里山の祈り(前編)
会わせるための方法ばかりで、肝心の目的をおろそかにして、まとまりなければ花子も混乱する。彼女の意図するところの確認も済んでおらず、結局その車内で弥生、美奈子、滋、どの思惑を選ぶか迫られ、しかし花子自身も彼と再会する、ただそのことのみに舞い上がって、会って何をするということまで考えていなかったものだから、突然そう言われても選びきれない。弥生の意見は恥ずかしい上に、フラれた時のことを考えるとなかなか勇気も出せない。美奈子の意見だと一歩下がった格好のいい女のように見えても自分にそういった気位があると自信も持てない。滋の意見だと、それはそれで酷である。どれもが嫌で、嫌でありながら自分が幽霊になった理由を知るにはどれもが正解だともわかっている。花子が返答に困っていると、彼女をよそに、滋たち三人が自分たちの意見の正当性を訴え合う。三つを弁証法で融合させて別のよりよい意見を出せばよいのに、ついこの間までは敬語ばかりであった滋もが仲が良くなって物言いやすくなったせいで、揃いも揃って強情を張って水掛け論を展開し、尚まとまりがない。どんなに計画を練ったところで皆に納得されず、浸透しなければ集団としての力は微々たるものに終わってしまう。三人力を出し合った結果が能力半減、それ以下となるなら初めから組まなければよい。こういう場合は話をまとめ、行動の決定権を持つ絶対的なリーダーの存在が必要である。その役はまさに自分と、言葉にしないが秘かに自負するのが桐生で。ところが彼とて、では三人の意見の中から最良のものを選ぶことも、それ以外のスペシャルな案を捻出することも、彼の恋愛の経験値からではまた難しい話。自負とやらも根拠がなければただの自惚れ。滋たちと何ら変わりはないが、それでも自信だけは無駄にあるから、
「とにかく、まとめるぞ。埒があかない」
と、見切り発車。弥生たちも桐生の力量を過少に見ているから従いもせず、
「ほう、それじゃ、あんた、花子さんが取るべき道を示せるというの? それを選択した彼女の、その後の責任も取れるって言うの?」
と、大袈裟なことを言って出方を試す。勿論、そんなもの、あるわけもない。
「とにかく! 世間話から始めればいいじゃないか。少しずつ探りを入れて、相手の出方にも合わせて、見極めながら臨機応変にその場で選べばいいじゃないか」
苦し紛れで出したものが、皮肉にももっとも合理的とくる。
そうこうとしているうちにN市に到着する。里山守が会合している町の集会所の近くに車を停める。時刻は夜の七時を過ぎて、辺りは薄闇。風が吹けば田や畑の青い香を運んで、耳にするものも蛙の合唱ばかり。無理に耳を欹てると、集会所より笑い声を聞く。停車した車内で待つこと十五分、彼らの作戦がまとまったようでまとまらない内に、
「あ、出てきた!」
会合が終わったようで集会所から続々と男が出てくる。年取ったもの、若いもの、背の高いもの、低いもの、様々だが皆一様に日に焼けた顔をしている。二十人ばかり出て行った後、最後に写真で見た里山と、彼と同じ年頃の、友人らしき男性が出てくる。集会所の明かりが消える。男たちはそれぞれ自分の家に帰るのか散り散りとなる。酒を飲んだ様子もない。里山ともう一人の男性は一緒に歩き出す。弥生の調べではその道の先に里山の家があるが、二人なかなか別れる気配を見せない。そのまま彼の家で二人酒を飲み交すとも考えられる。車内の一同は全員車から飛び出して、忍び足で二人の後をつけていく。途中、畦道の脇のお地蔵様の前で、里山は立ち止まって合掌し、目を閉じて祈り始める。
「おお、またか。真面目な奴だ。前から思っていたんだけど、毎日、毎回、地蔵さんに手を合わせて、お前は一体何をお願いしているんだ?」




