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調べ物をしている所に桐生(前編)

 滋は昼のうちに大学の図書館にて過去の新聞を読み漁る。美奈子が塒にするトンネルに纏わる記事を求め、特に彼女が亡くなった二十年前を中心に目を通す。数時間要して地方新聞から一つ。


『九歳の女児、トンネル内で車に撥ねられる』


 との記事を見つける。それによると、その際、心中を図った父親が一人生き残っている。借金を抱えた上に失業してしまっていたらしい。その女児がまだ五歳のときに妻とは離婚。父娘二人で必死に生きてきたが、行き詰った結果、心中を図ったようである。例のトンネルの手前、車中にてまず娘の首を絞め、激しい抵抗の末、逃げられて、走って逃げた先がトンネルの中。そこで通行中の車と衝突したらしい。女児の名前は「高橋美奈子」。九歳とある。


 おそらく間違いはない。父親に首を絞められたときの彼女の恐怖と絶望と悲しみを思うと、滋は悲痛に息が苦しくなる。ふと目尻に涙もたまる。無理心中をはかった彼女の父親が恨めしい。インターネットでも調べてみると、その父親、警察で事情聴取を受けた後、精神病院で改めて自殺しているようだった。


 これもまたネットで調べた事だが、例のトンネルは美奈子が死ぬ以前から幽霊が出現すると地元では有名であったとか。証言の大半は、地底より響くようなおぞましい声が聞こえるとの類で、美奈子が亡くなった頃からぱたりと消え、取って代わって女の子の幽霊の噂が始まる。


 それら記事やネットでの噂を総じて、しかし滋には美奈子を「縛る」要因を特定できない。父親に対する恨み、一切を信じられないこの世に対する怒り、平和に生きている人間全てへの妬み… あれこれ推測しても、美奈子の愛嬌を思い出すと、どれも否定される。


「よお、何を調べているんだ?」


 没頭する滋の背後に桐生が現れる。


「いや、僕が調べていた幽霊の女の子についてなんだけど… どうして幽霊になったんだろうかと思って、その過去をちょっと…」


「ふ~ん、仕事熱心だね。報告できるようなことがあるなら教えてくれよ」


「いや、まだ推測の域を出ない話だから。もっと詳しくわかったときにでもそうするよ。ところで、一昨日は用事だって言っていたけど、あの日は基地で何をしていたの?」


 桐生が答えるより前に滋は彼が担いでいる風呂敷包みに目が留まる。黄色の生地に紫で枠を取って柄のないそれは、お洒落の一つにしては随分古い。全体煤けて、所々穴や破れも目に付く。


「おう、これだよ、これ。これを用意してもらうために基地に寄っていたんだよ」


「それは、何?」


 よくぞ聞いてくれたと桐生は顔を綻ばせて、


「対幽霊の秘密兵器。一昨日の夜から試しに作っていてね、昨日一応できたんだよ」


「作って? 対幽霊? 何か怪しい雰囲気がするんだけど…」


「いや、何、俺の得物を幽霊も切れるようにコーティングするだけだよ。その為の一式。呪いだとか猛獣だとか、そんな危ないものじゃないから平気だよ」


 滋はしかし、まさか美奈子や花子を一刀両断するつもりではと疑って、


「駄目だよ! そんなことしたら!」


 珍しく声を荒げて喧しく怒鳴っている。


「え? 何を?」



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