表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/59

嘘の恋は色々と失礼(後編)

 滋はふと美奈子のことが気になって彼女を探す。木の陰で見つけて目が合うと、美奈子は寂しそうな表情をして、たちまち俯いてその視線を地に落としてしまう。


「滋さんって、結構、モテるのね」


 芝居じみてこう言う。滋はしかし、すっかり騙されて、一男子としてこちらを放っておけなくなる。


「いや、僕はそんなにモテるわけでもなくて、偶然というか、たまたまというか、この場にいた男が僕一人だけだったからというか、それにちゃんと断ったわけで…」


 などと真面目に弁解を始める。弥生はこれ見よがしに、


「それで、どうしよう? 花子さん、泣きっぱなしで、動こうともしないんだけど。滋君の結界、いや、失恋のダメージは大きいようよ」


「失恋って… そういう方向でものを言わないでくださいよ…」


「何にせよ、慰めるならあなたしかいないと思うんだよね。何とか元気付けられない?」


「え? 僕が? 思いを断った相手に慰められるのって、女の人からして、それはアリなんですか? 男でもそれはちょっと胸に痛いですよ」


「大丈夫よ。誰が見たって、花子さんにとってあなたは本命じゃないんだから。気の迷いというか、気晴らしというか、ちょっとしたあてつけの浮気心というか、要するにその程度の人なんだから」


「それ、僕をとことん見下しているように聞こえるんだけど…」


「細かいことはいいの。とりあえず行ってきなさいよ」


 滋はしぶしぶ言うとおりにする。泣きじゃくっている花子の背後に立ってみると、確かに禍々しい妖気は消えても、その陰気は相変わらずである。


「あの、何というか、そんなに悲しまないでください。花子さん、本命の人がいるんだから、他の男に手出しをしても、ただ気持ちが勿体無いというか、何だかそんな時間が無駄になるというか… 結局、虚しくなるだけだと思いますよ。それに、本命の人に失礼というか、気持ちの整理がついて、納得の上で別の人を好きになるならわかりますけど、そうでないなら、それはやはり嘘になるし、僕というか、テキトーに愛情なんてものを向けられた人にも失礼というか、そんなことじゃ、花子さん自身の価値を下げるだけというか、とにかくあまり褒められたことじゃないと思います」


 花子は泣き止むこともできずに、滋へと向いて口惜しそうに口元を歪ませる。


「そんなの、気持ちが本気じゃないだとか、どうしてわかるって言うのよ。誰が整理ついてないなんて言った? 私が次に走りたいと思ったからそっちに向いただけよ。嘘でもなんでもないわ。私の価値が下がるなんて、あなたのほうこそ失礼なんじゃないの? 私の何がわかるっていうの?」


 無理に強がるが、しかし、


「ごめん… でも、花子さん… 花子さんがもし本当に納得していたら、もう成仏していると思うよ…」


 滋は思う。これは決して言い過ぎなんかじゃないと。



続きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