不自然な二人(前編)
一応、UWは秘密裏に動く組織である。里山のように鋭く直感を働かせて、彼らの仕事を問うても、はいそうですと素直に答えられるものではない。組織の名称、基地の所在地、具体的な活動内容、出資者、それらを隠しながら、
「ええ、まあ、そうです。その道のプロです」
と、こう決まり文句のように言って納得してもらうのが常である。情報提供や加害者、被害者等で、組織に関わりが強くなる場合は大まかに明かすこともあるが、今回のように弥生や滋が単独で動いて、UW本部と関係のないケースでは、まずない。桐生はこういった場合、極端に畏まるわけでも、威圧的に出るわけでもなく、謙虚さを持ち、卑しからず、やや丁寧な口調で話すようにして、相手の好奇心も受け流すようにしている。里山も、「そうですか…」と受け止めて、しばらくそれらを頭の中で整理する。
「それで、神山さんは、これからどうなるんですか?」
眉根を寄せて、専門家としての意見を求めてくる。成仏するのか、成仏させるのか、生き返ることはあるのか、それともこのままずっと幽霊なのか。そう、答えを急かす。幽霊慣れしていない桐生はまあ困る。弥生にしても滋にしてもわかっていない。
「え~とですね。プロですが、それはわかりません」
これ、きっぱり。
「花子さんは、どうですか? いま、こうやって、里山さんと会えて、気持ちの確認ができて、気分はどうですか?」
滋が問うと、しばらく里山を見つめて、
「うん、気分は、すごく、いい」
と顔を赤くする。里山もずっと真っ赤なままである。
「何なんだろうな。この初心な二人は」
桐生がぼやいても、まだまだ二人は高揚の最中。花子がいますぐ成仏するだとか、まだそういった段階ではないと見える。滋は美奈子を捉まえて、
「幽霊と人間は一緒に暮らすことはできないんですかね?」
藪から棒にそんなことを訊ねる。
「あら、それは私に対する告白ととっていいのかしら。花子さんたちの雰囲気に乗っかったとはいえ、まあ、みんなの前で、いやん、大胆だわ」
「いえいえ、そういう話ではなくて。いえ、それに近い話なんですけど、花子さんたち、もし花子さんが成仏できないようなら、二人上手く暮らせる方法はないものかと思って…」
美奈子は眉根を寄せて、少し真剣に考える。
「どうかしらね、あまり考えたこともないけど。できないことはないと思うけど、でも、それって不自然よね」
「不自然? 好いたもの同士が一緒になれないことが不自然ですか… う~ん」
横で聞いていた弥生も、
「確かに、自然の摂理には反するわね。生産的じゃないっていうか… 上手くいえないけど、結婚できるわけじゃないものね」
すると、桐生までも、
「珍しくお前の口から色恋でまともな意見を聞いた気がするな。恋だとか愛だとか、気持ちだけならいくらでも二人寄り添うことはできるけど、生きている人間には生活があるし、子供を作ったりもするわけだ。実際に体を寄せ合い、重ね合いができてナンボなんだよ。それができない以上は、やはり不自然だな」




