これも性分(前編)
「とまあ、そういうことなのよ」
「それですぐに僕や誠司に連絡を入れたというわけですか」
「いやぁ、私としてもまだそれからしばらく頑張ったのよ。宥めに宥めて、これでもか、これでもかと彼女を持ち上げて、それで一瞬は興奮もおさまるんだけど、またすぐにぶり返して、また宥めてと、その繰り返しが続いたものだから、仕方無しに、一応は男の君たちに連絡を入れたというわけよ。あくまで最終手段よ。もう最後にはああやって背中向けて蹲ったまま動こうともしないんだから」
「一応は男って…」
「とにかく、何とか相手してあげてよ。何だか、花子さん、可哀想なのよね。これも行きずりの縁というやつかしらね、情が移ってそのまま放置という気にもなれないのよ。それに放っておいて、腹癒せに一般人に危害を加えるようなことになっても問題でしょ」
こう言われるだけ言われて、どう相手をすればよいとの指示は皆無。滋も困ってしまう。男は男でも花子の思い焦がれていた相手こそを彼女は望んでいるに違いない。この場を繕う為の、言うなれば人身御供とされて、まして顔の形が女のそれとさほど変わらない自分では、逆上を買いに行く自信ばかりがある。それでも一応は男、何も用意できないけれど、恐る恐る一歩一歩近づいていく。
「あの、すいません、一応、男が話を聞きにきました…」
弥生も背後より、
「花子さ~ん、男ですよ~。ご希望の男ですよ~、ちょっと女の子みたいな顔してますが、正真正銘の男ですよ~、女の子のような男、これって話相手にはうってつけかもしれませんよ~、だから機嫌直してくださ~い」
花子も振り返って泣き疲れた顔を滋に向ける。それがまたまさに幽霊とばかりに恨めしそうに見える。背筋を走るおぞましさに滋は思わず一歩後退してしまう。花子はさらに蹲ったまま首を横に傾けて、傾けたまま下から上へと滋を品定めして、何やらぶつぶつと呟く。まるで怨念を集めているようである。もっとも、怨念、呪い以上に、話による花子の性格、心の病に似た不器用さのほうが滋には怖い。彼の目には花子の成仏できないのもその性格が要因と見える。性格を変えて成仏果たせるならば、それは心理カウンセラーの仕事である。知識も経験もない素人が下手に触れては掻き乱すだけであろう。滋はますます気後れする。と、横目を使って美奈子を見やる。こちらが幽霊になった理由が改めてわからない。
「悪いけど、とても男の人には見えないわ。ほとんど女の子じゃない。頼りなさ過ぎて駄目よ」
滋の意識が逸れているうちに花子の品定めも終わる。それも随分な評価だことで。美奈子に好かれた後だけか何か口惜しい。普段から言われ慣れたものも、この時ばかりは心痛んで項垂れてしまう。
「いや、ちょっと、滋さん? そんなに落ち込むことはないわよ~ 傍目に頼りなくたって、芯が強いと知っている人はいるわよ~」




