がある。菊花にも千里眼で定期的に観察するようには言っておる。何か分かったら知らせるように。」

「はい・・。」

「行ってきまーす!!」

 玄関先で会話を遮る明るい声。砂魔奈の手を取り、トテトテと外へ駆け出す雨音。

「子供は無邪気じゃな。」

「いいのですか?雨音に音神様の事を説明しなくて・・・。」

「・・・これが戦でなければ会わせてやりたいが、出来れば知らない方が良い。親が恋しい年齢ではあるが、下手をすると向こう側に回る可能性もある。あの子の力はお主が良く知っているだろう?」

 そう言われると反論できない。麻姫と二人で挑んだ戦闘も、正樹の思わぬ活躍が無ければどうなっていたか分からない。

「今は雨音の事よりも正樹を守ることの方が先決。法師の狙いが正樹の核であることは間違いない。気を引き締めるように。」

「はい。」


 公園でチャンバラをする雨音と砂魔奈。決して素肌を狙わずに棒で打ち合うだけのぶつけ合い。雨音のお気に入りの遊びらしく、昨日もこれに付き合わされていた。『またか・・』と思った砂魔奈だったが、2日目の今日は要領も分かり、昨日より少し面白く感じていた。

「この!!」

『パシィ!!』と音を立て、雨音の棒を弾き、そのまま顎先へ切っ先を突きつける。砂魔奈の手際の良さに動きを止める雨音。

「一本・・・かな。」

「ううっ・・またやられた。砂魔奈ちゃん、強い。」

「雨音、隙が多過ぎ。一太刀に全力を尽くすのもいいけど、次の動きも考えなくっちゃ。特に一撃の後に刀を振り上げる真似は止めた方がいいよ。」

「だって、攻めなくちゃ取れないでしょ?」

「無駄な攻めはむしろマイナス。攻撃を仕掛けるだけが攻撃じゃないんだから。」

「??・・どういうこと?」

「くすっ。秘密。」

 浮乃からの教えだった。『攻撃の中には駆け引きが存在する。短い時間の中で相手を知り、罠にかける。』普段、体を動かさない砂魔奈だったが今になってその言葉の意味を知る。

(守りながら攻める戦法だってあるのよ。)

