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トンネルの幽霊(前編)

 滋が自身の被害妄想より開放されないうちに、車はトンネルへと到着する。時計は夜の十一時。月夜に雲が漂って、三日月の顎先は久しく隠れ、現れたと思えば頬が隠れる。


「さて、何が出るやらね。この暗さ、この時間帯、この空気の湿り具合、震えちゃうね」


「誠司、あんた、また調子に乗らないでよ。幽霊をも攻撃できるようになったと思って血の気が多くなっても困るってものよ。あくまで調査なんだから」


「そんなのはわかってるよ。でも俺の得物は手放せない。何となくわかるだろ? このトンネル、どこか普通じゃないぜ」


 古びてカビ臭く、今では誰も通らないこのトンネルの入り口の手前、おそらく美奈子の父親が心中を図ったと思われるその付近に立ってみれば、その場の禍々しさを肌で感じて、弥生も滋も桐生の言う震えとやらがよくわかる。はてさて滋は、先日、日が沈む前にこの場に来たときには、確かにおぞましい雰囲気はあったものの、これほど不穏で不気味で気色が悪くなかったと、首を傾げてしまう。美奈子にしても普段との異変を感じて、


「何だか、今日はいつになくトンネル自体が不機嫌な感じがするわね」


「とりあえず、まあ、入ってみようぜ」


 車からランプを二つ用意し、共に弥生の炎で点火、一つを桐生が、一つを滋が持って、いざ中へと入る。


「弥生さん、そんな能力があるのね。便利ね~ 私にもそういう能力が使えればいいのに」


「私の目には、幽霊ってだけで美奈子さんが能力者のように見えるけどね」


 桐生を先頭に、間を弥生と美奈子、最後尾を滋にして、一行は中に入る。壁や天井でランプの丸い明かりが揺れるたびに、滋の警戒は敏感となり、目で追ってしまう。彼の肌が俄かに粟立つ。弥生も敏感によからぬ気配を感じて、


「ほとんど殺気よね、これ」


「おう、どこから放たれているのかわからないけどな。このトンネルの中全体から感じる気がする。それより… おい滋、このトンネル、そんなに長くはないはずだよな。でも、出口が見えなくないか?」


 桐生がランプを進行方向に翳しても、ずっと闇が続く。そこで滋は不意に何かを見る。返事もせずに急に立ち止まると、弥生と美奈子が振り返る。


「どうしたの?」


「う、上…」


 その声を聞いて桐生も振り返る。三人が滋の指差す天井を見上げると、ランプの明かりに照らされた、人とも動物ともつかない「鬼」のような顔をした、霧か靄か雲か白く薄ぼけた大男の胸から上が、天井より逆さにぶらさがっている。


「何!?」


 驚くのも束の間、「鬼」が拳を握って、目が合った滋を狙って殴りかかる。拙いと思った次には胸を打たれて滋は体ごと宙に飛ばされて勢いよく背中から壁に叩きつけられた。


「きゃあ、滋さん!」


「滋君!」


「野郎!」


 すかさず握った刀を鞘から抜いて、「鬼」目掛けて飛びかかろうとする桐生だが、「鬼」は奇声と共に放った拳を引っ込め、そのまま体ごと天井へと吸い込まれて消えてしまう。滋は、頭を打ったか気を失っているが、胸の前で翳した両手が小さな結界を作っている。


「滋君、とっさに…」


「なかなかやるじゃん」


 背筋を伸ばしてやり、頬も引っ叩いて、滋を目覚めさせる。気絶から立ち直るや途端に後頭部を痛がっている。



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