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移動中にもつい禍々しい妖気(後編)

「ちょ… ちょっと、花子さん! 落ち着いて!」


「滋君、何? これ、どうなってんの! また豹変?!」


「僕にもわかりませんよ! だから花子さん、落ち着いて!」


「そうよ! 落ち着いて!」


「おや? そろそろ俺の得物の出番か?」


「あんたは黙っとく! 車止めるまで前向いてなさいよ!」


「滋さん! 花子さんの手に触れてあげて! 触れるとわかる! 彼女、もの凄く怖がってる!」


「え? 触れる? 触れればいいんですね!」


 身を乗り出して滋の膝の上を跨ぎながら幽霊の美奈子は花子の両手を握っている。滋もそれに倣って透ける花子の肩に手を添える。霊体に触れるだけで、「怖い」との叫びが頭の中に直接響く。「絶対に駄目だ」「私は救われていない」「不幸は永遠に続く」世を果敢無む念の数々が続々と脳に木霊する。このまま触れ続ければ自分こそが滅入って気を失ってしまいそうになる。


「滋さん! それでも触れてあげて!」


「でも!」


「大丈夫… 大丈夫… 花子さん、あなたはすでに許されてる。だから、大丈夫!」


 その美奈子の一念が通じたか、次第と花子の背中の妖気も萎んでいく。ついには消失して難は去る。


 滋も助手席の弥生も安堵して疲れた顔をする。活躍の場を失って残念と舌打ちをする桐生をとりあえず弥生は一発殴る。


「それにしても、さすが幽霊同士、鎮め方を知っていたんですね」


「え? いや、私も必死で。考えあってじゃなかったのよね。ただそうした方がいいと思ったから咄嗟にそうしただけで…」


 美奈子は微笑むが力ない。幽霊にも精神の疲弊がある。


「ごめんなさい、私、緊張しすぎて… 頭の中がもうぐちゃぐちゃになっちゃって… 恥ずかしい…」


 花子も我に立ち戻っている。これに一等に共感するのは弥生で、


「わかるわ、私だって意中の男に改まってこれから会いにいくなんてことになったら何をどうすればいいかわからなくなるわよ。みんなそんなものよ」


「あれ? 弥生さん、誰か好きな人がいるんですか?」


「男は黙っとく!」


 黙れと言われても黙らない男は桐生で、


「それで、これから意中の男の人に会って、花子さんはどうする予定なんだ?」


 車内は一瞬静まり返る。


「そりゃ、愛の告白をするに決まっているじゃないの」と、弥生。


「あれ? 気持ちは伝えるけど、でも遠くで見守っているって、そう言いに行くんじゃないの?」と、美奈子。


「え? 僕はてっきり、さよならを言いに行くんだと思っていたけど…」と、滋。


 弥生も美奈子も滋も、当の花子を置いて、それぞれに思惑が違う。


 この場においては桐生が思う。駄目だな、こいつらは、と。



続きます

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