 心の中で舌を出す砂魔奈。公園に建てられた時計が12時に近づき、徐々に子供たちも少なくなる。

「帰ろうか?人も少なくなってきたし。」

「うん。」

 砂魔奈の言葉に頷き、ベンチに置いたお気に入りのポシェットを肩にかける雨音。

「へえ。私の前ではそんな笑顔を見せなかったのに。そんな風に笑うんだね。」

「!!」

 砂魔奈の背筋に悪寒が走る。自分の感情をかき乱す人を見下した声。警戒し、後ろを振り向く砂魔奈。

「よう。」

「アビシラ・・・。」

 下駄を履き、白い着物に身を包んだ若い女性。現代の服装とはかけ離れた時代錯誤の恰好。

「何の用?こんな昼間から。」

「寝ぼけたことを言うんじゃないよ。戦いに昼も夜も関係ないだろ?」

「・・・知り合い?」

「初めまして、お嬢ちゃん。不思議な感じがするね。妖気と混じって神の気配がするよ。お嬢ちゃん、混血かい?」

 舌なめずりをして雨音を見つめる女。手負いの餌を見つけた獣のような危険な雰囲気を醸し出す。

「これはついてるね。私のタイプだよ。ましてや神なんてなかなかお目にかかれるもんじゃない。」

「雨音・・逃げて。」

 ぼそりと声を掛ける砂魔奈。アビシラの異常さは嫌と言うほど知っている。右手に持つ木の棒を前に突き出し、虚勢を張る。

「そんな気の棒で何ができる?浮乃がいなけりゃあんたなんて半人前以下さ。法師からの言葉を教えてやるよ。『お前はもういらない』ってさ。」

「・・・そう。」

 挑発に乗らず、気持ちを抑えようとする砂魔奈。だが、アビシラの挑発は続く。

「お前を作った法師様の言葉だ。浮乃がいなけりゃ戦力にならない。人間以下の戦力なんて必要ないって事さ。」

「黙れ!!そんなことを言いに来たのか?違うだろ?あんたの狙いは・・私のはずだ。」

 怒りを露わにし、持っている棒が小刻みに震える。

「その筈だったんだけどね。そこの嬢ちゃんにも興味が出て来たよ。いい餌を見つけたね。こんな子が居たことを黙っていたなんて、法師の奴も人が悪い。」

 よだれを拭い、腰に差した日本刀を抜くアビシラ。

「白昼堂々、切り合いか。常識がないね。」

「常識?馬鹿を言うなよ。私が人間に捕まるとでも思ってるのかい?それに、戸籍の無いお前が死んだところで事件にもならないよ。さあ、どうする?」

 砂魔奈に歩み寄るアビシラ。虚勢を張ったものの、情けないことに足が震えて動くことが出来ない。その時。

「行こう!!砂魔奈ちゃん!!」

「!!」

 砂魔奈の手を取り、走り出す雨音。

「あの人、危険だよ!!」

「駄目だよ、多分逃げ切れない。妖力の差がありすぎる。」

「何もしないよりはいいでしょ?死にたいの!?」

 必死に走り、公園を出ようとするが・・・。

「甘いよ!!」

『ザシュッ!!』

 鮮血が飛び散る。だが、切られたのはアビシラ。砂魔奈の体を掴もうとした瞬間、刃がアビシラの手を掠めた。

「くっ・・やるねえ。嬢ちゃん。それがお嬢ちゃんの神術かい?」

「・・・逃げて、砂魔奈ちゃん。」

 ジュースの缶を握りしめ、刃を作り出す雨音。素早くポシェットから持っていた缶ジュースを開け、中のジュースを操る。周りの液体に妖気を感じない事から、その術が神術であることを見抜くアビシラ。

「だめ・・雨音。」

「へえ・・。水を操るのかい。刃にまで変えるとは大したもんだ。だが!!」

『キィン!!キィン!!』

「!!」

 小さな腕が激しく揺れ、刃は液体に戻る。

「集中力は維持できないみたいだね。腕も未熟。所詮は子供か。」

「ぐ・・・。」

「安心しな。」

「!!」

『バキッ!!』

 頬を殴られ、地面に倒れ込む雨音。

「嬢ちゃんは次に相手してやるよ。今回の相手はこっち。」


「お婆ちゃん!!砂魔奈ちゃんが!砂魔奈ちゃんが!!」

 泣きながら婆様にしがみつく雨音。雨音の頭を優しく撫で、落ち着かせようとする。

「分かっておる。任せておきなさい。」

(・・・頼むよ。菊花。)

 雨音からの電話を受けた婆様は即座に菊花に連絡をしてアビシラを追うように命令していた。


・・・そして一時間後。

「どうだった?」

「・・・・。」

 婆様の言葉に対し、無言で頭を横に振る菊花。

「常根山のふもとで姿を消しました。」

「そうか。」

「ただ・・隠れたという訳では無さそうです。」

「どういう事だ?」

「見失い方が釈然としないのです。高速で移動して振り切ったのではなく、『消えた』と言った方が当てはまるかと。山中に逃げ込まれたため視界が悪く、姿を捉えることはできませんでした。ですが、ある場所で忽然として姿を消したのです。」

「ある場所?そのあたりに不審なものは?」

「いえ・・。ですが、妖気ごと消えるというのはおかしな話。あの女だけならまだしも砂魔奈まで同時に妖気を消す理由が分かりません。」

「・・・その場所で『何か』が起こったと考えるのが普通か。ならば、望みは薄いが姫様に残留思念を読み取ってもらうか。」

「待ってください。ここは正樹にも協力を要請してもよろしいでしょうか?」

「正樹に?」


「目は覚めたかい?」

気を失った砂魔奈が目覚めたのは、以前住んでいた廃墟の一室。

「・・・・。」

(からだが・・・動かない。)

