対幽霊に答えはない?(後編)
滋から改めて桐生へと電話を掛けて用件を述べると、ところが教えてもらえない。他言しないのが二人の約束だそうだ。別案として桐生の方からヴァイスに確認の電話を入れてみるという。一度切られて五分ほど待つ。再度掛かってきたその話によれば、滋と弥生の番号を教えたので、向こうから掛かってくるとのこと。まだその通話も途中で、早速弥生の携帯電話に見知らぬ番号から着信がある。
「ちょっと、あんた出てよ」
弥生は出ずに滋に電話をよこす。おかしな態度で。桐生からの電話を切って、いざ弥生の電話に出ようとすると、さて滋の胸も落ち着かなくなる。ヴァイスという人間は話しやすそうで、どこか話しにくい。
「あの、弥生さんの携帯電話ですが…」
「あれ? その声は佐久間滋。う~ん。やはり弥生ちゃんは出てくれなかったか。そいつは残念。それで、聞きたいことがあると聞いているんだけど…」
「え? あ、はい。用件が早いですね。あの幽霊についてなんですけど…」
「幽霊? それはまた面倒な相手だね。攻め込まれているの?」
「いえ、逆です。仲良くなっちゃってます… これから何をどうすればいいのか、幽霊は成仏させることが全てなのか、そんなことが一切わからなくて。あの、本当に突然で、自分が何を言っているかわからないと思いますけど、何かアドバイスをいただけないかと思いまして…」
「佐久間滋、何だかとても畏まっているね。俺、一応、昔、桐生誠司と同級生をやっていたこともあるんだけどね。意外と礼儀正しいんだね、感心するよ」
「え? そうなんですか?」
「まあ、それはいいとして、幽霊だよね。死後の世界は、実は自分にもよくわからなくてね。まだ死んだこともないので。だから幽霊の意味とか存在意義とかも俺としてもわからないというのが返事かな。ただ、幽霊が幽霊になった理由には必ず何かしらの『縛り』のようなものがあるので、幽霊に対して次に何をすればいいのかわからなくなったら、その幽霊が幽霊になった原因を調べてみるといいと思うよ。俺ならそうしているかな」
「理由ですか… 大体予想はついているんですけど」
「そうなんだ、優秀だね。ならその原因となる場に幽霊を連れて行ってみては? 仮に原因が人物なら会わせてみては? 何か、次へ向かうヒントが見えるかもしれないよ」
「ヒント、ですか…」
「うん、そうだね、ヒントだね。基本的にこの業界に答えはないからね。共に生かすというのは難しいから。UWの方針も、その根本は共存のはずだし。常に交渉。戦闘も交渉手段の一つに過ぎないしね。まあ何にせよ、とりあえず動いてみては? 頭の中よりかは見解が広がると思うよ」
「確かにそうですね。とりあえずわかるところからアクションを起こしてみます。どうも色々とありがとうございます。参考になりました。ほんと、突然のことで、忙しいところすみませんでした」
「問題ないです。それじゃあね」
通話終了。
「それで、何て言ってたの?」
ヴァイスの助言を説明すると弥生も合点がいく。美奈子にも伝言して、さっそく女二人で花子をその好きだった人へと会わせる計画を練り始める。滋はしばし蚊帳の外。一案が出来上がると花子本人に確認をしている。
「いや、それは無理無理。そんな、いまさら会ってどうしろっていうの? こんな姿で会えないわよ。それに噂じゃもう結婚するとか、したとか、そういう話なんだから、今更私が会いに行ったって…」
「でも何か動かないと。行動よ、行動あるのみよ。とりあえず直接会わないまでも少し離れたところから窺い見るっていうのも一つのアクションよ」
「でも…」
それにしても、いつの間にこの女三人はこうも親しくなったのか。男にはまだまだ理解できない女の連帯感を前に滋は思う。そんな三人が、でもちょっとばかし羨ましい、と。
続きます




