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殺気はあっても出て来ない(後編)

 胸の前で両手を翳しながら結界を発生して、それを飴を練るように両腕を交差させながら回してみると、円形に空中にとどまる。さらにそれを今度は前後や上下で捏ねくり回してみると、そのうちバスケットボールほどの球状の結界ができあがる。


「やりゃ、できるじゃないか! よし、今度はそれのもっと大きな奴を作ってくれ!」


 調子よく桐生は注文をつけて、滋も滋で己の新たな技の開発に浮かれると、こちらも調子づいて色々と試す。これがまた期待通りに成功して、最終的に直径三メートルくらいの球体ができあがる。


「できた!」


「よし、いつでも掛かって来い。結界の中にねじ込んでやる」


 万全の体勢で陣形を再び整える。だが、そのまま四、五分と経っても敵は現れない。


「誠司… ちょっと、これ維持するの、疲れるんだけど…」


 滋のほうが限界を訴えて、せっかく作った球状の結界を一旦解いてしまう。まったく情けないと罵るのは桐生のみで、同じく魔法力を体外に放出する弥生にはその疲労がわかる。まだまだ業界初心者が、それも始めての技を五分も継続して放出するなど、なかなかできるものでもない。いいセンスをしていると褒めてもいいくらいである。


「それにしても、さっきのトンネルの幽霊、なかなか出てこないね。あのダメージだから、やっぱりここから逃げたのかな?」


「いや、それはないな。殺気が消えていない。油断するなよ。入り口も出口も先が見えなくなってしまっているんだ。何か企んでいるに違いない」


「もしかして、私たちのこと、ずっと出さない気じゃないでしょうね」


「持久戦ってこと? 僕ら生身だし、飢えて死ぬまでとか、そういう意味?」


「だとしたら卑怯な幽霊だな。勝ち目がないというならさっさと退散すればいいものを。よしわかった。相手が出てこないならこっちにも作戦がある」


 胸を張って自信たっぷりであると、却って滋や弥生は期待できない。


「それで、どんな作戦よ」


 一応は聞いてやる。と、皆を集めてトンネルの化け物に聞き取られないように小声で話しだす。


「よく聞け。トンネルの幽霊はこの美奈子さんをどうやら気に入っているようだ。もしくは俺たちから守ろうとしている。なら話は簡単。美奈子さんを襲えばいい」


 すると滋の顔が忽ち色を失う。


「それは駄目だよ!」


 その声がまたよく響く。


「まあまあ、そんなに熱くなるな。あくまで襲ったように見せるだけだ。芝居だよ、芝居。俺が攻撃を仕掛けようとして、お前が結界でくるむ。弥生、お前は敵がどこから出てくるか見張って、俺たちにすぐ知らせろ」


「ええ?」


 これを命令だと強要する。渋々了解すると、さっそく開演といくが、


「お前、このトンネルの幽霊とグルだな! 俺たちをここに閉じ込めようとして、殺そうって気なんだろ! 騙そうたって駄目だ! お前が俺たちをここへと誘い込んだんだ! あいつが現れないなら、お前から叩き切って、次にこのトンネルの壁をぶち抜いてやる!」


 滋は思う。その演技、下手すぎる。



続きます

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