 椅子に座らされ、動くことが出来ない。両手を背もたれの後ろに回され縄で縛られてはいるが、それとは別に全身の自由が奪われたことに気付く。

「ふふ・・・。薬は効いているね。奪ったのは下半身の自由だけ。口は動くはずだよ。」

「きさま・・。」

「ふふっ。いい目だ。そうだよ。これくらいの抵抗を見せないとこちらも面白くない。」

 うっとりと酔いしれるように砂魔奈を見下ろすアビシラ。高揚から体に電気が走る。短刀を取り出し、峰をなぞるように舐める。

「あんたを一目見た時から気に入っていたよ。その肌。髪。そして、私を拒絶するその瞳。」

下から上へと感触を味わうかの様にゆっくりと砂魔奈の服を切り裂く。身動きの出来ない砂魔奈はその屈辱から逃れることは出来ない。

「ぐ・・・。」

「強気だねえ。涙は浮かべるが命乞いどころか喚きもしないとは。」

「ペッ!!」

『ビチャッ・・』

 砂魔奈のタンがアビシラの顔に命中する。

「・・・いいねえ。その虚勢がいつまで続くか・・・ね!」

『ボスッ!!』

「がはっ!!」

 砂魔奈の腹部を殴る。そして、掛けられたタンを拭い、その指を口へと運ぶ。

「れろ・・・ごくっ。・・・あんたの地獄はこれからだよ。冥土の土産に私の術を教えてあげる。」

『ブンッ・・』

「!!・・・浮乃?」

 アビシラの姿が一瞬で浮乃に代わる。

「違う・・浮乃はそんな顔をしない。」

 欲を満たそうとする下品な顔。腹を空かせた野良犬の様にヨダレを垂らし、自分を餌にしか見ていない。

「そう。私の術は、自分の姿を一番好きな人物にすり替えること。やはり、お前の目には浮乃に見えているか。」

「・・・そんな術が何になる?」

「ふふふ。私の性格を知っているだろう?戦闘に妖術を使う気は毛頭無い。それなら心を砕くことに使うね。どうだい?今からお前は愛していたものに甚振られる。」

「・・・何に姿を変えようがその顔は誤魔化せない。汚い顔だ。吐き気がする。」

「まだ言うかい?」

「その顔を止めろ!!」

『ザシュッ!!』

「ガアアアアアアアアアッ!!!!」

 緑色の液体が砂魔奈の体から噴き出す。

「血の色を味わいたいが人形ならば仕方ない。雨音とかいう女の子まで我慢するとするか。」

「雨音に・・手を出すな。」

 呼吸が乱れ、涙がこぼれる。心臓の鼓動が早くなり傷口を中心に熱さと痛みが止まらない。

「それは無理だよ。あんな子を放っておくわけにはいかない。」

「雨音はかんけい・・ないだろ。」

「うるさいねえ。もう少し痛めつけて忘れさせてあげるよ。」


「法師・・先ほどから何か、声が聞こえませんか?猫の喧嘩の様な。」

 空になったコップに日本酒を注ぐ法師。それを一気に飲み干した後、大きく息を吐き出す。

「プアアアッ!!・・構う事は無い。アビシラがワシの作品で遊んでおるのだろう。」

「作品?」

「ああ。お前が逃した砂魔奈を捕まえてきてな。甚振っておるのよ。」

「あの女子ですか?しかし、良いのですか?こちらの味方では?」

「構う事は無い。あやつは浮乃がおってこそ戦力になる。棒術に長けていた浮乃ならまだしも、砂魔奈の方は生きていても情報を漏らす可能性しかない。処分はアビシラに任せておる。」

「処分・・・。」

 考え込んだ後、扉を開き部屋を出ていく音神。音神を気にすることなく一升瓶を取り上げ、再び空になったコップに酒を注ぐ法師。


「・・・ここか。」

 扉の前に来たときには叫び声は消えていた。ドアノブに手をかけ、木製のドアをゆっくりと開く。

「!!・・・これは。」

 異様な光景だった。一糸まとわぬ姿でこちらに目を向けるアビシラ。砂魔奈の物と思われる溶液を浴び、白い肌がところどころ緑色に染められていた。

「・・・なんだい?今いいところなんだよ。邪魔しないでくれるかい?」

「あ・・・が・・・・・あ・・・。」

 古い蝶番が軋んだかの様な呻き声。すでに砂魔奈に意識はない。無残な肉の塊はギリギリのところで生命を維持している。・・いや、『維持されている』と言った方が正しいのだろう。弄ばれた彼女にはすでにまともな意識は存在していない。

