移動中にもつい禍々しい妖気(前編)
夕方六時を回る前に花子の公園へ一旦全員集合して、そこから桐生の車に乗り込み、N市に向かう。新調したその車、数週間前の魔法使いキットの件でペシャンコにされたモノと同じ車種である。よほど好きとわかるが、国産といえ日産の34Rは値の張るスポーツカー。運転する人には楽しくても、慣れない者には酔いそうだ。後部座席が狭く、UWの序列からか滋が幽霊二人と後ろに座らされる。左手の花子は、これから会いに行く、恋した相手を考えてブルブルと震えている。右手には滋と狭い席で隣に座れて嬉し恥ずかしで興奮気味の美奈子が、ちらちら滋を目にして、視線が合う度に「いやん」と逸らしてまたチラチラの繰り返し。忙しない。
「あの、これから会いに行く、その花子さんが好きだったっていう男性の名前は何ていうんですか?」
「里山守っていう名前よ。そうだよね、花子さん?」
「うん、そう… でも、ごめん、その名前を耳にするだけで胸が締め付けられるわ」
「それで、その人にはもうアポはとってあるんですか?」
「いえ、とってないわよ」
「いきあたりばったりという予定ですか? もし外出していていなかったら、どうするんですか?」
「大丈夫よ。今日は夕方から近くの人たちと会合を開いているはずだから。その辺りは調べてあるわよ。終わり次第捉まえて、花子さんと引き合わせればいいのよ」
「会合って… お酒飲んでいるんじゃないんですか?」
「え? そういうものなの? げっ、酔っ払っていたらどうしよう。でも、まあ、いいわ。とりあえず、いきなり花子さんがその人の前に現れるっていうシチュエーションが一番手っ取り早くて、一番わかりやすいと思うんだけど。どう?」
「どう、と僕に言われても… それは花子さん次第なんじゃ…」
と、車内八つの目が一斉に花子を見つめる。この時の花子の心情を開いて見ると、大半が「覚悟」で埋まっている。彼との再会があらゆる鬱積を晴らし、過去の自分と決別し、新たな自分を歩むことができるなら、それに伴う傷心も覚悟しなければならない、といった具合だ。
「いえ、やります。私が… 私が直接に一番に会いに行きます。私が呼び出して、彼と話をします。こんな姿になって、どんな反応されるか、正直怖いけれど、もしかしたら私が会いに行くなんてお門違いの勘違いかもしれないけど、でも…」
決意をする花子は、しかしますます震えだす。
「寒いの?」
美奈子が問うても、花子は何も答えられず、凛然たるその身に、今にも卒倒しそうな顔をしている。見れば、いつの間にかその背中にも禍々しい妖気が湧いている。まさかの事態に車内は騒然とする。




