トンネルを一人調べる滋(前編)
調べるといっても何をどう調べればいいのやら、その手順も方法も、UWに入隊して日も浅い滋にはわからない。上司が新人に何も教えず現場に放り出すのは無責任と胸の内で繰り返しながら、しかし、それでも与えられた仕事をすぐに放り出して逃げ出そうとも思わない。これは彼の元来の性格ゆえである。UWに入って尚いっそう責任感に目覚めてもいる。なかなか代わりがいないこの業界においては、そういった職務に対する自分の存在意義を自覚する才能は必須で、精神が強くなければ務まることはなく、そもそも強くなければ人間離れした才能を開花させることもない。見た目か弱い彼も、実際に幽霊は恐ろしく思って度胸もないけれど、芯の部分は外見からでは推し量れないほど太いものがある。
とりあえず現地に向かえば何かしら次の行動も自然と思いつくだろうと、足を町の外れのそのトンネルへと向かわせる。まだ日が暮れる前に到着して、そのときになってこういったものは大方夜に出現するものだと気付く。そうかといって夜まで待つ気にはなれない。夜になっていっそう恐ろしくなって、いよいよ恐怖に負けて二の足を踏むくらいなら、出現しようがしまいが、たいした調査ができようができまいが、明るいうちに一応は調べたという形だけ残してさっさと退散したいとの奸知も働く。いや、できればそんな噂は所詮噂として終わってくれないかと願うところ。
こう小心をぶら下げて入り口へと近づいていく。近くに大きな車用のトンネルが開通してから、お役御免となって久しい噂のそれは石造りで古く、さほど長いトンネルでもない。高くもなく、幅も車が二台通れるか通れないかの程である。眺めると向こう出口の景色も見える。ただ、不思議なことに向こう出口の明かりが見えながらトンネルの中ほどが真っ暗闇である。本当に幽霊がいるような、いないような。しばらく直立不動のままその中ほどの闇を眺めていると、「何かがいる」との勘が強くなる。恐る恐る一歩ずつトンネルへと入っていく。中はひんやりとして、ときおり天井から水が滴る音がする。その度に即退散の言葉が頭を過ぎる。中ほどに着くと携帯電話の照明灯を天井、壁、地面と忙しなく照らす。これといって何もいない。幽霊は勿論、それと連想できる物もない。せいぜい誰かがこの場で飲み食いして捨てたゴミくらいしか落ちていない。
「う~ん、なるほど」
ふと独り言が口を出る。すると、
「何がなるほどなの?」
突然話しかける女の声が背後よりある。滋の肝は瞬間的に冷やされて身も固くなる。心臓も激しく鼓動する。いや何、別の件の幽霊調査に行くといっていた弥生が、実は騙して自分を脅かしに来たのだと考える。はたまた、このトンネルの管理人が近くに住んでいて、その人が… と考える。だが、どちらも気休めにもならない。最後は開き直って気のせいだとする。無理に気を軽くしてひとまず振り返ると、
「ねぇ、だからそれは、何よ」