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勿体無い恋(前編)

 花子の様子から、今後、嫉妬や逆恨みでこの公園にて生きた人間、特に男女のカップルを脅かすような真似はしないであろうと判断して、本日の仕事はこれにて終了とする。明日以降、弥生と滋は花子の恋の相手を調べて探し出し、花子との再会を準備することにする。幽霊二人はそれぞれの塒で待機となる。花子はこの公園で、美奈子はあのトンネルで、となるが、美奈子は待つ間の退屈を嫌って、毎晩この公園に足を運ぶという。滋にも活動の途中経過の報告を兼ねて決まった時間にこの公園へと来るよう提案する。


「私をダシに使ってデートするつもりでしょ」と花子が言う。


「おほほ、そんな気はございませんことよ」


「…わかりやすいわね」


「わかりました、報告しにきます。これから毎日夜の八時から一時間、ここでミーティングとしましょう」と滋が言えば、


「あんたも仕事熱心ね。でも、相手のことを調べるだけなら多分明日一日で済むわよ。お膳立てを考えても、おそらく明後日には実行よ」と弥生が言う。


「え? 明後日? そんな、まだ心の準備ができていないって言うのに… せめて一週間後とかにならない?」


「一週間あると嬉しいわね。でも、花子さん、それは結構長いわよ。心の準備どころか悶々として居ても立っても居られなくなるんじゃないかしら。これは私の経験からくる話だけど、私たち幽霊はあまり胸に色々と溜め込んじゃいけないのよね。できるかぎり早く行動するほうがいいと思うわよ」


 花子は不安な顔をして何かブツブツと独り言を繰り返して、結局明後日と腹を括る。美奈子が幽霊でありながら陰気な感じがしない理由も彼女の言葉のとおりであろうが、しかしこうも垢の抜けた、この世に執着もなさそうな彼女が幽霊を二十年もし続けている理由を思うと、やはり不可解である。ヴァイスの言うところの「縛り」が美奈子からは感じ取れない。ヴァイスの言うことが絶対とは限らないが、それを前提に考察すると、美奈子にも彼女を「縛る」何かしらの要因があるはずで、暇を見て調べる価値はあると、滋は一人思う。


 調査を実際に行うのは弥生一人とし、滋は伝言係と決めて、その日はようやく解散となる。桐生にはメールで過程と予定を報告して、本日合流することを取りやめる。それぞれに帰路に着く。滋は途中まで美奈子を送る。分岐で別れた際にすぐ振り返ると、彼女の姿は夜に紛れてすでに見えなかった。


 後日、昼のうちに弥生は花子が惚れていたという男性の所在を突き止める。実際に足を運んで顔を拝見して、こっそりと写真に収めて持ち帰る。その夜、集合場所に弥生も足を運んで皆に報告をする。撮った写真を花子に確認させると、間違いない。彼女は途端に涙目になる。写真といえ、見ているのも辛いとすぐにつき返すものを、どれどれと美奈子と滋が見てみると、麦藁帽子を被った色黒の男が歯を見せて笑って写っている。


「あら、爽やかな人ねぇ」


「優しそうな人ですね」


 顔の良し悪しは恋をする人の眼に委ねるとして(そうかといって悪い顔ではない。むしろ良い方で)、その性分の方を推測すると、なるほど、花子が好きになるのも頷ける。印象どおりの好青年であるなら、恋敵も多いはず。花子の気弱が彼の恋慕を断ったというなら勿体無い話である。



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