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トンネルの幽霊(後編)

「大丈夫?」


「うん、はげしく瘤になってる…」


「まあ、流血もなさそうだし、とりあえずは大丈夫そうだな。とりあえずは」


 一旦は和んだことを口にして、すぐに桐生の眼光が天井に刺さる。


「何だったのよ、いまの!」


「さあね。どっからやってくるかわからないから、お前も気を抜くなよ」


 滋の介抱を美奈子に任せ、弥生も桐生と同様に天井を睨む。桐生の足元にランプが一つ、滋の側にも一つ、その上、弥生も臨戦態勢と右手に炎を生み出し纏えば、さらにトンネルの中が明るくなる。滋も歯を食いしばって痛みを堪えながら立ち上がって結界の構えをとる。


「美奈子さん… いまのは、いったい何なんですか…」


「わからないわ… 私も初めて見る…」


「美奈子さんも知らないなんて… 外からやってきたってこと? それとも… いや、でも…」


 無意識に美奈子を庇うように立って、滋は背中を向けながら彼女に話しかける。しかし、今度はその背中のほうから、


「きゃあ!」


 振り返ると美奈子の足元の地面よりあの「鬼」が上半身だけ現れて、太い腕を伸ばし、巨大な手で美奈子の体を握っている。彼女の首から下がすっぽり隠れるその拳、先ほどの滋の結界のせいか指の数本が黒く焦げているようにも見える。


「こいつ、幽霊の美奈子さんを掴んでる!」


 基本的に物理攻撃の利かない幽霊の体を触れることなど、そうできるものではない。彼女自身が触ることを許したか、相当に強い念じる力が働いたか、桐生の得物のように胡散臭いが対幽霊のコーティングを施しているか、特別な条件がない限りまず不可能である。が、もっと自然な発想をすれば、


「あいつも… 幽霊か!」


 弥生も滋も同じことを考える。「鬼」と思っていたトンネルの中の幽霊はそのまま地面に潜って、美奈子も引きずり込もうとする。桐生は低姿勢から猛然と駆け出して美奈子を握る巨大な手へ一閃を放つ。刀がその手首をザックリと切断すれば、トンネルの幽霊は野太い悲鳴を上げてもがき苦しみ、そのまま一人地面へ消えてしまう。美奈子を握っていた「手」は煙を挙げて消滅、彼女はその場で尻餅をつき、きょとんと目を丸くする。


「美奈子さん! 大丈夫ですか!」


 滋が近寄って目前で手を振ると、


「あ~、びっくりしたぁ」


 どうやら彼女に危害はない。


「どこも何ともないんですか? がっちり握られていたように思いますけど…」


「ううん、握られていたけど、そんなにきつくなかったわ。変な話だけど、逆に大事に優しく扱われている気がして、悪い気はしなかった… 手首、落とされて… あの大きな人、大丈夫なのかしら?」


 幽霊の体のつくりや回復の具合など、滋にはそれらの知識がない。弥生もまた然り。同じ幽霊の美奈子もその手の体験がないのでわかっていない。そうなると三者の視線は暴力行為に出た桐生に集中して意見を求める。それも、相手がどうなるか、それをわかっていないで攻撃したなら野蛮であるとばかりに。


「う~ん、本当に切れるとは思わなかったな… あのじいさんも、なかなか」


 やはりこちらもわかっていない。


「でも、あれは何だったんだろ? 幽霊だとしたら、誰だって言うんだろ? もしかして、あれ、美奈子さんの… お父さん?」


 が、同じ幽霊である美奈子と比べて、彼女がしっかり人の形をして、サイズも人間の子供そのとおりであるなら、無理のある推理である。あの化け物はあまりにも大きく、顔も歪であった。それでもなお滋は思う。年月を掛けて姿を変えて、それが凶暴に、人の姿から逸脱したとも限らない、と。



続きます

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