「・・・これは。・・どけっ!!」

 アビシラを突き飛ばし、砂魔奈の前に立つ音神。そして・・・。

『ザシュッ!!』

腰に差した刀を抜刀し、一太刀で砂魔奈の意識を絶つ。

「!・・てめえ!なんのつもりだ!!」

「それはこちらが問いたい。このような愚行に何の意味がある?」

「意味だあ?てめえの思想なんてどうでもいい。私の楽しみを奪うとはどういう了見だ。」

「・・・イカれてやがる。」

「法師!!契約が違うぞ。人形の管理くらいちゃんとしておけ!!」

 大声を出すアビシラ。その時。

『バチイイイイッッ!!!』

「ぐおおおおおっ!!!」

 雷に打たれたかの様な衝撃。その衝撃に耐えきれず、床に倒れる音神。

「ふん。分かったろ?てめえも所詮人形なんだよ。二度と逆らうんじゃねえぞ!!」

 音神の脇腹に蹴りを入れるアビシラ。着物に袖を通し、悶絶する音神を放ってそのまま部屋を出ていく。

「満たされないねえ・・・。」

 苛立ったままアビシラは闇へと消える。


「愚か者め。アビシラとは契約で成り立っているんだ。」

「・・・ですが。」

 部屋で酒を飲み続ける法師。口元を腕で拭い、つまみの豆を食べながら、再びコップに酒を注ぐ。

「お前には確か子供がおったな?それと重なって見えたか?」

「・・・・。」

「図星か。初日に砂魔奈に刃を向けた時も気が進まなかったか?」

「いえ。それは命令ですから。」

「ふっ。まあいい。お前に人形を作るコツを教えてやる。ワシの人形作りは他とは違ってな。大抵は入れ物を用意してから核を入れて終わりだが、ワシの場合はその後に続きがある。」

「続きと言いますと?」

「体がそこから決まる。溶液が特殊でな。人間の遺伝子をもとに形成されており、こいつが核の情報と結びつき、相応の体に変化する。要するに砂魔奈も浮乃も外見は私が想像して作ったのではない。その内側と溶液を私が作っただけで、顔も背丈も核次第という訳じゃ。ワシがどうこう出来る代物では無い。」

「核の情報をもとにそれを人間に置き換えると言う訳ですか?」

「そう。あやつらはイヤリングを元に形成された。2個で1つの代物ながら、見かけには偉い差があったがな。」

 余程酒がまわっているのだろう。今日の法師はよく喋る。普段よりも顔の筋肉が柔らかく上機嫌であることが伝わる。

「もっとも、お前の場合は少し溶液が違う。死者の体を戻すとなると、それ以上に難しい。」

「・・・法師。少し飲み過ぎでは?体に障りますよ。」

「決戦前だ。少し酒が入った方が心地よい。」

「決戦前?」

「出るぞ音神。アビシラが掻き回してくれる今が好機だ。気難しい女であるが、貴様のおかげで仕掛ける気になったようだ。この混乱に乗らぬ手は無い。」

 椅子から立ち上がる法師。酒を何杯も飲みながら、素面と変わらない足取りで部屋を出る。

「久々の戦じゃ。血が沸いておるのが分かるわ。妖怪どもめ・・・。人形法師の実力、見せてくれよう!!」


常根山、ふもと。

「・・・この辺りでアビシラとかいう女が姿を消した。雨音の話では危険な匂いがする女だとか。私も千里眼で見てたけど、身のこなしからかなりの凄腕だと思うね。」

 アビシラが消えた場所に集まる菊花、麻姫、正樹の3人。日は落ち、懐中電灯の明かりを頼りにここまで辿り着いた。

「分かっていると思うが残留思念は期待しない方が良い。そのアビシラとか言う奴の所持品でも捨ててあれば多少は期待出来るが、そんな物はまず無いだろう。」

 残留思念を読み取るには対象人物が強い感情を発していたことが一つの条件。そして、その人物が触れた物でないと読み取ることが出来ない。この広い山でそれが出来る可能性は、不可能に近い。

「だから正樹を連れて来たんだよ。感知に優れているこいつなら私たちが気付かない微かな妖気に気付くかも知れないだろ?確率は低いだろうけど、少しでも上げるためには正樹の協力が必要だ。」

 菊花自身、ほぼ無理な作業だと思っている。だが、正樹の感知を使う事で僅かながら可能性は上がる。

「頼む正樹。この周辺で消えたのは確かなんだ。少しでもおかしな物を感知したら教えてくれ。」

「・・・分かった。」

 頷き、周辺の妖気を探る正樹。だが、この場に居る麻姫と菊花の妖気こそ感じるものの、近くに妖気は感じない。

「・・・・。」

(痕跡を探すわけだから、今まで以上に探らないと・・・。もっと一か所に集中しないとダメなのか?)

