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少女の幽霊はフレンドリー(後編)

 滋は姓名を名乗ると、続けてUWとその隊員である自分の身分も簡単に説明する。退治ではなく対話を基本に解決を図る主旨を強調して話すと、美奈子の関心も買う。いわゆる関心とは「自分を救う白馬の王子様」「運命の出会い」「ドラマのような恋の始まり」といった、間違った解釈と妄想の類である。意外と面倒な娘である。


「あまり、誤解のないように…」


「あら、何を照れているのよ。私のことを調べてどうにか成仏させてくれるんでしょう? ああ、殿方が私のために命を掛けて天国へと向かわせてくれる。それでもう現世では会えなくなっても、その儚くも短い恋を二人は来世まで忘れない。今度生まれ変わるときこそ二人は一緒になるの。ロマンティックね~」


「寝言ですか…?」


「ま、失礼な人。乙女の気持ちを受け流そうとするのって男の悪い癖よね。女の子のような美しい顔をしても、やっぱり中身は男の子のようね」


 美奈子の視線が滋の胸に向くと、その心中を見透かすようで、彼は堪らず腕を交差させて覆い隠す。その視線がそのまま彼の股間に落ちると、今度は背中に寒気を覚える。


「どこ見てんですか…」


「いやん、別にぃ」


 嬉しさ余って恥ずかしくなる乙女は、幽霊の分際で頬まで紅くする。その顔を手で隠したと思えば、指の間からまたこっそり滋の股間を見つめている。大人びたり子供じみたりと、慌しい性格である。


「ほんと、その性格や知識はいったいどこで手に入れたのやら…」


「あら、そんなの幽霊になってから色々と見聞きして覚えたに決まっているじゃない。このトンネル内だけでも、色んな人が来るのよ。ほとんど肝試しの若者ばかりだけど。中にはカップルまでいて、あんなことやこんなことをムッチュムッチュとしているわけよ。傍に幽霊がいるってことも知らずにね。ああでも、そういうものを見せられると、そんなときに限って私もその人たちの前に出られないのよね、恥ずかしくって。だってそういう人たちって、ほんと生々しいもの。ほかに珍しいものでは自殺希望のおじいさんとかいたわね。『早く帰りなさ~い』なんて耳元で囁いてやったらすぐに帰って、そのときばかりは幽霊の私でも人のためになったって思ったわよ。あとは夜の町を散歩に出かけて色々と見聞きしているかしら。そんなところね」


「散歩? あれ、美奈子さんって、このトンネルから出ることができるんですか? 幽霊なのに… ずっとこの場所にしがみついているわけじゃないんですか?」


「あらまあ、驚いてくれて。そんな顔も可愛らしいわね。でもそうよ。普通にここから出られるわよ。私、出られないなんて一言でも言った? そんなルールはないわよ。幽霊なんて自由な身分なんだから」


「そう、なんですね…」


「うん、そう。だけどね、何故かしらね、夜が明けてくるといつもこのトンネルに戻ってきてしまうのよね。まるで自分の家みたいに。それと昼間に出かけるのはちょっと嫌かしら。出られないことはないんだけど、まぶしすぎるのよね、太陽が。私、すっかり夜更かしばかりの悪い子になってるのよ。でも駄目よ、幽霊になりたいなんて考えちゃ。長年幽霊をやっている私の意見だけど、好んで幽霊なんてものになるもんじゃないわね。意外と寂しいわよ。私には人間観察っていう趣味があるからまだいいけれど、普通の人ならきっと孤独に苦しむと思うわ」


「…年の功ですね」


「あんた、一言多いわよ」


 謎も多いが、だいぶ幽霊というものを理解すると、では次はどうすればよいのかと、滋は小首を捻る。UWの一員としての取るべき行動は何か、美奈子を見つめてあれこれ思い描いていると、その視線を勘違いした彼女は、見つめられたことに恥ずかしくなって背を向ける。ドキドキしているのがその後ろ姿からわかるので、滋にすれば気恥ずかしいやら、思考の邪魔になるやら。


「あの、そういうんじゃないですよ」


「やっぱり両思い? いやん、はずかしいぃ」


 滋はその時ようやく確信する。この幽霊はマイペースなのだと。



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