女の恋心は奇妙奇天烈摩訶不思議(前編)
調査という名目ながら、ただ幽霊と仲良くなっているだけというのも果たしてどうなのか? 滋としては、それも悪くない。が、仕事として是非を問えば、おそらく非となる。こんなときこそ隊長の桐生がすぐ側で指導してくれていれば、より彼の成長の糧となり、それがまた組織の資本にもなろう。その一念が通じたのか、携帯電話に丁度桐生より着信が入る。早速出てみると、
「よう。お前、順調か? というか生きているか?」
「生きているし、それなりにうまく進んでいるけど。どうかしたの? 考え直して手伝いに来てくれるの?」
「いや、むしろお前に手伝ってもらいたいと思っての電話なんだわ。お前、順調なら適当に引き上げて、次は弥生の所に行ってくれないか。何か、男手が必要だとか言ってるんだよ。それとなく面倒くさいことになってきているらしい」
「え? それなら誠司が行けばいいじゃない。僕の方は、まあ、今日はもういつでも終わらせられると思うけど、でも男手といったら僕よりも君のほうが適しているんじゃない?」
「いや、俺はいま近くにいないんだよ。基地へと向かっている最中なんで。それに今回は幽霊関係だから、お前のほうが働けると思うぜ。もうそっちの幽霊は発見できたか? 結界は利いたか?」
「幽霊は、いま僕の目の前にいるけど、やっつけようとか、そんな野蛮な展開にはなっていないよ。平和に会話しているところだよ」
「そうか、そうか。結構いい仕事してるじゃないか。まあ、そんなことで、とりあえず弥生と合流してくれないか。あいつのところが、もしかしたら戦闘、なんてことになっているかもしれないので。俺も用が済んだらすぐに合流する予定だから、それじゃよろしく頼むよ」
そう頼んで、滋の承諾も聞こうとせずにすぐに電話を切ってしまう。「ちょっと待ってよ!」と遅れて叫ぶ声がトンネルの中に響くと、美奈子は両の耳を手で塞いで酸っぱい顔をする。
「何事よ?」
「いや、ちょっと別の仕事で…」
電話の内容を美奈子にもわかりやすく説明して、もうここを出てそちらへ向かわなければならない旨を話すと、彼女も年上らしくよくよく聞いて、それは面倒だとか、あなたも大変ねだとか、相槌を打ったり労ってくれたり、何やらできのいい姉さん女房のように振る舞ってくれる。滋も、はて変な感じがする。それもただ変ではなくて、悪い気がしない。不意に、将来年上の人と結婚している姿を思い浮かべてしまう。しかも、それが妥当のようにも思えてくる。生まれてきてからずっと三人の姉を見ながら育ってきた身であれば、結婚相手くらいは同じ歳か、年下と願っていたが… 彼の人生、今後も年上の女の人と縁が切れないのかもしれない。




