美奈子を縛るものとは?(前編)
本日起きたこと、目にしたこと、ならびにUWの存在を可能な限り他言しないことを里山に念を押す。里山としてもこのような自身の非現実的な色恋の話を他人に話したところで信じられないのが落ちで、返って変人や心の病を疑われそうだと、その気もない。双方、合意に達したところで別れとなる。最後に、
「あの、神山さんの墓の場所だけでも、知っていれば教えてくれませんか?」
と訊ねられて、しかし弥生もそこまで調べていないものだから、後日封書で知らせることとする。
「お墓参りをされるんですか?」
「そうですね。一回は参っておきたいです。自分の中で、一回で済むのか、それともそれだけで済まないのかわかりませんが、知っておきたいです。新しい恋を探すようにしますが、だからといって、彼女の全てを忘れることはできないです。彼女の気持ちを胸に秘めながら、それでいて次へ向かいたい、そう思っているんです」
優しい男が選んだ人生の歩み方を滋たちは止めることはできない。忠告することも、まして茶化すこともできない。それでも滋はただ黙って静かに別れることもできず、
「もし、僕たちで何か出来ることがあれば、いつでも連絡ください」
「ありがとう。でも、そうならないように自分も前を向いて頑張ります。逆に、あなた方にはお世話になりっぱなしだったようなので、もし私に、私なんかにあなた方の手助けができるとは思いませんが、何か手伝えることがありましたらいつでも連絡をください」
そういって一礼して、里山は帰っていく。彼の姿が見えなくなるまで見送ったUWの面々は、さて一件落着とはいかず、三人揃って美奈子へと振り返って、花子が最後に言い残した例の「糸のようなもの」の件について検討する。彼らには花子の言うようなものは一切見えない。上空から見ればわかるかもしれないと、桐生が渾身の力で垂直ジャンプをしてみせるが、人間離れして五メートル強は跳んでも、それらしきものもわからない。もともと見える能力に欠けているのかもしれない。
くだらないことで負けず嫌いであるから納得いかずにあれこれ跳んでみる桐生を放っておいて、弥生たちはさっさと車へと戻る。途中、これからの予定を隊長抜きで練る。花子の言うとおりなら、これからトンネルに向かい今夜中に一度調べるべきだとの結論を出す。美奈子もそれに賛成する。とはいえ美奈子も、自分の幽霊としての存在の意味を知ることに戸惑いもある。その調査の末に、自分も花子同様に成仏するのかと想像してみても、ピンとこない。
遅れて合流する桐生にこれらの予定を説明すると、
「美奈子さんだっけ? 彼女の場合、あの花子さんと違って、何か未練があるとかそういうものじゃないんだろ? もし仮にだ、あの花子さんが天に召されるとき超神秘的な力でこの美奈子さんの『縛って』いるものを、見えただけではなく、『縛って』いると断定できたとする。でも、それが未練じゃないとしたら、それじゃ、いったい何だっていうんだ? 未練以外で『縛る』といったら、呪いか何かか?」