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取り憑かれてる?(前編)

 バスやタクシーを使っては美奈子が町の人に見られてしまうため、疲れを覚悟で徒歩で向かうことにすると、道中、擦れ違う人は誰も彼女に気付くことはなかった。歩きながら話しかけてくる美奈子への応答のせいで、滋は独り言の多い人と見られたとも限らないが、そう気に掛かったのも歩き始めて数分程度、気が付けば世間話に夢中になって、疲れすら忘れている。一時間弱で目的地の公園へと到着、辺りはすでに暗い。幽霊が出るにふさわしい時分。美奈子へ振り返ると、日が暮れたほうが彼女の姿がくっきりと見える。


「結構、山のほうにあるのね。ベンチ一つ、遊具はブランコだけ、芝生ばっかりで、隣は森。あら、池もあるんじゃない。人の出入りも少ないし、ほんと、幽霊の一人や二人はいてもおかしくないわね」


「幽霊のあなたに言われても… もうすでに一人いることになってますよ」


 弥生の姿が見つからず、携帯電話を掛けてみる。繋がると、森のほうだと知らされる。通話しながら、キョロキョロと首を回していると、遠くの木々の間より手を振っている彼女の姿がある。


「遅いわよ、男手」


 どうやら戦闘の最中でも、臨戦態勢という訳でもない。何やら面倒に振り回されて呆れ疲れた顔をしている。


「いったい、何があったんですか?」


「何があったって? う~ん、すごい駄々をこねられて、言うこと聞かない、動かない、っていうような感じよ」


 話に聞く面倒な幽霊がどこにいるのか辺りを見渡す。同じく幽霊の身分である美奈子が、そこだと指差す先には、街灯の明かりが薄ぼんやりと届く一本の木の陰で、どんより蹲る女性の背中がある。


「あら~、いかにも幽霊って感じよね」


 悪意もないが遠慮もなく美奈子が口にすると、弥生もようやくその幼き身形の幽霊に気がついて、


「滋君、この子は誰よ」


「えっと、誰かといいますと、こちらは名前を美奈子さんといいます」


「あ、美奈子といいます。弥生さんですね、今後ともよろしく」


 子供の形をして大人びて手を差し出し握手を求めると、根が真面目な弥生は畏まってついつい応じてしまう。ただ、いざ手を握ろうとすると、霧に映った残影の如くすり抜けてしまう。


「あ、弥生さん、こちらも幽霊です」


「さ… 先に言いなさいよ。びっくりするじゃないのよ」


「あ、いえ、言いそびれて… 美奈子さんも、本当は握れるんですから、遊んでないで…」


 美奈子は、今度は子供らしく屈託のない笑みを作って改めて自分から弥生の手を両手で握ると、ぶんぶんとその腕を振る。随分と無邪気に振る舞って、そうしている姿は容姿どおりの子供だが、子供と思った矢先に、その驕りを見透かすように急に大人びた口調を使って、


「あら、あなた、暖かい手をしているわね。冷え性とは無縁って感じね。羨ましいわ。私、冷え性なのよね」


 血の通わない幽霊である美奈子の手は触れられると言葉どおり冷たい。それも彼女が自論する所謂冷え性といった程度のものではない。かといって鉛や鉄、その他無機質といった冷たさともまた少し違う。幽霊というだけあって、その手に生きている実感がなく、触っているだけで自分の体温が、もしくは自分の生命力までもが吸い取られてしまうかのような感覚がある。さらには、愛嬌のよい明るい美奈子の、その性格の裏に隠された寂しさや孤独の悲しさを、よく彼女のことを知りもしないはずなのに、理由もなく感じ取れてしまう気がする。弥生はふとヴァイスのことを思い出す。以前に彼と握手をしたときも、こういった感情を抱いた記憶がある。


「ほんと、冷たい…」


 美奈子はニッコリとする。



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