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成仏した方がいい?(前編)

 花子が怒髪天と再び豹変するのを覚悟する滋であったが、これといって彼女の怒りに火はつかず、燻ることもなく、むしろ彼の言葉を噛み締めてしょんぼりと消沈する。


「あんた、たまに鋭いことを言うわね」


 弥生に感心されても、滋は花子の心境が気になって半端な笑みを見せるのみ。彼まで沈んだように見えるので、勘の鋭い弥生は、人を責めた所謂責任感と見抜くが、美奈子などは移り気と心配をする。


「花子さん、どうして黙っているの?」


 こう訊ねるのもまた美奈子で。


「私… どんなに忘れようとしても忘れられない… こんな身になっても… ううん、こんな姿になって余計に忘れられない。本当は、誰かに忘れさせて欲しかった。私の手では、たとえ自分の命を絶っても、それは無理だった… 確かに彼の言うとおりね。あの人のことを忘れることができていたら、この今の私なんて、もともと存在しなかったはずよ」


 本人が言えば胸に重い。滋も真顔で、


「何か、忘れる方法を探さないといけないですよね。そうでなくっちゃ、花子さんはずっと幽霊のままだし… 忘れようと思って忘れられないのって、やっぱり幸せとは言えないわけですし…」


 花子は俯いて特に返事もできない。間が生まれて、そこに弥生が口を挟む。


「でも、忘れなければならない恋心っていうのも酷な話ね。あのときできなかった告白がもしできていたら、全て上手くいってハッピーエンド。それこそ幸せ、なのよね」


「タラレバを言っても、時間は戻りませんよ」


「確かにそうなんだけどねぇ、忘れてしまって成仏というのも、何だか本当にそれでいいのかと思ってみたりするのよね。やっぱり、ハッピーエンドの幕切れが一番いいと思うのよ。そう思うわない?」


「それは、確かにそうなんですけど… それで未練が残って成仏できなければ元も子もないですからね」


「そこなのよ。私、今回、こうして幽霊の仕事をまともにしてみて思ったことなんだけど、成仏させることが、その魂が、空か天国かどこに行くかわからないけど、この世から消えてしまうことが、本当に幽霊にとっていいことなのかな? そりゃ、死んだ人が然るべきところへ向かわずに、この世に残っていること自体が間違いだっていう考え方が一般的だってこともわかっているわよ。でも、そうなると、ねぇ」


 と、美奈子を見る。二十年間も幽霊をやっている美奈子は、この幽霊への一般的な考え方からすれば、その存在からして不幸ということになる。ところが美奈子は明るい。鬱積した恨みやつらみもない。となれば幽霊の定義だとか、その幸だとか不幸だとかも、生きている人間が勝手に決めていることに過ぎないのかも知れない。滋もまた美奈子を見る。


「美奈子さん、ちょっと聞きたいんですけど… 唐突だから、アレなんですが…」


「え? 何々? え? まさか、アレって、告白とか… え? いやん、ちょっと待って、私にも心の準備が必要よ」


「いえいえ。美奈子さんは、自分が成仏したいって思いますか?」


「それはまた本当に唐突ね。私が成仏? う~ん、そう改めて直球に聞かれると、どうなのかなぁ。この世に未練らしい未練はないけれど、でも成仏するってことは、この世からいなくなって、本当に死ぬっていうことなのよね。幽霊なんて存在が、この世からしてみれば不自然だってことなら成仏したほうがいいのかもしれないけど、でも、それは一体誰が決めるのかしらね?」


「ほら、そうなのよ。誰にも決められないのよ」


「逆に質問だけど、滋さん、私は成仏したほうがいい? それともこんな姿だけど、まだまだこの世に残っていたほうがいい?」



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