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勿体無い恋(後編)

「この方、今はN市の田舎のほうに住んでいるの。ちなみに、調べたんだけど、結婚はしてなかったわよ」


 その一言に花子も振り返って瞳を震わせながら弥生を見つめる。何も言えぬ彼女に代わって滋が、


「それは確かなんですか?」


「確かよ。間違いないわ。じゃあ、恋人はって話だけど、一日調べただけじゃ断言はできないけど、私の勘では女の影があるようにも見えなかったわね。近所の人の話でも最近見合いの話も蹴ったとか。毎日お地蔵さんに手を合わせて深くお祈りするくらい真面目で誠実な人らしいんだけど、恋愛関係だと奥手なのかもしれないわね。それでいて拘りもあったりして」


 一同一斉に花子を見つめる。滋は哀れんだ目で、弥生は不思議そうな目で、美奈子は訝しげな目をして、どれにしたってその意は揃って「勿体無い」。


「もしその人が本当に花子さんのことが好きだったなら、まだ、その気持ちが続いているとか…? その人は、花子さんが死んでしまったってこと、知っているんですか?」と滋が聞くと、


「いや、そこまでは調べてないけど… 実際のところ、どう、なの?」


 また首を揃えて三人は花子へと向く。当の彼女は上の空。結婚していなかった事実に嬉しいのか、それともそれと知らずに自殺してしまった自分に悲しいのか、星空を見上げながら涙を流している。


「おそらく、相手の男の人も花子さんが死んだこと、まだ知らないんじゃないんですか?」


「冷静に考えてそうよね。男の人が会社を辞めてからもう一年近く経っているっていう話だし。その後、その男の人とは音信不通だったんでしょ。花子さんが亡くなったのも一ヶ月前だし。でも、もし気持ちが続いているとしたら、そうなると離れ離れになって一年以上もまだ心に想っていたってこと? そんなことってあり得るのかしら?」


 聞かれた美奈子も滋も恋愛経験が浅いので見当もつかない。


「弥生さんはどう思います? できます?」


 が、こちらはこちらで私見は話さない。


「とにかく、花子さんと会わせる作戦も、大雑把だけど考えたから。実行は昨日言ったとおり明日よ。場所もその人の家の近くの神社よ。呼び出す係は私と滋君。時間は夜の七時過ぎ。わかった?」


「本当に大雑把ですね。会わせてどうするとかっていう具体的なことが何もないような…」


「それはこれからあんたも考えるのよ。美奈子さんも来るんでしょ?」


 無論である。むしろ、すでにワクワクしている。


 ここで滋の携帯電話に桐生から連絡がある。昨夜メールで報告したとおり皆で公園に集合していることや、明日の予定も話すと、


「へぇ、それなら明日は俺も参加しようかな」


 幽霊嫌いな彼の口が意外なことを申し出る。滋も弥生もその心境の変化に怪訝な顔付きをする。隊長であるから断る理由もないが、さて滋は思う。いや、弥生も思う。あの男の恋の経験値など高が知れている、途中から参加して何かの役に立つ訳でもない、むしろちょっと面倒くさい、と。



続きます

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