美奈子を通しての会話(後編)
「お前ら! 私を無視するんじゃない!」
渾身の怒鳴り声。でもそれも、滋には女声、桐生と弥生にはオカマ声だ、迫力に欠けてつい可笑しくなる。
「いやいや、悪い悪い。俺らもちょっと調子に乗ってた。そうそう、おたくを無視するなんてことはできないんだ。もう、おふざけはしない。だから、おたくも正直に俺たちの質問に答えな」
桐生は一変して喧嘩上等。美奈子を通訳にして敵にも伝える。
「と、そういうことよ。何か質問があるなら、そのつど私が通訳するから」
と美奈子が聞くと、
「その必要はない。貴様らが何を喋っているのか、私には理解できる。直接、貴様たちの言語で私に聞くがいい」
こう返ってくる。
「おやまあ、偉そうに言ってくれるな、こいつは。しかもさっきから質問しているんだけどな。だからおたくは何ものなんだ? どっからやってきて、どうして俺たちを攻撃する? この美奈子さんとはどういう関係だ?」
「一度にいくつも聞くな。どれから答えればいいかわからないじゃないか」
「ふん、ならわかった。とりあえず、おたくは何者だ? 幽霊っぽいけど、何がどう化けてそうなった?」
しかし、一間あって、
「それは答えられない。私が何者なのかなど、この場合には関係ない」
「ほほう、大いにあると思うがね。それじゃ、何故、俺たちを攻撃する? 俺たちがお前に何をしたわけでもないだろう? それも突然だ。このトンネルに入ってきたことに理由があるのか、それともこの美奈子さんと一緒にいることに関係があるのか…」
「ノーコメントだ」
まるで答える気など初めからないかのようだ。それでいて次の質問は何かと澄ました顔で待つ。なかなか曲者である。
「ほうほう、それも答えられないか。なら、おたくとこの子、美奈子さんとの関係は何だ? 執拗に気に掛けて、ある意味、俺たちから守ろうとしている節もうかがえたけど、つまりは親戚か、それとも憧れの彼女といったところか? 何にしたってそのこだわりは尋常じゃないように思うのだけれど?」
「それは、これまで以上にノーコメントだ」
答えると言っておいてこれ。桐生もムカムカときて、
「てめぇ、人をおちょくってんのか? 馬鹿にしてんのか?」
そう言った途端に飛び掛かって敵の肩に刺さった得物を意地悪い顔をしてグリグリといじる。痛がる化け物だけど、自業自得。滋は思う。誠司は、あまり交渉が上手くないかもしれない、と。
続きます




