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トンネルを一人調べる滋(後編)

 暗闇の中、こう訊ねる女、いや女の子の顔がすぐ滋の目の前にある。驚くことも忘れて、瞬きを繰り返す。見るところ、彼女は七、八歳くらい。髪をポニーテールに結って、大きな目をした可愛い娘である。ただ、どうやら普通の人ではない。何度目を凝らしても、何だかその顔が透けて見える。顔だけではない、着衣するスカートにブラウス、そこから伸びた手足、全身全てが透けて見える。噂の幽霊がついに出現したのである。


「何と言われましても…」


 恐怖も度が過ぎたか、それとも相手は子供と見くびってか、悲鳴を上げることも、逃げ出すこともせずに、滋はそう言ってはにかむ。


「あら、あなた、私を目にして平然としているわね。こんな人は初めてね」


「いや、平然としているわけでもなくて…」


「たいていは私の声を聞くだけで逃げ出すのにね。それを堪えても、私の姿を見たら絶対に奇声を上げて逃げているわ。もしくは気絶ね。その場で倒れて朝まで寝んね。そうなると運び出すのが大変なのよね」


 少女の形をした幽霊の口にするところはまるで愚痴。さも世間話のように話しかけられると、ふと滋の心も和む。改めてその彼女を見てみれば、嫌がっていた桐生の話とも随分と違って愛嬌に溢れている。幽霊も十人十色と言うことか。試しにその透けた体に腕を伸ばしてみると、彼女の胸を貫通してしまう。切っても殴っても無駄というのは確かなようで、


「あ、ほんとだ」


 などと感心。ところが、


「何すんのよ、エッチ!」


 と、彼女は平手を振って滋の頬を引っ叩く。バチンと乾いた音までして、ジンジンと痛みもする。


「あ痛っ! え? でもなんで…」


 自分の手は透けたのに相手の攻撃は食らう、こんな不公平もない。


「何が、なんで、よ。人の胸を触ろうとしておいて素っ頓狂な顔をするんじゃないわよ。助平な人ね。それともそれが今どきの男の挨拶とでも言うの?」


「え、いや、そういうわけじゃないけど。えっと、とりあえず、ごめん」


「ごめんで済まされないわよ、まったく。いたいけな乙女の胸を何だと思っているのよ。痴漢よ、変態よ」


 罵声を浴びせられるたびに平謝りをする滋だが、実感もないのに触ったと咎められて、損をした気分である。


「でも、どうして? どうして僕の手は触れないのに、君の手は…」


「あ、触れないなんて失礼ね。認めていない証拠ね。ひどい男よ。これでお嫁にいけなくなったらどうするのよ。責任を取ってもらいたいわ」


 何を言っても怒ってばかりなので、試しにもう一度胸へと手を伸ばしてみるが、やはり触れれず、そしてやはり彼女の平手が飛んで頬を叩かれる。


「あんた! 責任とってもらうからね!」


 今度は半べそをかきながら訴える。幽霊少女の貞操は滋にはよくわからない。


「でも、ほんと、何で…」


「まだ言う? そんなの私にもわからないわよ。ただ叩きたいと気持ちを込めて叩いたら、本当に叩けるだけよ!」


 なるほど、幽霊は恐ろしい。桐生が嫌がる理由も何となくわかる。



続きます

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