頷けば恋の告白(前編)
「神山さん… 体が、透けて… いったい、どうなって…」
久しぶりの再会、そしてこれまで鬱積していた互いの想いが少しずつ解き放たれ、その端を絡ませ互いを理解しかけた矢先の、里山にしてみれば奇々怪々なこの出来事は、それまで二人だけの至福の時間をあっさりと遠くに追いやって、触れてはならないものに触れてしまった罪悪や、逆に自分が幻を見せられ、騙されているような嫌悪を覚えてしまう。里山の心も動揺する。が、それも少しの間。絡まった心と心は疑心をすぐに払拭する。一瞬であれ、幽霊である花子の涙に触れられたことは奇跡に近い出来事。彼らには、たとえ能力者でもできないような二人だけの繋がりをすでに持っているのである。
「あの、信じられないと思うけど… あの、私、幽霊… なんです」
「それは、つまり… 死んで、しまっているって、そういう、こと?」
花子は真っ直ぐ里山のことを見ずに、恥ずかしそうに笑って小さく頷く。死んでしまって、今後里山と結ばれることはないと承知しながら、それでも不思議とそれを悔やむようなことはもうない。諦めがついたのか、それとも心と心とが絡み合って、相手の気持ちに触れられたことに満足したのか、むしろ今の自分が幽霊であると知ってもらえて嬉しくすらある。里山も里山で、彼女が死んでしまっている事実にも、幽霊であることにも一切怯えない。
「こんな私に会って、がっかりしましたか?」
「がっかりするなんて、そんなことはないよ。そんな姿になってでも、俺に会いに来てくれたんだって、そう思うと、そのことに、むしろ嬉しく思うくらいだよ」
彼はつくづく優しい男である。
「ハハハ… 私、何で死んだんだろうね…」
「うん… それに至ったいきさつを、少し聞きたいかな」
仕事を辞め、次が見つからなくなって死んでしまった流れを、淡々と、その事実だけを花子は話す。里山への恋慕が原因であるとは言わない。言わなくとも、相手もそれを読み取れ、感じ取れる。
「こういう聞き方は、男としてよくないことかもしれないけれど、神山さん、仕事を辞めてしまった理由、それは、やっぱり俺にあるの? 俺のことが好きで… その…」