不自然な二人(後編)
言い回しがイヤらしいが、美奈子もうんうんと頷いている。彼女が滋に色恋のアプローチをするのも、自身が幽霊であることを弁えた上で仕掛けている戯れと、滋も改めて思い知る。それまで、二十歳を超えた大人の生身の人間の立場として、軽く美奈子をあしらっていたつもりであったが、その実は自分こそが美奈子の手のひらの上で転がされ、上から見下ろされていたようだ。それに腹立つわけでもない。年上の女の懐の深さに感心、感服する。また、より深い繋がりを期待できないと知りながら、これを享受している彼女に、いとおしくもなる。
「そうなると、二人はどうなるんだろうね。どうなるのが自然なんだろうね」
こう滋が声に出したのに合わせて、皆して花子と里山を見つめると、さすがに二人も興から覚めて項垂れる。花子とて、これ以上の繋がりを持てないことは覚悟していたが、それでも一度盛り上がった恋慕は、その覚悟をも揺るがそうとする。
「それはあれよ、花子さんが満足いく形になれば、彼女を『縛って』いたものもなくなって成仏するんじゃないかしら。でも、それもちょっと皮肉よね。花子さんの、ううん、女の望みなんて好きな男と一緒になることなんだから、でもそれが叶うとすぐ成仏なんて、願い叶ったが為にずっと離れ離れになるってことよね。だったら、いっそ叶わないほうがいいのかしら?」
美奈子は何気なく他人事のように言うが、あまりにも的確すぎて滋は何も言い足せない。花子と里山の顔にも不安が浮かぶ。
「それも、花子さんたちに直接選んでもらうのが一番いいと思うわ。幸せの形なんて人それぞれだし、人に選んでもらって後で不満を抱くなんて、それこそ成仏できないもの」
弥生が付け足すと、さて桐生は、
「お前らも酷だねぇ。そうすぐに答えを求めなくても… 再会したばかりだっていうのに…」
それもまた一理ある。
「何を言っているのよ、こういうのは早いほうがいいに決まっているじゃない。本当は成仏するとか、しないとか、この際関係ないんだから。彼女の望みが叶うか、叶わないか。女を一瞬であれ、男が幸せにしてやれるかどうかなんだから」
「いつになく色恋で舌が回っているけど、何を根拠に言っているんだよ」
桐生の呆れ顔も甚だしいが、弥生も負けない。
「そんなもの、女だからよ。その言い草だと、女の子のこと真剣に考えたことがないんじゃないの?」
小憎たらしいが、桐生はそれ以上言い返さない。女の心情など、彼には幽霊以上に苦手な分野である。
言うことが出尽くしたところで四人は再び揃って里山と花子を見る。そのうち四人とも里山だけを睨む。結局は二人が決めることなら外野は二人に委ねるほかない、特にこういった場合は男がどうにかせねばならない、と。里山はしかし、甲斐性のない男でもない。誠実と優しさが取り得だけあって、
「神山さん、俺の気持ちを、改めてはっきりと言うよ」
滋は思う。いけない、人の色恋には何故だか興味津々、興奮してしまうと。
続きます




