成仏した方がいい?(後編)
意味深に聞く。不覚にも意表を突かれて返事に窮する。この件に関わり始めた頃を言えば、UWの仕事上、成仏させて任務完了と思い込んでいたことは間違いない。が、美奈子と話して、また花子と関わった今となっては、成仏してくださいと、簡単に口にできなくなっている。そんな薄情は彼の良心に反する。といって、いえこの世にいてくださいと、気安く言えもしない。薄情と等しく無責任も彼の得意ではない。深く自問に浸るが、必要も不必要も結論が出ない。
「どうなんですかね、世の一般的な考え方からすると幽霊本人も成仏したがっているものだと思っていましたけど、どうやらそうではないようですからね、何というか… ねぇ」
歯切れ悪く繋いでみたが、しかし美奈子の腹はその程度では満たされない。
「一般的な意見なんてこの際どうでもいいのよ。滋さん自身が私にこの世にいてほしいか、それとも成仏してほしいと思っているのか、重要なのはそこよ」
と、たしなめられて、さて困る。まるで交際を迫られ、それに答えを出せずに責められる甲斐性なしの男のような心境である。この場合は何に義理を働かせて答えるべきなのか滋は真剣に考える。今日知り合った新しき出会いにか、それとも悩みを聞いたことにか、それとも美奈子が十中八九期待しているであろう芽生え抱いてしまった恋心に対してか。考え悩み、しかし、はじめから恋心にと決着付いていれば、適当な屁理屈を頭の中で捏ね繰り回すことに終始する。
「いや、それはいてほしいと思いますよ、僕としても。せっかく仲良くなれたわけですから、成仏してもう二度と会えないなんて、それはやっぱり寂しいですよ」
「あら、嬉しい。さすが滋さん、わかっていらっしゃる。ということで、私はいますぐ成仏したいとは思わないことになったわよ。どう? そんなものよ」
結局は彼が負け。
「それにしても、成仏って、そもそも何なのかしら? 天国に行くってこと? 美奈子さんの魂というか、美奈子さん自身がそこで暮らすってこと? それとも完全に消滅して無になるってことなのかな?」
と、弥生の疑問。美奈子も小首を捻る。
「ほんと、それはどうなんだろう? やっぱり消えてなくなるのかしらね。もし天国なんてところがあるなら、二度と会えないとは言えないわね。そこで待っているっていうのも一つの手ね。うふ、それとも連れて行くっていうことも… あら、いけない、私ったら、よこしまね。うふふ」
冗談にしたって性質が悪い。いや、半分は本音に違いないから恐ろしい。滋は思う。しかし、それは彼女が幽霊だからという理由によるものではない、彼女が「女」だからだ、と。
続きます