 生物の妖気を探るわけではなく、植物やゴミに付着した妖気を探らないといけない。出来るかどうかも分からない作業を不安に感じながら、必死に辺りを探る正樹。

「・・・私たちは他を探そう。ここに居たら私たちの妖気が近すぎて正樹の邪魔になるかも。」

「・・そうじゃな。」

 菊花と共に周辺を探そうとする麻姫。周辺に怪しい物が落ちていないか探す。そして10分、20分と時間が過ぎるが怪しい物は見つからない。一通り探し終わり、再び正樹のもとへ帰ろうと思ったその時。

「ちょっと来て!!」

「?」

 正樹に呼ばれ、声のする方へと向かう麻姫。自分より早く菊花が駆けつけ、先ほどまで正樹が居た場所と少しずれた所に集まる。

「何かあったのか?」

「うん。・・・本当に微かな妖気なんだけど。これ。」

 そう言って正樹が指さしたのは空中に浮かぶ一本の黒い糸。

「?・・・なんじゃこれは。」

「触るんじゃない!!」

 糸を触ろうとした麻姫を一喝する菊花。その声に驚き麻姫は動きを止める。

「砂魔奈が言っていただろ?『人形法師がいるのは別の空間』だって。この糸は繋がっているんだよ。この空間とその空間に。つまり、この空間を妖気で広げてやれば簡単に出入りが出来るって仕掛けさ。」

「では、この糸を引き抜いたら?」

「絶対抜くんじゃないよ。空間は消滅する。」

「・・分かった。」

 こくりと頷く麻姫。

「良くやったよ正樹。これは思わぬ大手柄だ。これであいつらのアジトに乗り込める!!」


 ・・その頃。常根山の山頂付近から町の夜景を見渡すアビシラ。

「久しぶりの獲物だったのに・・。火照りが治まらないよ。」

 目を閉じて意識を集中する。町中の妖怪達を探り、雨音の妖気を探し出す。

(あの子は神の血が混じっていたからね。『神気しんき』と妖気が混じった人間を探せば当てはまるだろう。)

 一つ、二つと妖気を持った者を探っていく。そして・・・。

「・・見つけたよ。」

 ニヤリと口元を緩ませる。間違いない。この町でただ一つ、妖気と神気が混じった人物。確信を得たアビシラは崖から飛び出した後、空へと舞いあがる。夜の闇に紛れながら雨音の姿を思い出す。

「イヒヒ・・・体が疼くよ・・・。待ってな雨音ちゃん。」


「!!」

「どうした?正樹。」

 突然、上空を見上げる正樹。そして星空が広がる空を指差す。

「あの辺・・。妖気を感じる。反応は弱いけど、気持ちが悪い・・。」

「どこだ?」

 正樹が指す方を凝視する菊花。その先に映るのは・・・。

「!!・・こいつか。」

 白い着物を着た女が上空を飛んでいた。妖気を隠し、空を飛ぶ女。その風貌から砂魔奈が言っていた『アビシラ』である可能性が高い。

「何故ここに居る?出入り口はここだけじゃないのか?」

「どうする?菊花。」

「・・・落ち着け。奴はどこに向かっている?正樹、奴が向かう先に妖気の反応は?」

「ちょっと待って・・。・・・・これって、俺ん家じゃねえか?間違いない!!」

「なんだって!?」

「だって、他に妖気を持った奴いないし。どう考えても俺ん家だ。」

 正樹の言葉に驚く麻姫。今、家に居るのは鳴女と雨音の二人。婆様が出かけているため、雨音は正樹の家に預けられていた。

「攻めて来たのか!単独とは舐められたもんだね。私が向かう。この中では一番速い。麻姫、てめえは鳴女に連絡を入れな。」

「分かった。菊花、気を付けろよ!」

「ああ!!」

 そう言うと空を飛び、アビシラを追いかける菊花。だが、アビシラはすでに正樹の家に到着していた。


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