これも性分(後編)
美奈子の慰めもあまりフォローされた気にならない。喜んでいいのか悪いのか、恥ずかしいやら照れるやら。はて、複雑怪奇の滋の心も、実は恋かもしれない。滋のその態度に花子が目を光らせる。彼女もまた他人の恋愛ごとには嗅覚が鋭いようで、
「なによ、そのうえ彼女持ち? 随分と幼い娘を連れてくれちゃって。子供でも恋愛ができるって言うつもり? いちゃいちゃしてくれて、これって私に対するあてつけかしら、ひどいわ」
嫉妬に駆られて嫌味を口にして、またまた背を向け落ち込んでしまう。
「彼女じゃないんですけど…」
滋が呆れて呟いても、
「ま、彼女って、いやん」
ふるふると震えながら喜んでいる美奈子があれば、説得力も何もない。
「恋人のいる人間の余裕かしらね。まったく嫌味だわ。彼女じゃないって言うなら、それじゃ何なのよ。娘とか言わないでよ」
「いえ、だから、あなたと同じで幽霊でして、それで僕は憑かれたといいますか、アドバイザーとして着いて来てもらったといいますか、とにかくそういう方です」
「私と同じ、幽霊?」
花子の首が美奈子へと向く。この日、始めて幽霊同士で対面すると、それはそれで滋の肌が粟立ってしまう。
「そんなに見つめて、何かしら?」
精神年齢二十九歳の美奈子の声は敵意むき出しでも不機嫌でもない。口元の微笑に遊び心を含ませながら、しかし眼光はおどけず隙がない。
「いや、その…」
花子も怯む。嫌な予感が走って滋が慌てて間に入ると、
「あの、こちら、名前を美奈子さんといいます。幽霊です。僕は弥生さんの仕事仲間といいますか、後輩の佐久間滋といいます」
突然紹介を始める。
「はじめまして~、花子さん」
便乗して挨拶する美奈子の態度に棘もない。愛嬌も陽気である。ただ陰気な花子には眩しすぎたようで、
「やっぱり恋人じゃない! 嫌味だわ!」
蹲って鬱に浸り始めると、その背中が震え出す。
「あ、やばい」
何が、と弥生に聞き返す間もなく、耐えに耐えきれなくなった花子は豹変する。
「きぃぃぃ! 口惜しい! あんたたちばっかり幸せいっぱいで! 私にもその幸せを分けなさいよ! 男よ、男! 誰かいい男、紹介しなさいよ!」
無茶苦茶に喚き出す。それも滋の襟首掴んで揺さぶって言う。突然の勢いに圧倒された彼は、
「え、あ、はい」
ついつい当てもない返事をして、すぐにその無責任を後悔する。滋は思う。これも性分かと。
続きます