殺気はあっても出て来ない(前編)
桐生の一撃でトンネルの幽霊が消滅したとも、逃げたとも考えらず、UWの三人の警戒は緩まない。滋は天井を、弥生は足元を、桐生が東西南北四方を見回して、不意な出現と攻撃を受けないよう構えていると、こう構えたときに限って敵もなかなか現れない。
「誠司、やっぱり君の言うとおり、このトンネル、変だよ。出口が見えないよ。暗いからだとか、そんな話じゃない。ずっと伸びているように見える。僕らが入ってきたところも、いつの間にか果てしなく伸びて、入り口が見えなくなってる…」
「要するに閉じ込められたってことだろ。あの敵、ここから追い出すとかそんな生ぬるいことを考えているんじゃない、俺たちをきっちりやっつけたいらしいぜ」
「でも、美奈子さんの話だと、彼女を攻撃する意思はないってことよね。私たちのこと、彼女をさらった人とか、そういう目で見ているのかしら?」
「そうなるとやっぱりその正体は彼女の親父さんか? いや待て、本当か? 親子で幽霊って… でも、彼女はそいつに出会うの、いまが初めてなんだよな。親父さんがどうして二十年近くも自分の姿を見せずに隠れて幽霊をやっていなきゃいけないんだ? やっぱり変だな、これ」
「美奈子さん、あの人、美奈子さんのお父さんという可能性はありますか? 握られたとき、何か親子にしかわからない感覚のようなものはなかったですか?」
指先をくわえて美奈子はしばらく考えるも、
「ごめん、そんな感じはなかったけど…」
「ええい、面倒だ。次に現れたら、とっ捕まえて本人に直接聞けばいいじゃないか!」
「どうやって捕まえるのよ? それに捕まえたとしても、相手と喋れるものなの?」
「そんなもの、滋の結界でミラクルにどうにかしてもらうに決まっているだろう。会話は、同じ幽霊の美奈子さんに任せればいいじゃないか」
「またまた強引ね。そんなことを威張って言える根拠なんて、どうせないんでしょ?」
「ない!」
それでも弥生も滋も、桐生が言うところのほかに次に取るべき適当な行動を提案できない。根拠もなく、変に威張って、訳のわからない自信だけ纏った桐生を見下すのは簡単だが、ときにこういう強引な指令を感性で言える素質も隊長には必要である。美奈子曰く、
「さっぱりした隊長ね~」
「おい、滋。お前、自分の結界を球状に作ることってできるのか?」
「僕の結界はシールド状に自分の目の前に張れるだけだよ。跳ね返したり弾き飛ばしたりはできても、球状は… やったことないよ」
「よし、じゃ、やってみろ。やれないっていう結論じゃないなら、やってみよう」
理屈になっていないが、ポジティブにものを言うと、あたかもそれが理屈が通っているようにも聞こえる。恐ろしき前向き思考の魔術である。仕方なく言われるがまま滋も結界を球状に発生しようとあれこれ挑戦してみると、奇跡かまぐれか、
「あれ? できたかも…」




