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嘘の恋は色々と失礼(前編)

 禍々しい黒い妖気が花子の背後で湧き立っている。


「馬鹿にするんじゃないわよ!」


 泣いているのか怒っているのか、花子が必死の形相で滋たち目掛けて走り出すので、堪らず彼らも逃げ出してしまう。彼女が何をどうしたいのか、攻撃なのか訴えなのか、考える余裕もなければ、無論自分たちがどう対処すればいいのか冷静な判断も出来ない。ただ恐ろしいものを見た衝動に反射的に走り出して、二人散り散りになることもなく揃って駆けていた。普段なら走ることなど大苦手の滋も奇跡的に弥生に突き放されない。逃げる二人と追う一人、しばし森の中をぐるぐると回る。美奈子だけは咄嗟に木の陰に隠れて花子の追跡から逃れてしまう。隠れながら、追われるUWの隊員を、ハラハラ半分、ワクワク半分で眺めている。滋たちもまた必死の躰。が、恋する美奈子の目には、滋と一緒に逃げている弥生が羨ましく見えたのだとか。


「い… いつまで逃げればいいの?」


 いよいよ体力の限界を感じて、走りながら滋がぼやく。弥生も似たような心境。


「そうよ、仮にも私たちはUWの一員よ。その道のプロよ。そんな私たちが幽霊相手にどうして逃げなきゃいけないの!」


 と、自分に喝を入れて、急に立ち止まって振り返る。迫り来る花子を前に手から炎を生んで発射の構え。が、いざその段になると花子の迫力に圧倒されて、放出のタイミングが狂う。狂ったものは迷いも生む。利くのか、利かないのか、何より先ほどまで親身になって話を聞いていた相手を攻撃して良いものか… 破れかぶれに火球を一発放ってみれば、あさっての方に飛んでいく。


「え? え~と…」


 同じく足を止めた滋も唖然とする。その滋を置き去りにして、


「ごめん! あんた何とかして!」


 弥生は再び駆け出してしまう。


「え? え? え!」


 すっかり逃げ遅れて、「まさに悪霊」の花子が滋の眼前に迫る。


「私の愛を、受け取りなさいよ!」


 彼女は、意味のわからない叫びと共に飛び掛かろうとする。


「ごめん! 無理!」


 こちらも咄嗟に結界を放出。拒否の一念は、間一髪のところで花子を吹っ飛ばしてしまう。


「うわぁ、さすが…」


 彼の結界の凄さをその身で味わっている弥生は、きれいに体ごと弾かれて数十メートルと飛ばされた花子に同情をする。放った滋本人としてもまさかの威力。正当防衛といえ、花子に申し訳ない。地に突っ伏し、しばらく動かない彼女の背中の禍々しい妖気がさらさらと霧散していく。全て消えたところで彼女も半身を起こすと、両膝をついたまま今度はしくしくと泣き始める。


「花子さん、あんたに襲い掛かるとき、何か言っていなかった? 愛とか、何とか…」


「えっと… さあ?」


「ひっく… ひっく… フラれた…」


「ほら、何か言っているわよ」


「何かって… そんなこと言われても。突然、告白されたような形になって、それを僕がきっぱり拒否したなんてことでも、あの状況じゃ、仕方がないというか…」


「まあ、わからないでもないけど。仮に私があんたの立場でも、同じように断っていたわね」



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