嘘の恋は色々と失礼(後編)
滋はふと美奈子のことが気になって彼女を探す。木の陰で見つけて目が合うと、美奈子は寂しそうな表情をして、たちまち俯いてその視線を地に落としてしまう。
「滋さんって、結構、モテるのね」
芝居じみてこう言う。滋はしかし、すっかり騙されて、一男子としてこちらを放っておけなくなる。
「いや、僕はそんなにモテるわけでもなくて、偶然というか、たまたまというか、この場にいた男が僕一人だけだったからというか、それにちゃんと断ったわけで…」
などと真面目に弁解を始める。弥生はこれ見よがしに、
「それで、どうしよう? 花子さん、泣きっぱなしで、動こうともしないんだけど。滋君の結界、いや、失恋のダメージは大きいようよ」
「失恋って… そういう方向でものを言わないでくださいよ…」
「何にせよ、慰めるならあなたしかいないと思うんだよね。何とか元気付けられない?」
「え? 僕が? 思いを断った相手に慰められるのって、女の人からして、それはアリなんですか? 男でもそれはちょっと胸に痛いですよ」
「大丈夫よ。誰が見たって、花子さんにとってあなたは本命じゃないんだから。気の迷いというか、気晴らしというか、ちょっとしたあてつけの浮気心というか、要するにその程度の人なんだから」
「それ、僕をとことん見下しているように聞こえるんだけど…」
「細かいことはいいの。とりあえず行ってきなさいよ」
滋はしぶしぶ言うとおりにする。泣きじゃくっている花子の背後に立ってみると、確かに禍々しい妖気は消えても、その陰気は相変わらずである。
「あの、何というか、そんなに悲しまないでください。花子さん、本命の人がいるんだから、他の男に手出しをしても、ただ気持ちが勿体無いというか、何だかそんな時間が無駄になるというか… 結局、虚しくなるだけだと思いますよ。それに、本命の人に失礼というか、気持ちの整理がついて、納得の上で別の人を好きになるならわかりますけど、そうでないなら、それはやはり嘘になるし、僕というか、テキトーに愛情なんてものを向けられた人にも失礼というか、そんなことじゃ、花子さん自身の価値を下げるだけというか、とにかくあまり褒められたことじゃないと思います」
花子は泣き止むこともできずに、滋へと向いて口惜しそうに口元を歪ませる。
「そんなの、気持ちが本気じゃないだとか、どうしてわかるって言うのよ。誰が整理ついてないなんて言った? 私が次に走りたいと思ったからそっちに向いただけよ。嘘でもなんでもないわ。私の価値が下がるなんて、あなたのほうこそ失礼なんじゃないの? 私の何がわかるっていうの?」
無理に強がるが、しかし、
「ごめん… でも、花子さん… 花子さんがもし本当に納得していたら、もう成仏していると思うよ…」
滋は思う。これは決して言い過ぎなんかじゃないと。
続きます