その気がないのについ刺激(前編)
律儀にも、誰か花子に見合う適当な男がいないかと頭を働かせて、大学での知人を一人一人思い浮かべてみるが、どれも生身の普通の人間。幽霊の相手をさせるわけにはいかない。この業界を理解して、幽霊を目にしても驚かず、余計な場所で口外しない者などは、結局UWの隊員や職員に限られる。組織に入ってまだ日の浅い滋には、組織の知人もまた少ない。せいぜい桐生隊くらいで。隊長の桐生誠司も幽霊嫌いなら、他に顔見知りは二名の一般隊員のみ。しかし名前すら知らない。
「あの… 弥生さん、あの人たちは駄目なんですか? ほら、少し前に僕が能力に目覚めるときにお世話になった、あの一般の隊員の人たち」
「ああ、田中さんに鈴木さん?」
「そう、その二人です。その人たちならこの業界のこともわかっているし、適任じゃないですか?」
「でも、あの人たち、もう三十歳は超えているはずよ。それに二人とも結婚しているわよ。話し相手なら、まあ、わかるにしても、ねえ… もうそれを求めているようにも見えないし…」
ちらりと花子に目をくれれば、髪が逆立ち天を突いて、目を怪しく光らせながら二人を睨んでいる。努めて小声で話していたつもりも、「結婚」の二字が耳に届いたようで、
「け、結婚ですって?」
と胸で噛み砕いて癇癪を蓄えている。二人の身の毛がよだつ。
「いや、花子さん、気にしないで。『結婚』しているなんて、その人たちは呼ぶつもりはないから。どうせ別の仕事で忙しいはずだし、他の基地のサポートもしているから今日だって県外のはずよ。『結婚』している人なんて、ほんと、いろんな人を養うために遊ぶお金も時間もないんだから」
「弥生さん、『結婚』『結婚』って、そんなに連呼したら駄目じゃないですか」
花子を慰める弥生も、それを咎める滋もそれぞれ失言に気付いて慌てて口を塞ぐが、その仕草もまた火に油を注いで、花子の憎悪が膨らみ爆発寸前となる。
「そうだ、誠司よ! あいつがいるじゃない! 後で合流するとか何とか言っていたんだから、あいつを紹介してやればいいじゃない」
急にその名を口にするが、
「でも、あの誠司が簡単にOKを出すとは思えないんだけど…」
「なんで? それはやってみないとわからないじゃない。それに仮にも、うちらの隊長なのよ。隊員が困っているときこそ動いてもらわないと、なんのための立場よ」
「でも、幽霊嫌いだよ」
これまた余計を言って慌てて口を塞ぐ。




