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美奈子の能力(前編)

 トンネルの幽霊が自らの肩を引き千切り、拘束から抜け出しそうになっても桐生は静観する。


「ちょっと… 肩口だけじゃなくて、このままだと胴体の半分が蒸発してしまうんじゃないの?」


 弥生の同情も尤もで、UWの隊員誰の目にもトンネルの幽霊の敗北は明らかである。それでも我が身を捨ててでも美奈子を渡すまいとする意地に桐生も見とれてしまう。


「誠司さん、もう抜いてあげてください。あの人にはもう、あなたたちを攻撃できる力はないはず」


 美奈子が桐生の前に立って、笑うでもなく怒るでもなく、感情の一切を胸の中に押しやった静かな顔をして彼を見上げる。彼も小さく笑って彼女の頭を撫でてやる。実際には触れられないので、撫でた真似である。


「了解。これ以上は俺の良心もいたむ。いじめも俺の性分じゃない」


 そう言って、もがき苦痛に叫ぶトンネルの幽霊の真正面に立つと、何も言わず肩口に刺さった刀を抜いてやる。そいつは壁から滑り落ちると地面に突っ伏してしまう。出現しているのは上半身だけで、その上半身も、片腕がなくなり肩には穴が開いている。痛みに悶え、桐生たちを攻撃しようともしない。睨む目に敵意は失っていないが、体が思うように動かないようである。美奈子が、その側に立つ。何事か呟きながらトンネルの幽霊の頭をそっと撫でてやる。するとどうだ、それまで体をボロボロにされ、それでも桐生たちを敵視する執念の塊であった鬼の形相が、みるみる安らかなものになっていく。ふとその目から涙が流れたと思うと、そいつの体全体が薄くなる。


「もしかして、このまま成仏してしまうの?」


 弥生の問いに、美奈子は首を横に振る。


「ううん、ちょっと休みに行くだけのようよ。この人は、まだ死んだわけじゃないから」


 トンネルの幽霊は今にも見えなくなる手前で、


「この娘は、この娘は私にとって癒しだ。いや、おそらく私たちのような存在全てにとって癒しであるだろう。この娘を傷つける輩は一切許さない」


 こう言い残す。そして消えてしまう。


「俺たちは別に美奈子さんを傷つける気なんてないんだけどね… 誤解も甚だしい奴だな、まったく」


 美奈子は澄ました顔を持ち上げて、


「私… 私、何となくわかったような気がする。どうして私が幽霊になったのか、幽霊になっただけじゃなくて、たいした執念も怨念もないのに成仏できないでいるのか… 多分私は、成仏できない幽霊のためにいる幽霊なんじゃないかと、そう思う」


 と、唐突に口にする。皆、噛み砕くのに一呼吸置く。弥生が、


「美奈子さん、それ、本当にそうなの? 根拠はあるの?」と聞く。



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